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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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仕方なかった事

 優しい言葉や態度で、泥を被ったような自分に声をかけてくれていた見知らぬ女性。

 しかしそんな彼女は目の前で爆散してしまった。


「——ぁ?」


 あまりに突然の死。そして至近距離でさっきまで彼女だったモノを浴び、自分も護衛の人たちも呆然としている。


 しかも飛び散った肉片などは全て灰となり、空気に散っていった。


「お、お嬢......?」


「あ、あれ......。何が......」



 しかし護衛の人たちの方が一歩先だった。



 彼らはすぐに目をギラつかせ、持っていた槍を自分に向け突進。見えていたにもかかわらず避けきれなかった。


 そして迷いなき殺意のこもった二本の槍が自分の体を貫く。


「がはぁっ!!」


「この、化け物がぁあ!」

「貴様だけは殺すゥ!」


 本気の殺意。そして本物の槍に貫かれた痛み。常人じゃ耐えられないレベルで、内臓そのものが外に飛び出してしまったかのような感覚。


 まるで悪夢だが、これは現実だ。

 そして何もしなければ、再び死ぬ。あの時のように、訳もわからず殺されてしまう。


「い、いやだ......。ゴフッ、ボバァッ!」


 口から吐血が止まらない。それにとてつもない痛みだ。貫かれた部位に目をやると、腹部に一本刺さっており、もう一本は胸の中心あたりを貫いている。迷いなき急所への一撃だ。


 でも、()()()()()()()()()()()()()()


 なぜ生きていられるのか自分でも分からないが、耐えられる。確かに内臓がぶっ飛んだ感覚はあるが、全体的な痛みは思ったより控えめだ。



 ——この時は考えている余地がなかったが、この経験を振り返って思うのは、生物兵器として何かしら痛みに耐える対策もされているのだろう、という考察だった。



「お、おい。こいつまだ生きてるぞ!」

「抜けっ!!」


「がはぁあ!」


 槍を同時に抜かれ、そして再び貫こうと突き出してくる。


 しかし、今度は食らわない。まるでこうして殺し合うのに慣れているように体が動き、相手の槍を素早くかわして、無意識に左腕を片方の護衛に向けて伸ばし、首を掴んだ。


 それに気づいたもう一人が腕を切ろうとするが、鋭い鉄の反射音がしたかと思うと、左腕が槍の刃を通さず弾き返していた。


「なっ、何で!?」


「や、やめー」


 弾かれて混乱する護衛。そしてさっきのように、バラバラになって死ぬ姿を想像した護衛は、恐怖で顔を引きつらせる。


「ば、や、やめろっ.......!」


 左腕が首を強く握り締める。すると、次の瞬間、首を掴まれた護衛は全身が干からびて、そのまま息絶えた。


「ひ、ヒィ!」


「はぁ......はぁ......。あ、あぁああ!」


 そして迷わずもう一人へ。目標へ向かって一直線に左腕を勢いよく伸ばし、相手の顔を掴み——。




「はぁ、はぁ......」


 全て片付いた。なんの迷いもなく残り二人を惨殺した。


 飛び散った血やらが混ざり合って、あたり一面真っ赤に染まり、自分が着ていた服も二つの穴がぽっかりと空いて、真っ赤に染まっている。


 そして槍の傷は気づいたら塞がっており、痛みも何も感じない。吐き気を堪えて刺された場所を触ると、内臓がしっかり存在しているのがわかる。


「......あ」


 段々と呼吸が落ち着き、自分が招いた惨状を見る。

 鎧を着た二つの死体、徐々に灰になっている飛び散った臓物と肉片、そして最初に殺した人の血に染まった綺麗な服。


「あぁ、な、何で......。そ、そんなつもりじゃー」


 突然怖くなり、自分の中の何かが壊れたような気がした。今まで抱えていた倫理観が吹っ飛び、命の境界線が分からなくなってしまった。


 そして悟った。自分はもはや人間じゃない。化け物だ。



「はは……とうとう出来た! 私の生物兵器がぁ!」

「そうだ! それはお前のチカラだ!」



 この世界に来て初めて聞いた言葉を思い出す。


(そうだ、ウチは人間じゃない。ウチは......)


 段々と混乱も落ち着き、そして再び殺したばかりの彼らへ目を向ける。



「......ウチは化け物。人じゃない。彼らは運がなかっただけ、だっ」


「自分は化け物。出会った彼らの運がなかっただけ」



 まるで呪いのようにその言葉を繰り返し、女の衣服の一部を左腕で破り取った。

 そしてその布を左腕に巻いて、彼らの遺体に背を向ける。


「ウチは、人間と関わっちゃいけないんだ......」


 罪悪感はある。でも仕方ない。お互い運が悪かった。


 そして、もうどうでも良い。化け物として生まれ変わったのなら、できるとこまで生き続けて、そしていつか殺されるその日まで生きる。


 生きていればいいんだ。生きてさえいれば、きっと——。


「い、きてさえ......。生きて......。何で、ウチは生きて......」


 穴が空いた服を脱ぎ捨て、手にした比較的綺麗な服を着る。返り血に染まって入るけど、少しでも洗えばマシになるだろうか。


「洗わないと......。身を、隠さないと......」


 まるで亡霊に取り憑かれたように、ゆったりとした足取りで森の中へと歩んで行った。



 ——こうしてウチのサバイバル生活が始まった。



 人里はなれた場所に暮らす理由も、この日の事件があったからだ。

 無論、これからは敵意を向けてくる奴は殺す。絶対に逃しはしない。相手から自分の方にやってきたのなら、それは運が悪かっただけなのだから。




 〜〜〜そして時は一ヶ月後の夜。


 この時のことを思い出していたら、夜明けが迫ってきて、ちょうどその時だった。

 包帯を左腕に巻いて、青い長髪をできるだけ短く束ねようとしていると。


「おいお前。こんなとこで何やってんの?」


「っ!!」


 一ヶ月ぶりに人間に会ってしまった。

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