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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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魔術行使のメリット・デメリット

 デリバーの不敵な笑み。そして空になったコップと一気に無くなったお茶の関係性。


「な、なるほど......」


 ごくりと唾を飲み込む。


 つまり、例え魔力が多くても、うまく扱えず一度に大量消費すると簡単に無くなってしまう。そして、例え少量でも少しづつ使えば長持ちする。そういうことだ。


 それが何を意味するか。この時点でなんとなく察しているがために驚いているのだ。


「これが魔力の量について。そんで、魔術についてだが......。魔術は体の中の魔力を用いて、各々の適正に見合った術を行使する。俺は身体強化を基礎にして、別に二つくらい扱えるな」


「ふ、二つ!? それだけでもすごいんじゃ......」


 またもや驚愕する。未知の領域の話。そして、その領域の中に強者として君臨する男の語り。


 開いた口が塞がらず、それを隠すように無意識に口元を隠す。


 以前、マイルスが言っていたことを思いだす。

 一つだけでも魔術を極めたら立派。二つ以上はあり得ないと。


 それをデリバーは納めているのだ。


「一体どうして......」と胸の内に思い起こした疑問が、するりと喉を通って言葉として口から出てきた。


 その発言を聞いたデリバーは、何がおかしいのか鼻で笑い、彼の昔話を聞かせてきた。


「俺がいた学園は化け物揃いでな。才能の塊やら個性の巣窟やら......。家柄もあったな。あの学園で生きるとは、才能を持ってないとそもそも無理ってな」


 何かに対して思うところがあったのか、再び嘲笑う。魔術について稚拙なアンナを馬鹿にしている感じではない。


 目線を下に向けて、首を横に振って肩をすくめる。何か嫌な思い出か、もしくは恥ずかしいこと。とにかく彼にとっては笑いたくなるようなことを思い出したのだろう。


 顔を上げていつもの様子に戻って、魔術についての解説を続けた。


「そんで、話を戻す。俺は身体強化の魔術を、魔力量を完璧にコントロールし、常に最善の方法で戦っている。初めて会得した技でな。基礎を極めても強いってわけだ」


 自慢げでもなく当然のごとく、淡々とすごいことを語るデリバー。

 それが戦術「ブラックバード」というわけだ。


 基礎と言われる身体強化を極めただけで、数人に囲まれても簡単に薙ぎ倒せてしまう。


 初めて「ブラックバード」を見た時、野生動物のように素早い動きや敏感な反射神経によって攻撃や防御を行なっているのを目にした。


 そして鳥のように高く舞い上がって、そこから降下して敵を勢いよく飛ばしていた。


 色々とすごいのは確かだが、その裏には多くの努力が隠れているに違いない。

 そのことを指摘すると、「その通り」と答え、ウンウンと頷かれる。


 続いて真剣な眼差しで、今度は魔術の危険性について教えてくれた。


「ただ......。体に流れる魔力の扱いを間違えると、さっきみたいに一気に魔力が無くなってぶっ倒れるか。もしくは、暴走や体の一部が反動で内側から吹っ飛んでいく。だから魔術の扱いは学びがないとできないんだ」


 例えのつもりなのか、己の目を右手で指さして、その右手をグッと閉じてパッと勢いよく広げる。


「ひえ......。お、恐ろしい」


 今の例えからして、体の一部が反動で吹っ飛ぶというのは、「眼球がぶっ飛ぶ」ことがあるということだろう。


 それだけではないはず。「目」という唯一無二の臓器が吹っ飛ぶなら、おそらく他の臓器も同じ。


 魔術の行使に大きく失敗すると、体の主要な部分が持っていかれる。


「......分かった。つまり魔術の扱いを大きく間違えると、『肉体』が代償として持ってかれるんでしょ?」


 魔法は神秘の再現。そして魔術は触媒を使った術。

 その違いは色々とあるが、「触媒の有無」がその一つに違いない。


 今まで集め聞いた情報から考察をし、デリバーに伝える。

 答え合わせはどうかというと、「八割あっている」と言われた。


 足りなかった残り二割について、補足説明を挟んでくれる。


「代償として肉体が持っていかれるっていう着目点はいい。そこがミソだ。魔術の行使に触媒が必要。そして生物の主要器官には多くの魔力が集まりやすい。では暴走した魔術を無理に発動してしまった術者は、それを制御するためにより多くの触媒と魔力を必要とする。つまり......」


「自分の臓器を触媒にする?」


「そうだ!」


 最後まで言わせる前に自身で答えを口にする。

 それがどうやら正解だったようだ。


 デリバーが「褒美だ」とお皿に何かの燻製肉を乗せてくれる。ちなみにこの燻製肉は中々の値段をしていた。


 確かに褒美だと思い素直に受け取りつつ、「なんか思ってたよりエグいね」と正直な感想を伝えた。


「ああ。魔術は便利だが扱いが難しい。まるで簡単に扱うことを許さない。神様が人間に使うことを許していないのに、人々が無理やり扱っているように感じるもんだ」


「人間に使うことを許さない?」


 確かに魔術の行使に対するデメリットが遥かに大きすぎる。


 使えば力になるが、失敗すれば最悪なケースで臓器を失う可能性もある。それが魔術である。


 その反対に位置するともいうべきなのが「魔法」。効果に関して言えばしょぼいと感じるが、それは「戦闘」に関して言えばの話だ。


 魔法そのものは火をつけたり、水を流したり、電気を走らせたり、全ての基礎のような存在として世に出回っている。


 そして注ぎ込む魔力を大きくすれば、小さな風が大きな突風にだって化ける。


(なんか......。製作者の意図? そんな何かを感じるな)


 陰謀論めいた考え方だろうか。魔法と魔術の関係や仕組みに対し、それなりに知識を取り入れた今。そうとしか思えない、どこかぼんやりと「意思」を感じるのだ。


「そうだな。明日、お前に身体強化の魔術を少し叩き込む。朝早くに起きて、チェックアウトの時間までの少しの間だけやるぞ」


「え......。りょ、了解」


 魔術が扱えるかどうかを聞いたのはアンナだ。

 まさか手解きを早々に下さるとは思っておらず、しかし好機なのは確かである。


 素直に頷いて、さっきもらった燻製肉をパンに挟んで一口ずつ、ゆっくりと食べていった。

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