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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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魔術についての知識

 夕飯のためにキャンプ場の食堂にやってきた二人。


「なんかいい匂いがするね」


 料理の匂いが満ちている小さな食堂。数少ない席を、数少ない客が埋めていた。


 それにお風呂上がりの人間が漂わせる独特な匂いが、座って食べている先客の方々からすれ違いざまに漂ってくる。


 隣の風呂で先にさっぱりしてから、ここへ食べにくる人がほとんどということだろう。


「なるほどな。だから洗い立ての人間の匂いが......」


「獣視点の言い方だよそれ」と、食堂の中で鼻をピクピクと動かすデリバーを肘で突っつく。


「ツッコミどうも。さあ、とにかくだ。座ろうぜ」


 店内に入っても店員の案内はない。自由に座れということだろう。

 彼の後をついていき、適当な席に座る。



 晩飯を食べにきた小さな食堂。名前は「ナポリのグリル」というらしい。ナポリさんという方が作ったのだろうか。


 こじんまりとしたところで、内装は木で統一されており、観葉植物が所々配置されている。


 カウンター席とテーブル席に分かれていて、アンナたちはすみっこのテーブル席を使うことにした。


「やっぱり少ないね」


 テントを張った時やキャンプ場を歩き回っていた時にも思っていたのだが、宿泊者が全くいないのだ。


 テントは三つくらいしか目撃しておらず、当初は営業しているのか不安にもなった。


「まあ、街の状況が状況だしな。それに今は寒い。シーズンオフのキャンプ場に来るやつなんて物好きくらいだ」


 その物好きがアンナたちというわけだ。


 正直、人と過度に触れ合うのは苦手なので、こうした人気(ひとけ)のない自然は好物である。

 シーズンオフの良いところはそこだろう。


 悪いところは、陽が落ちると冷え込むこと。アンナはともかく、デリバーに申し訳ないと思っていたが、彼曰く「旅慣れてるから大丈夫」らしい。


「よし! いつもみたいな感じでいいか?」


「お願い」


「いつもみたいな感じ」で、メニューに載っているものを適当に注文する。


 他にお客さんの数が少ないので、手を挙げると即座に店員さんが来てくれた。


 デリバーが注文を取っている間、店内の雰囲気や他の客について観察するようにジロリと眺めて見る。


 街の近くにあるキャンプ場ではあるが、彼らの風貌や設置されたテント、そして時々すれ違う人たちの雰囲気や会話の様子から、恐らくほとんどが外部から来た客なのだろう。


 街には入らず、自然を楽しむのが好きな旅人といったところだろうか。そういう生き方もありだなと思いつつ、時々漂ってくる、お風呂上がりの人間が放つ香りが鼻をこそばゆく感じさせる。


「んっ......んん。ムズムズする......」


 鼻をピクピクと動かし、時々指で鼻を触る。

 その様子を見て何かを思い出したのか、「おおそうだった」と言ってこちらを見てくる。


「そういえばここの入浴施設。利用時間は覚えてるか?」


「日付が変わる一時間前までやってるよ。その三十分前に行くつもり」


「なら俺も一緒に行く。けどもうちょっと早めに行かないか?」


「まあ、いいけど」


 料理がやってくるまでの間、食堂の隣にある入浴施設の利用について相談を進める。入浴施設についての説明は、このキャンプ場にチェックインするときに聞いた。


 費用は高くない。リーズナブルな値段だった。なので所持金との相談は必要ない。

 そもそも、入浴一回に高額な値段を請求する方がおかしいとは思うが。


「決まりだな。今日はゆっくり休むぞ〜」


 首をぐるぐると回してどこかの凝りをほぐすデリバー。旅人といえど今後の生活のため、仕事は必要である。その疲れが体を蝕んでいるのは、目で見てわかる。


「後で揉んであげる」と声をかけたり、その後も他愛ない話を進めたりし、料理が来てからも適当に会話を進める。

 その会話の途中。ふと、アンナは気になったことを聞いた。


「そういえば......。魔術ってウチにも使える?」


「ん!」


 口の中に含んでいた食べ物を水で飲み込み、ジッと観察するような目でこちらを見てくる。


 なんと答えようかと考えているのだろうか。少々困惑している様子を見せつつ、思い切って教えてくれた。


「まあ、正直にぶっちゃけるなら、お前の適正がわからんからなんともいえない。基礎の教えくらいならできるが......。才能と努力が絡む世界だな」


「つまり、ウチにも一応使えると?」


 再確認すると、腕を組んで難しい表情を浮かべてコクリと頷く。


「俺が使う身体強化の魔術。あれは学があるやつなら基礎として学ぶもんだ。無論、お前も学べば使えるが.....。そうだな。とりあえず、体の中を巡る魔力のコントロールについて説明する」


 腕を解いて手持ちから何かを探したり、机の上を見渡したりし始める。そうして良い物を見つけたような目で、コップを持って中に入っているお茶を指さした。


「お茶がどうかしたの?」


「まあ、例え話だ。このお茶がお前の魔力。コップがお前の体だと思え」


「ふぅん?」と納得いかないという感じで反応しつつ、奇妙な例え話を聞くため、耳を傾けた。


「まず、魔力ってのは己の体に宿るエネルギーだ。この世界の()()()()()()宿っていて、自然と抽出し練ることで様々なことができる。そんで、それを内包するのがこのコップ。つまり体だ」


 魔力は生物の体に宿る。そして用途によって様々な使い道がある。その力を内包するのが体という器。ということだろう。


「地域によっては神の力。称して『神力』だの、霊の土着信仰が強い地域だと『霊力』だの、地方によって呼び方が変わる」


「何か違いがあるの?」


 言葉だけで聞くと物騒な感じに聞こえるが、どうやら本質は同じらしい。

 彼曰く「確かに少し違和感はあるが、根本的には同じ」と、納得できるようなできないような答えだった。


「根本的に同じ? 違和感?」と不思議に思う点は多いものの、それ以上掘り下げることもなく話を進めるので、一旦忘れて耳を傾けた。


「しかし体が大きいからと言って魔力が多いわけじゃない。俺のコップとお前のコップ。その中身がお互い違うように、生物によって魔力の残存量は変わってくる」


 デリバーが自分のコップとアンナのコップを指さした。お茶の内容量はアンナの方が少なく、デリバーの方が多い。


 二つの中身。つまりお茶の量は当たり前だが違う。

 なるほど。わかりやすい例だ。


「でも量が多いからといって、大雑把な使い方だと......」


 デリバーがコップの中のお茶を一気に飲み干した。アンナよりも多めにお茶が入っていたのに、あっという間に無くなっていく。


 そして空になった器を指さし「こういうことだ」と言って、ニヤリと不敵に笑った。

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