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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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身体強化の魔術・練習

 風呂から上がり、体の水気を拭いてパンツだけを着用する。

 誰もいないので開放的な姿で脱衣所を歩き回り、涼しげな場所を探し当てる。


「あ、暑い......」


 とりあえず髪の水気を拭くだけ拭いて、人がいないことを確認し、火照った体を冷ますために椅子の上でへにゃりと座りこむ。


 しばらく休んでから髪を乾かし服を着て、ロビーへと舞い戻っていく。



「......帰ったな。あいつ」


 ロビーに戻っても誰もいなかった。


 念のために男湯の靴脱ぎ場を確認するが、デリバーの靴は見当たらない。一足だけ誰かの靴があるのみだ。


 デリバーがちゃんと帰ったことを確認できたので、持っていた財布を使って飲み物を買うことに。


(これも日本っぽいな)


 風呂上がりの牛乳。その容器もしっかりと瓶であり、蓋も懐かしいものとなっている。


 しかしアンナはコーヒー牛乳派である。「牛乳は邪道!」と己が道を歩んでおり、今回もそれに従ってコーヒー牛乳を買うことに。


 この世界の牛乳はほんの少し濃くて、色は白色で生前の世界とあまり大差ない。

 そしてコーヒー牛乳も一緒で、初めてネイさんと銭湯に行って飲んだ時に、味に違いがなくてホッとした思い出がある。


 お金を専用の機械に通し、コーヒー牛乳のアイコンを押すと受け取り口に運ばれる。若干違うが、これも立派な自販機である。


(多分、内部構造はまるっきり違うんだろうなぁ)


 この世界には魔術と魔法。そして魔力が世間に広がっており、未知の技術が所々使われている。


 見た目が一緒でも、中身は全く違ったり、見た目は似てるけど使い方が違ったりと、驚くべきことを多々目にしてきた。


 至るところで、しかも日常を通してこの世界の凄さを実感する。


 魔法や魔術。魔力という未知のパワー。見たこともない機械。

 日々の新しい発見が好奇心を刺激し、生きているということを実感させてくれる。


「明日は魔術の練習かぁ」


 コーヒー牛乳を一気に飲み干して、指定の場所に捨てて、適当な場所に座って明日やることを再確認する。


 この後はテントに戻って、ひたすら夜が明けるのを待つだけだ。

 その間、常に一人で起きていなくてはならない。


「今夜も頑張りますか......」


 もう少しゆっくりと座っていたかったのだが、受付をしていた管理人の方が店じまいの準備を始めてしまった。


 このままだと迷惑なのは目に見えているので、この日は大人しくテントに帰って、そのまま翌朝を待つことにした。




 〜〜〜翌朝。いつもより早い時間にデリバーが目覚めた。


「おはよう。早いね」


「あぁ......おはよう。何か目が覚めてなぁ」


 日が昇ってからまだ一時間くらいしか経っていない。


 ちょうど良いタイミングで帰って来れてよかった。

 辺りが明るくなると適当に歩き回って、帰ってくると彼が目覚めたのである。


「何か飲む?」


「水を頼む......」


「あいよ」と了承し、昨日汲みに行った水飲み場に向かって新鮮な飲料水を持ち帰ってくる。


 その間に着替えを済ませ、帽子を被って簡易的な身だしなみを整えていたようで、すっかり目が覚めた様子で「サンキュ」と礼を言ってくる。


 彼に水を渡して、テントから少し離れたところで深呼吸なり体をほぐすなりして、まるで老人の体操のような動きをする彼をキャンプチェアに座って眺める。


(何か様子が変だな)


 いつもはやらない行動に違和感を抱いていると、水を飲み終えてこちらに戻ってきたデリバー。

「さあ。やるか」と首を回し、アンナを連れてどこかへ行こうとする。


「やるって何を?」


 まさかと思いつつ、一応何をするのか聞いてみる。

 すると当たり前のように「決まってるだろ。魔術の練習だ」と言って、寝起きにも関わらず修行を始めようとする。


「いくら何でも早くない? それに周りの人たちに迷惑じゃ......」


 人が少なく、お互いテントが離れているとはいえ、他の人たちに迷惑ではないだろうか。そう思って不安気に尋ねてみるのだが「大丈夫だ」と特に説明もなしに始めようとする。


 仕方なく川の付近まで移動し、お互いに少し離れて向き合う。


 寝起きだというのに、デリバーの目つきや表情が真剣味を帯びている。

 いつもより尖った目つきにごくりと唾を飲み込み、自然と緊張しつつ「何をやるの?」と内容を聞いてみる。


「まずは身体強化の魔術。基礎中の基礎だが、そいつの説明を始める。よく聞け」


「お、おお......了解」


 口頭での説明が始まり、昨日聞いた話をもとに「身体強化の魔術」についてあれこれを教わった。



 身体強化の魔術。魔術ということは触媒を用いるということ。

 では何を触媒に発動させるのか。


「身体強化の魔術は己の魔力。エネルギーが触媒だ。まあ、正直魔術と言っていいのか微妙なんだが、一応そう分類されている」


 確かに己の魔力、つまりエネルギーを触媒にするなんて、魔法と大差ない。なぜ魔術に分類されているのか不思議だが、「そういうもの」として割り切るしかないという。


 続いて発動の方法。コツ。そして失敗時のデメリットをある程度教わった。


「発動するには、己に流れる魔力の流れを自覚する必要がある。ここから才能が関わってくる。才能が無い奴は、この時点でかなり厳しいな」


 つまり才能がなければ、そもそも発動すらできないか効果が微妙か。そのどちらかということだろう。



「お前はどうかな」という目で、説明しつつこちらを見ている。口にせずとも目を見ればすぐに分かる。

 その目に怖気つかず、「やってやる」と決意を込めて睨み返す。


「そうだな。まずはやってみよう。コツを教える。まずは手本だ」


 そう言って、こちらの意図を汲み取りつつ、手本として一発披露してくれることに。


 お互いに少しだけ距離をとって、アンナはデリバーの全身を隈なく見つめ、デリバーはいつものように地面に突っ立っている。


 果たして何をしてくれるのか。見逃しまいと注視し観察する。


「......いくぞ」


 彼の掛け声とともに、不思議と風が舞った。

 山を吹き抜ける風ではない。デリバーから流れてきた風だ。


 ではどうして風が流れてきたのか。それは彼の動きを見れば明白だった。


「と、跳んだ......」


 デリバーが高さ五メートルほどまで、一瞬で跳躍したのであった。

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