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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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大規模調査の開始

「久しぶりだな。髪切ったんだな。悪くない」


「いうほど久しぶり? それとデリバー、どうしたの?」


 もうすぐ朝になる。そんな時に、デリバーが宿の部屋に帰ってきた。


 以前となんら変わらない様子で安心しつつ、何か言いたげだったので聞いてみる。


「俺の依頼について話しておきたくてな。実はもうすぐ、街の大規模調査が始まる。ギルドが本腰を入れて、強者揃いのチームを作り、原因を解明するらしい」


 本当に突然の話だ。規模の大きさにイメージが湧きにくい。


「それでだ。メンバーを編成するにあたって、色々と声がけをしてるんだがな」


「つまり、ウチも入れってこと?」


 どうやら読みがあたっていたらしく、「正解だ」と冷静に答えるデリバー。

 そのあとが肝心の内容だった。


 話をまとめると、三人一組の部隊を組み、それぞれの班には実力者が一人と適当な連れが二人いるらしい。


「『腐食現象』について調べるにあたって、誰かと戦う可能性は無いと言われている。んだが......。お前にだけ伝えたいことがある」


「ウチだけ?」


 デリバーが携帯バッグの中から何かを取り出した。

 布でぐるぐる巻きにされた何か。それを開封され、そして見たと同時に「うわっ」と思わず声を漏らす。


「何に見える?」


「どうって......。溶けたナイフと......」


 アンナが見たもの。それは、不自然に刃の部分が溶けたナイフ。そしてその溶けた部分にびっしりとついている()だ。


 ずいぶん黒ずんでいてわかりにくいが、ナイフの先についているのは間違いなく何かの肉である。しかし、炭になっているというべきなのか、的確に言い表せる言葉が見つからないが、とにかく黒ずんで硬くなった肉がこびりついているのだ。


「ああ。これを見て色々と推測したんだが......。最初はナイフで何か肉を切って、年月をかけて放置されたものかと考えた。この街には森があって、そこに狩りへ行く奴もいるからな。放置された投げナイフがあっても不思議じゃないが......」


 デリバーが見せてくれたナイフは、確かに携帯用で小さなものだったが、持ち手の部分が汚れているだけで、年月を経て腐食したようには見えない。


「それにありえないくらい歪んでいる。こいつは奇妙だと思ってギルドに報告も考えた。しかしまあ、今までの事件とは関係ない、それも適当な場所で見つけただけだ。証拠として納めるには信用できん」


 しかしこうして拾ってきて、わざわざ見せてくれたあたり、違和感を感じているのだろう。


 例えば、その人にしかない特別な力。それの副産物で生まれたとしたら。


「魔術......」


 アンナの呟きを拾い「よく知ってるな」と笑みを浮かべ褒め、話を続けた。


「そう思ってな。そんで調べた結果、見事に魔術の痕跡ありだ。しかもかなり薄く、まるで漂白されたかのように、魔術の痕跡もかなり薄い。意図的に消されている。まあ、魔術の知恵比べでは俺の方が上手だったようだがな」


 ナイフを布で巻き直し、携帯バッグにしまうデリバー。ばっちいものを触ったと思っているのか、締まった後に手を払う仕草を見せる。


 魔術の痕跡を調べられたなら、それも含めて報告すればいい。そう思い提案してみたのだが、「俺の事情があって、ギルドには絶対に報告できん」と強く否定された。


「ともかく。今日はこれの報告に来た。注意しろよ。このナイフの持ち主が敵か味方かわからない以上、俺たちは今以上に慎重になる必要がある」


「はあ」とため息を吐いて、ベッドの上で横になるデリバー。

「使ってもいいか?」と聞かれて「どうぞ」と答えてあげる。


 外見上はいつも通りの振る舞いだったが、内心だと相当疲弊しているのだろう。

 こんな時、何かしてあげて少しでも癒してあげたいのだが、何をもてなせばいいのかわからない。


「少し寝たら? 希望の時間に起こしてあげるよ」


「なら......。三時間後に頼む」


 その言葉を最後に、デリバーは眠りに落ちた。



 〜〜〜そうして三時間後。

 彼を起こしてあげて、「朝ごはん食べに行こうよ。ウチの奢りで」と朝食に誘った。


 こうして久しぶりに二人で朝を過ごし、お昼前に各々やるべきことのために別れる。


「すまん。それと、頑張れよ」


「うん。お互いね」


 昨夜の話だと、チームを組むにあたって、デリバーは別の人間と組むことを選んだらしい。


 話ていた時はバツが悪そうに謝ってきたが、別に気にしていない。彼のやりやすいようにやって欲しいのがアンナの思惑だ。


 その時は「別に大丈夫だよ」と言って、その話を終わらせた。

 お互い別れたあと、アンナはギルドに向かった。


 もう時期、大規模調査のためにチームが組まれるのなら、その間いつも通りの日々を過ごすだけだ。

 臨機応変に、そして時が来たら参加する。


「おはよう」


「もうこんにちはの時間だぜ。今日はどうする?」


 ギルドのドアを開けると、マイルスに加えてロウもいた。


「そっちに任せる」


「あいよ!」と昨日と同じように、マイルスに依頼を探してもらう。



 こうして、同じような日々が続いた。


 ある日は魔物退治。ある日は街の外に出て収集依頼。

 そしてロウが休みのある日は街の治安維持。


 こうしてこの街にきて既に一週間が経過した頃。



「なんだ? ギルドが何かおっ始めるつもりか?」


 ある日、ギルドにロウとマイルスとともに招集をかけられ向かうと、ギルドの中には多数の人たちがいた。


 その様子を見てマイルスが不思議がっていたのだが、「聞いてくださ〜い!」と男性の声がギルドに響き渡り、皆が黙る。


「既に聞いていると思いますが、今日この日、街の調査を開始します! ここにいる方々は参加者とみなしますので、別件で御用の方は一度ギルドを出てくださ〜い!」


 その言葉を聞いて、何人かはギルドを抜け出した。


 残った人々を見ても、見た目だけだと屈強な人だったり、一見普通だったりとさまざまな人々がいる。以前、ここで酒を飲んでいた人間もいた。


「各々担当が回りますので、そのままお待ちください!」


 職員が大勢、ギルドの奥から出てくる。

 その様を見てロウが「はて......」と呟いた。


「そういえばそんな話をしていたような......」


「ジジイ、しっかりしてくれよ」


 うっかり忘れていたのかとぼけるロウと、彼を肘でつつくマイルス。

 彼らもどこかで知っていたらしい。


「お待たせしました。ロウさん、この方々でよろしいですか?」


「おお、そうじゃったな」


 ロウの元へキリッとした目つきの女性がやってくる。ギルド制服を着ていて、ここの職員だとわかる。


「小娘よ。言い忘れていたが、今から始まるのは三人一組での依頼じゃ。お主はワシらと一緒に動く。それで良いか?」


 今一度、この面子で良いかという最終確認を求められた。

 デリバーは別の人と調査する。この場にはいないので、もう旅立ったのだろう。


 別に現状に不満がないので「いいよ」という。


「決まりじゃな」


「それではみなさんをロウ班として登録します。あなた方はここらの探索をお願いします。何か不審な点があったらなんでも教えてください」


「自分の住んでいる街の探索ってへんな気分だな」


 確かに言われてみればその通りだ。


 探索といっても、何をどう探し出せば良いのか。

 具体的な目標もないが、今まで一度も大規模調査をしたことがなく、今回が初となる。


 この探索を契機に何か探し出せるかもしれない。


「しばらくギルドの依頼システムを停止します。期間は一週間。隈なく慎重に、そして何かあったら教えてくださいね」


 そう言って担当さんと別れて、いつも通りの三人になる。

 他のグループも各々行動を始めたらしい。既に何人かはギルドを出発している。


 一週間。長いように感じるが、この街を長期間脅かしている謎の「腐食現象」を探求するには、綿密な時間と調査が必要になるだろう。


 地味に思えるが、街の存亡がかかっている。未知の現象はそれだけの影響力を秘めている。


 もしその現象が自然発生したなら、この調査で何かがわかるはず。そして人為的なら、この調査で焦った犯人にボロが出る。

 大雑把な作戦だが、現状はこうするしかない。


「行くぞ」


 他にも参加した人々に遅れる形で、アンナたちも行動を開始した。

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