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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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キャンプ場での出来事

 デリバーの後を引き継ぎ、小一時間ほど釣りを楽しんでいたのだが、その間に六匹は釣ることができた。


 と言っても、ほとんどが小さな魚だったのでリリースし、残った大きな魚三匹を調理することに。


「ほい。イッピーくんとニッゴーくんだよ。サッピーちゃんも焼く?」


「魚に名前つけてんのか......? ま、まあそうだな。焼くか」


「よろしく(この冗談は通じなかったかぁ)」


 困惑するデリバーにお魚三匹を受け渡し、そのままテントの中に潜って寝っ転がる。この後はひたすら時間を潰すだけだ。


 どうしようかなと考えつつ、そういえばゆったりと自然を楽しむことができたなと思い、景色を見ることに。


 テントを出て、釣りの時に使っていたチェアを運んで、池の近くに置いて景色をぼーっと見てみる。


「......いい匂い」


 魚の焼ける良い匂いが漂ってくる。この匂いに釣られて誰かやってきそうだ。


 旅の道中では状況によって、その日の寝床や飯も選ぶ必要があった。

 例えば依頼のために荷運びをし、襲撃者が迫っていると感じた時、火を使うと目標になる。ネイさんと一緒に街を出たあの時、大きな痕跡を残すのを極力避けるよう、道中で二人に教え込まれた。


 そして大きな獣が近くを漂っているとわかった時。そんな時は獣の食欲をそそる臭いを発する行為は禁物だ。


 なので、こうして焼き魚を食べる機会は非常に少なかった。

 森の中にいた時、最初は思うがまま生活していたので、度々獣に襲われたことを思い出す。


「そんなこともあったなぁ」


 無論、大きな獣とやり合っても勝てなかったので、遭遇した暁にはボコボコにされた。


 もっとも、一度の失敗から、獣に気づかれないように知恵を振り絞っていたため、それ以降は遭遇することが片手で数えられるくらいだった。


「できたぞ〜!」


「今行く!!」


 椅子を持ってテントの方へと駆け寄る。

 デリバーが焼いてくれた魚。塩焼きにしたらしく、良い焦げ目がついていて、見てるだけでよだれが出そうになる。


「そんなに目をキラッキラにして......。お前、大雑把な料理が好きなんだな」


「そんな目してた? あはは、そうかもねぇ」


 豪華な料理もたまには良いが、こういった焼くだけの飯だってうまい。


 特に、魚に串をぶっ刺して焼くだけのこれは、趣があり食欲をそそる。


「それじゃあこのイッピーくんをいただきます!」


「そいつは二匹目だ。俺もいただきます」


 二人でヒョイっと、地面に刺して焼いてある魚を手に取り、少し覚ましてからパクッと一齧り。


 焼きたてなのでいうまでもなく熱いが、口の中で冷まして次々といただく。


 普段はあまり飯を食べられないアンナでも、まるまる一匹を綺麗にいただいた。


「そのあまりも食べるか?」


「いや、大丈夫。喉乾いたし、水でも汲んでくるよ」


 じっくりと魚を食しているデリバーを置いて、アンナは飲料水を組むために水筒を持って移動した。




 キャンプ場の整備された道を歩き、総合管理所のすぐ近くにある施設へ水を汲みに行く。


「ぷはぁ!」と水筒に組んだばかりの一口をいただいて、デリバーの分も水を補充する。


 ついでに顔を少し水で洗い、気分をリセットした。


「ふぅ。生き返るなぁ」


 心を痛めた時こそ、自然に身を置いて休めるのは悪くない選択肢だ。


 生前も傷心中だったり、身も心も手一杯になったりした時、都会にある緑豊かな公園をひたすら歩いて、飯を食べて休めていた。


「.......」


 蛇口を捻って水を止めて、濡れた両手の水を払いながら思いふける。


 家族が亡くなった時のこと。そして仕事仲間の身内を亡くしてしまった今の状況。この二つを勝手に比べる。


 確かに悲しい。家族が死んだ当日の夜は涙が枯れることはなく、延々と泣いては気づけば眠っていた。


 そして時間が経つ内に、家族を失った痛みは小さくなっていった。亡くなった家族が「思い出」になるのは、そう遠くない話だった。


 恐らく、ロウを失ったことに対するアンナの気持ちだって、「あんなことあったな」と思い出に変換されるだろう。場合によっては忘れるかもしれない。


「......忘れるもんか」


 その為に託されたノート「アンナ・ライブ」があるのだ。忘れてはいけない。


 今も苦しむマイルスのためにも、守れなかった後悔を錆びさせてはいけない。


「よし。絶対、見捨てないから!」


 水筒を強く握りしめ、マイルスを見捨てないと力強く声にして誓った。


 その時、背後の草むらからガサガサと音がしたので、ビクッと体が震えて、思わず振り返る。


 今の宣言を聞かれていたのかと思い、顔を隠すように物陰に隠れて様子を窺っていると、肩にライフル銃をかけて携帯している迷彩柄の男が、膝ぐらいまである茂みを踏み歩いて森の奥から出てきた。


「ふいぃ〜、ひどい目にあったぜ......」


 声の調子からして、四十代くらいのおじさんだろう。顔に浮かぶ皺の具合からもそう見て取れる。


 おじさんは帽子を脱いで、帽子の形にへっこんだ黒い白髪混じりの髪を片手でほぐし、真っ直ぐとこちらに向かってきた。


 汚れた顔や手を洗いたいのだろうか。意図はわからないが、このままだと遭遇する。


 急いで離れようと立ち上がって、堂々と姿を晒してその場を離れようとしたところ、お互いに視線がばっちり交差してしまう。


 数秒間、お互い立ち止まって見つめ合う。


 なんだかここで無視して移動するとあまりに無愛想で、その場限りの関係でもそんな対応はしたくないので仕方なしに足を止めた。


(......旅先で話を聞くのも、一つの醍醐味かな)


 無理やり心の中で自分を都合よく説得し、ニコッと不器用に作り笑いを浮かべる。


 するとこちらの顔を見て、優しくニコッと笑い「強張っとるでぇ」と穏やかな声色で言ってきた。

 声の調子からも優しい方だと分かって安堵し、「あはは、すいません」と申し訳なくなり謝る。


 そして胸に手を当てて、ハッキリとした口調で自己紹介を始めた。


「ウチはアンナ。旅人です」


「おお、旅人ときたか! 変なところであったが、これも何かの縁。ちょいとまっとき!」


 おじさんが手やら顔やらを洗って、「ふぅ」と一息ついて、ライフルを担ぎ直し総合管理所へと向かっていく。


 今すぐに戻りたいところなのだが、待てと言われた以上は待っていた方が良いだろう。


 両手に持っている水筒を蹴らないような場所に置いて、彼が戻ってくるのを待っていた。

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