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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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適度に向き合え

「なるほどな......」


 全てを知ったデリバーは、アンナの横に座って、腕を組んで眉を寄せて黙り込む。


 困惑しているのだろうか。仲間を見殺しにしたことを不快に思ったのだろうか。

 今の話を聞いてどう思ったのか。不安になってきて、キュッと目を瞑る。頬をはたかれるなり、頭を叩かれるなり覚悟を決める。


「あ、あの......」


 うっすらと目を開けて、目線を合わせないように顔を見て、弱々しく彼を呼びかける。


 しかし不安な思いとは裏腹に、にっこりと柔和な笑みを浮かべ、まるで仏様のように静かに笑みを浮かべていた。

 その笑顔の意味がわからず首を傾げる。


「人を助けられない後悔。こんなご時世じゃ誰だって経験するだろうさ。生きて帰ってきた。それだけでお前は頑張ったよ」


 仲間を助けられなかったことを責めるかと思いきや、なんと生きて帰ってきたことを褒めてくるデリバー。

 首を横に振って、手をぎゅっと握りしめて俯きボソッと呟く。


「......いらないお世辞。よしてくれ」


 卑屈がちになるアンナを見て、困惑した目つきとなる。

 彼を困らせてしまったと自覚し、両手で顔をおおって自分の殻を形成し塞ぎ込む。


 しかし諦めず、今度も優しい声色で語りかけてくれる。それが救いとなり、同時に申し訳なくなってしまう。


「そんなつもりで言ったんじゃない。本当のことを言っているだけだ」


「顔を上げろ」というのでゆっくりと上げてみる。


 すると、ネイさんと同じような、あの優しい笑顔を浮かべていた。


 優しいだけじゃない。あの表情はどこか、共感しているような感じがする。


 先ほどの静かな笑みは、どこか作り出された感があった。

 しかし今回のは、自然と出てきた笑顔だ。時々、目を逸らすように斜め下を見て、何かを考えるような顔もしている。


 ふと先程の発言を思い出す。


(こんなご時世じゃ誰だって経験する......)


 デリバーの過去は以前に少しだけ聞いた。しかしそれが彼の全てではないだろう。


 彼がアンナの全てを知らないのと同じ、話していないだけでデリバーも辛い経験をしているに違いない。

 だというのに、彼は強い。身も心も強い人間だ。


「おっと、辛気臭いままじゃ休めないよな。そうだなぁ......。気分転換に酒でも飲むか?」


 ベッドから立ち上がって、アンナが避けていたことを勧めてくる。


「えっ。でも......」


 人が死んだというのにそんなことできるわけない。

 そう思って首を横に振ったのだが、「考えすぎるな」とアンナの肩を優しく叩いてきた。


「辛い時にさらに落ち込んでたら心がもたないぞ。俺なりの人生の教訓だ。辛いことから逃げるんじゃなく、さりとて抱え込みすぎるな。適度に向き合え!」


「適度に向き合え......」


 かなり大雑把な教訓だが、その意見を否定できるほど見合った持論は持ち合わせていない。


 甘えかもしれない。マイルスなんてアンナ以上に苦しいはずなのだ。だというのに、自分は救われて良いのかと。

 しかしデリバーの言うことは間違いじゃないと思う。


 彼もそうやって辛いことから乗り越えたのだろうか。仲間が死んでいくような、過酷な環境で生きてきたのだろうか。


 想像しかできないが、人生経験の濃さは彼の方が圧倒的に上だろう。ただの会社員をしていた自分と違って。


「......分かった。でも、少しだけ」


 その言葉を信じて、小さくコクリと頷いた。


「おう! それじゃあ、買いに行くぞ」


 アンナの元気がないのを考慮してか、宅飲みをやるつもりらしい。

 それなら人目を気にする必要もないうえ、気楽に二人で楽しめる。


「うん」と頷いて、手に持っていたコーヒーを一気に飲み、マグカップをテーブルの上に置いた。


 一応財布を持ち、デリバーの後ろをついて行き、部屋を出て夜の道を歩き始めた。




 身内が死んだ時の悲しみ。それは親しい人であればあるほど大きくなる。


「......」


 マイルスは一人ぼっちで、アンナが頼んだ死体処理班の人々が到着し、遺体を運んでいる間。


 死体処理班がいなくなった後、ロウが死んだ場所でぼーっと突っ立っていた。


 初めての感情だった。実の親の顔は生まれた時から知らず、幼い頃は孤児院にいた。


 三歳ほどになった時。ロウに拾われて、祖父と孫のような関係で育てられてきた。

 たとえ血が繋がっていなくても、あの老人は立派な父親だった。


「......ジジイ。オレ、どうすりゃ......」


 左手に握っている、血に濡れたロウから受け取った銃。それを見て、ロウの最期を思い出す。


 銃を渡そうと必死に手を伸ばしながら、何かを伝えようと口を動かそうとしていた。

 しかし命の尽きる時間が先に来てしまい、最後まで伝言を聞くことができなかった。


 伝言も聞けず、受け取ったのは銃だけ。これから何をすれば良いのかもわからない。

 いつも彼に助けられてきた。だから、いなくなった時のことなんて考えてもいなかった。


 歳による病気で別れるなど、そのような妄想をしたことはある。そんな時、自分は立派に成長し、ロウの魔術を完璧にマスターし、彼の意思を継いで立派になっているのか。そんな想像をしていた。


 だから、突然いなくなるなんて考えたことも無かった。


「......あの時、誰かいた」


 ロウの最後の戦闘。その時の状況を振り返る。

 暗い世界。そこに飲み込まれ、疲労困憊の状態でロウは深手を負い、マイルスにも攻撃が飛んできた。


 つまり()()()()()


 どうしてマイルスとロウを狙ったのか。その理由は全くわからない。


「オレ.......はどうしたらいいんだよ......」


 胸の内に悲しみが蔓延する。その悲しみ、もしくは憎しみだろうか。それがまるで無数の針となって心臓を突っつくような感覚だ。


「痛い......」


 マイルスは誰もいない現場で頭を抱えてうずくまり、胸を抑えて乱れる呼吸をなんとか整えた。

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