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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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首無し死体・束の間のキャンプ

「う、動いた......?」


「う、嘘じゃない! あとで映像を見たんだが、あれは確かに動いていた!」


 次第に両手が震えていくナットさん。

 その震えを抑えるかの如く勢いよく立ち上がり、「悪い。この話はこれでやめよう」と言う。


 手の震えや表情から察するに、よほど衝撃的で恐ろしい印象だったのだろう。


 余計な思いをさせてしまった。

 アンナはゆっくりと立ち上がって、誠意をこめて「ありがとう。ごめんなさい」と言う。


「近頃物騒だ。お前さんも気をつけなよ」


「そちらこそ」


 最後はお互いに苦い思いをせず、手を振って別れることができた。


「......」


 ハンターのナットから聞いた話は衝撃的なものだった。


 口止めされていると言っていたということは、ギルドの皆は知らない情報だろうか。


(おしゃべりな人でよかったな......)


 ハンターズギルドを通して情報伝達くらいはされていそうだが、とりあえず最新の情報を知ることができてよかった。

 何気ない会話から思わぬ収穫を得たようだ。


(ちょっと聞いてみないとな)


 今きいた話をデリバーに聞いてもらい、考えを共有したいところである。


 とりあえず、両手に水筒を持ったまま、自然に囲まれた道を足早に歩いて、テントが張ってある場所へと向かった。


 その道中、頭の中ではナットというハンターから聞いた話について、色々と考えが渦巻いていた。


「首無し死体が動く......」


 アンナの目の前で亡くなったハンター。時期や死体の状態からして、首無し死体とは彼の遺体のことだろう。


 それが動き出した。たったの数歩だけ動いたようだが、ナットさんの反応が示すように、この世界ではどのような神秘を用いても死体が動くことはありえないのだろう。


 ゾンビやヴァンパイアとか、そういった存在は生前の世界と同様、やはり存在しない架空のキャラクターなのは間違いない。


 この世界に住んで少し経つが、日常的にそのような単語を聞いた覚えもなく、少なくとも目にした童話などの物語でも存在が語り継がれていなかった。


「でも......う〜ん」


 存在は語り継がれていない。

 しかし首無し死体が動くなど、どう考えても「ゾンビ」としか思えない。


 いくら考えようとも、自分一人の頭じゃ何も思いつかない。


「......おっと」


 目の前に広がる水溜まりを左に避けて、公園にあるような面積の大きい階段を一段一段、転ばないように注意して降りていく。


 七段くらい降りたところで、目の前には広大なキャンプ場。やっと目的地に到着した。


 水を汲みに行ってどれくらい経ったのかわからないが、かなりの間デリバーを待たせてしまった。


 遅れてしまったことを謝り、汲んできた水を渡すために自分たちのテントに戻るも、彼の姿はなかった。


(あっ。全部食べたんだ)


 残っていた最後の一匹も既に食されていて、ゴミが袋の中に入れられ、一箇所にまとめられている。


(どっか行ったのかな?)


 とりあえずテントに潜って、デリバーの水筒をポンっと置いておく。


 中をよくみると、釣り道具が一式無くなっている。

 どうやら魚釣りに行ったらしい。リベンジに燃えているのだろうか。


「さてと......」


 彼がいないのなら仕方ない。二人でキャンンプ場周辺を歩き回ろうと考えていたのだが、いないのなら一人で行っても構わないだろう。


 そう思い立って、水筒を肩掛けカバンの中に入れて、そのバックを肩にかけてテントから這い出てきた。


(まずは高台に行くか)


 キャンプ場の地図は総合管理所でもらった。よくある片手に収まるサイズの、折り畳んである縦長の紙である。それを広げることでここらの地形が把握できる。


 早速広げて高台の場所を把握し、目的地に向かってゆったりと歩き始めた。




 このキャンプ場は「ウォールキャッスル」の周辺にあり、気候に大した変化はない。


 最低気温は氷点下目前か、もしくはマイナスまでいっているかもしれない。


 普通の人間なら肌寒いこと。昼間は上着を一枚羽織るとちょうど良く、夜に出歩く時は着こまないと寒いくらいだ。


 アンナは昼間はシャツ一枚で耐えられる範囲だ。しかし雪が降るかもしれないくらい冷え込む夜は、上着をきた方が身の為である。


 今はそこまで寒くはない。しかし山の麓にある場所なので、時々溶けきってない雪を目にすることはある。

 つまり油断してはならないというわけだ。


「うおっ......風が......」


 高台に登ると、遮蔽物に遮られることなく、自然元来の強さを保った風が吹きつけてくる。

 帽子をかぶっていると吹っ飛ばされること間違いなしだ。


「うわっ......。こんな高かったんだ......」


 しかしキャンプ場から見えた景色は予想を超えるものだった。


 目的の街「ウォールキャッスル」に来る道中、野営した場所で同じような景色を見たことがある。

 恐らく今見ているのも同じ景色だろう。見るべき場所。つまり視点が違うだけだ。


「視点が違うだけでこんなに......。変わるんだなぁ」


 周りに客はいない。存分に吹き荒れる風の中、アンナは柵に体重を乗っけて、以前も見た景色をじっと見ていた。




 その後はキャンプ場の施設を見て回って、小さな銭湯があることやちゃんと営業していること。その隣に食堂もあったことを確認して、一度テントのある場所に戻った。


「ただいま」


「おう、お疲れさん。どこに行ってたんだ?」


 テントの中でリュックを枕にして寝ていたデリバー。

 アンナが帰ってきて、体を起こし何をしていたかを尋ねてくる。


 素直に行った場所や何があったか。その経緯を大雑把に説明した。


「なるほど。ハンターと会ったのか......。それに風呂の営業時間も見てきてくれたか。よくやった!」


「じゃあお風呂は入るんだ。お金、大丈夫?」


 バックの中の財布を確認するまでもなく、デリバーが満面の笑みで親指を突き立てる。


「当面は贅沢できるくらい金はある。スカイジャンクションで受けてきた二つの依頼。それらのお陰ってな」


 デリバーが選んできた二つの依頼。それらがかなり財布の足しになったようだ。


 甘えるようで申し訳ない。アンナもこの街でこなした地味な依頼の積み重ねで得た、ちっぽけなお金で何かしなくてはという気持ちになる。


(風呂上がりの牛乳とか、ああいった感じのやつでいいかな......)


「さて相談だ。さっき俺は釣りに行って、一匹も釣れなかった。このまま粘って夕食を魚にするか、それとも食堂にするか。選んでくれ」


 究極の選択を押し付けられた。どっちみち、お金の出どころはデリバーの財布だ。


「えっ」と声を漏らし、「うう〜ん......」と喉を唸らして思案する。


 悩みに悩んだ結果。とりあえず魚を調達するという選択を選んだ。

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