適度に向き合え
「なるほどな......」
全てを知ったデリバーは、アンナの横に座って、腕を組んで眉を寄せて黙り込む。
困惑しているのだろうか。仲間を見殺しにしたことを不快に思ったのだろうか。
今の話を聞いてどう思ったのか。不安になってきて、キュッと目を瞑る。頬をはたかれるなり、頭を叩かれるなり覚悟を決める。
「あ、あの......」
うっすらと目を開けて、目線を合わせないように顔を見て、弱々しく彼を呼びかける。
しかし不安な思いとは裏腹に、にっこりと柔和な笑みを浮かべ、まるで仏様のように静かに笑みを浮かべていた。
その笑顔の意味がわからず首を傾げる。
「人を助けられない後悔。こんなご時世じゃ誰だって経験するだろうさ。生きて帰ってきた。それだけでお前は頑張ったよ」
仲間を助けられなかったことを責めるかと思いきや、なんと生きて帰ってきたことを褒めてくるデリバー。
首を横に振って、手をぎゅっと握りしめて俯きボソッと呟く。
「......いらないお世辞。よしてくれ」
卑屈がちになるアンナを見て、困惑した目つきとなる。
彼を困らせてしまったと自覚し、両手で顔をおおって自分の殻を形成し塞ぎ込む。
しかし諦めず、今度も優しい声色で語りかけてくれる。それが救いとなり、同時に申し訳なくなってしまう。
「そんなつもりで言ったんじゃない。本当のことを言っているだけだ」
「顔を上げろ」というのでゆっくりと上げてみる。
すると、ネイさんと同じような、あの優しい笑顔を浮かべていた。
優しいだけじゃない。あの表情はどこか、共感しているような感じがする。
先ほどの静かな笑みは、どこか作り出された感があった。
しかし今回のは、自然と出てきた笑顔だ。時々、目を逸らすように斜め下を見て、何かを考えるような顔もしている。
ふと先程の発言を思い出す。
(こんなご時世じゃ誰だって経験する......)
デリバーの過去は以前に少しだけ聞いた。しかしそれが彼の全てではないだろう。
彼がアンナの全てを知らないのと同じ、話していないだけでデリバーも辛い経験をしているに違いない。
だというのに、彼は強い。身も心も強い人間だ。
「おっと、辛気臭いままじゃ休めないよな。そうだなぁ......。気分転換に酒でも飲むか?」
ベッドから立ち上がって、アンナが避けていたことを勧めてくる。
「えっ。でも......」
人が死んだというのにそんなことできるわけない。
そう思って首を横に振ったのだが、「考えすぎるな」とアンナの肩を優しく叩いてきた。
「辛い時にさらに落ち込んでたら心がもたないぞ。俺なりの人生の教訓だ。辛いことから逃げるんじゃなく、さりとて抱え込みすぎるな。適度に向き合え!」
「適度に向き合え......」
かなり大雑把な教訓だが、その意見を否定できるほど見合った持論は持ち合わせていない。
甘えかもしれない。マイルスなんてアンナ以上に苦しいはずなのだ。だというのに、自分は救われて良いのかと。
しかしデリバーの言うことは間違いじゃないと思う。
彼もそうやって辛いことから乗り越えたのだろうか。仲間が死んでいくような、過酷な環境で生きてきたのだろうか。
想像しかできないが、人生経験の濃さは彼の方が圧倒的に上だろう。ただの会社員をしていた自分と違って。
「......分かった。でも、少しだけ」
その言葉を信じて、小さくコクリと頷いた。
「おう! それじゃあ、買いに行くぞ」
アンナの元気がないのを考慮してか、宅飲みをやるつもりらしい。
それなら人目を気にする必要もないうえ、気楽に二人で楽しめる。
「うん」と頷いて、手に持っていたコーヒーを一気に飲み、マグカップをテーブルの上に置いた。
一応財布を持ち、デリバーの後ろをついて行き、部屋を出て夜の道を歩き始めた。
身内が死んだ時の悲しみ。それは親しい人であればあるほど大きくなる。
「......」
マイルスは一人ぼっちで、アンナが頼んだ死体処理班の人々が到着し、遺体を運んでいる間。
死体処理班がいなくなった後、ロウが死んだ場所でぼーっと突っ立っていた。
初めての感情だった。実の親の顔は生まれた時から知らず、幼い頃は孤児院にいた。
三歳ほどになった時。ロウに拾われて、祖父と孫のような関係で育てられてきた。
たとえ血が繋がっていなくても、あの老人は立派な父親だった。
「......ジジイ。オレ、どうすりゃ......」
左手に握っている、血に濡れたロウから受け取った銃。それを見て、ロウの最期を思い出す。
銃を渡そうと必死に手を伸ばしながら、何かを伝えようと口を動かそうとしていた。
しかし命の尽きる時間が先に来てしまい、最後まで伝言を聞くことができなかった。
伝言も聞けず、受け取ったのは銃だけ。これから何をすれば良いのかもわからない。
いつも彼に助けられてきた。だから、いなくなった時のことなんて考えてもいなかった。
歳による病気で別れるなど、そのような妄想をしたことはある。そんな時、自分は立派に成長し、ロウの魔術を完璧にマスターし、彼の意思を継いで立派になっているのか。そんな想像をしていた。
だから、突然いなくなるなんて考えたことも無かった。
「......あの時、誰かいた」
ロウの最後の戦闘。その時の状況を振り返る。
暗い世界。そこに飲み込まれ、疲労困憊の状態でロウは深手を負い、マイルスにも攻撃が飛んできた。
つまり誰かがいた。
どうしてマイルスとロウを狙ったのか。その理由は全くわからない。
「オレ.......はどうしたらいいんだよ......」
胸の内に悲しみが蔓延する。その悲しみ、もしくは憎しみだろうか。それがまるで無数の針となって心臓を突っつくような感覚だ。
「痛い......」
マイルスは誰もいない現場で頭を抱えてうずくまり、胸を抑えて乱れる呼吸をなんとか整えた。




