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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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集落を出発

 昨日の日付をノートに書き、覚えている限りの出来事を書き記す。


 最初は街に入って、探索をしていたことの内容。主に教会でのことや野菜を売っていたおじさんとのことだ。


 そして次にデリバーにカードゲームで手も足も出なかったこと。

 最後に楽しく食事をし、その結末がみっともなかったこと。


 思い出すと恥ずかしいが、今後の反省としてしっかりとノートに書いた。


 どんなことも大真面目にノートに書くアンナの姿を見て、後ろから覗き込むデリバー。

 顔を見ずともわかる、まるでからかうかのような口調で、昨夜のことを言葉にした。


「昨日はすごかったぞ。吐いてスッキリしたのか、そのまま寝ちまったからな」


「ちょ、言うなよ......。あ〜、恥ずかしい!」


 起きて少し経ったが、まだ痛む頭を片手で抑え、昨夜のことを断片的に思い返す。


 確かに昨夜、食ったものや飲んだものを全て吐いたのは覚えている。

 そして糸が切れた人形のようにパタっと倒れて、そのまま意識を失ったのも覚えている。


 あの時、自分が吐いたモノに勢いよく飛び込んでしまったような気がするが——。


「まさか......」


「ああ。お前の服。全部脱がして洗濯済みだ」


 今朝起きて、来ていた服が寝巻きになっていたからおかしいと思っていたのだ。


 着替えた覚えがないと思ったら、勝手に脱がされていたらしい。

 流石にデリバーが脱がしたとは思えないが「誰が脱がしたの?」と一応聞く。


「安心しろ、あの女の子だ」


「安心できないよ......。他人に裸を見られるって、一番あっちゃいけない醜態じゃないか!」


「あと汚れた顔とかも拭いてたな」


 どうやら自分で吐いたモノに自分で顔を突っ込んだらしい。


「おおぉぉ......」


「気にすんなって。誰でも酒の失敗は経験するもんだ」


 朝から恥ずかしい思いをし、デリバーと顔が合わせられなくなり、両手で顔を隠して「ウチの阿呆め」と自分を戒めた。



 宿にある小さな供用のシャワールーム。そこで体を洗い流し、髪も入念い洗う。


 上がって乾かし、朝風呂に入ったことで気持ちの良い朝を迎え、朝食のために食堂へと向かった。


 朝食は食堂のおばちゃんが売っていたパンをいただき、二人で昨日と同じ席に座る。


「旅人さん! お洋服です!」


「えっ、ああ......。ご、ごめんなさい」


 朝食を食べて窓の外を見ていると、昨日と同じように突然あの女の子がやってきて、いい匂いになった服を返しに来てくれた。


 無様な姿を見せたのに、一切不満な表情をせずに接してくれる女の子。謝りながら服を受け取ると、お辞儀をして戻って行った。


「ウチ、どれくらい飲んでた?」


「あの量のビールを三杯。それと俺の酒を奪って、そいつを三杯。まあ、酔い潰れるのも当たり前っちゃ当たり前だな」


 デリバーから奪っていたのは記憶になかった。


(てかそんなことしてたのか......)


 自分の愚行に目を瞑りたくなるが、まだまだこんなものじゃないと言わんばかりに、デリバーはペラペラと話を続ける。


「あとめっちゃ俺に甘えてきたな。普段と違って、犬みたいであまりに可愛らしいから、つい俺もあげちまって......」


「おねだりする犬じゃないんだから......。そこは断ってほしかったよ......」


 しばらく羽目を外すのはよそう。そしてこの体のお酒の許容量をちゃんと知り尽くして、体に見あった量を飲むことを心がけよう。

 そう、密かに心に決めた。


「さて、話題を変えて残りの日程について話すぞ」


 パンを食い終わったデリバー。両手の指についた小麦を手で払って、カフェオレを飲みながら残りの旅について話してくれた。


 あと一日とちょっとで、目的の街に行けるらしい。

 恐らくこの宿に泊まった旅人のうち、何人かは同じ場所が目的のようだと思っていた。


「昨日の夜、会話を小耳に挟んでな。そいつらは先に旅立ったがな」


「ほうほう」


 鳩の鳴き声のように頷き、話を聞く。

 続いてこの街での買い出し。旅のルート。予定などを入念にチェックし、部屋に戻ることとした。




 準備が終わり、来た時と同じ荷物を持って宿屋のチェックアウトを済ませる。

 宿泊代はチェックインの時に払った。なので帰りはスムーズに進んだ。


「またのご利用、お待ちしております!」


「またのぉ〜」


 おばちゃんと女の子に見送られ、宿を出る二人。

 そしてアンナはデリバーと一緒に、昨日訪れた店に行く。


「おっ! 嬢ちゃん、もしかして今日は買っていくかい?」


「はい」


 店番をしていたのは、昨日と全く同じ格好の親父さん。

 どうやら本当に来てくれたことが嬉しかったようだ。


 早速、色々と買い物を済ませる。せっかくなので特産品の野菜を買ったり、鍋に使えそうな物を買ったりした。


「ありがとな!!」


 買うものを買って店を後にする二人。その背中に親父さんが元気よく言って、アンナも手を振り返した。


 そして、集落に入ってきた時と同じ出入り口へ向かうべく歩み始める。


 そこを出る時に街道を通るのだが、昨日教会で見た子供たちが鬼ごっこをして遊んでいた。

 その子供たちの内一人がアンナを見つけ、昨日と同じようにアンナの前に来ては「昨日の人!」と言う。


「旅人さんだったの?」


「そうだよ。どう? かっこいい?」


「どこから来たの? 外の世界ってやっぱり危ないかな?」


 アンナのことは無視して、ひたすら質問攻めにされる。昨日と同じ展開に、少々困った顔でどうしたものかと悩んでいると、気づいたら子供たちが増えていた。


「姉ちゃん遊ぼ!」


「今ね、鬼ごっこを......」


 やってくる子供達に遊びに誘われる。

 その様子を見てデリバーが「子供に好かれるタチなのかもな」と、なんだか面白そうに笑う。


「ええ......」


「助けて欲しいんですけど」という心の声を込めた目でデリバーを見つめ、意図に気づいたのか「仕方ないなぁ」と呟きつつ子供たちの相手をしてくれる。


「子供たち。俺たちは先を急いでるんだ。悪いが、このお姉ちゃんと遊ぶのは諦めてくれ」


「ええ〜」と明らかに不満げに口を尖らせる子供たち。しかし思いの外、物分かりがよく、大人しく離れていった。


 そのままどこかへ行く彼らを目で追うと、子供のうち一人がこちらに向き直って、「また来てね〜!」と手を振って、そして去っていった。


「行くぞ」


「うん」


 今度こそ、集落の出入り口から外へ出る。


 出入り口から見る集落は、いつ見ても「小さい」という印象を受ける。


 街から街へ。その道中で訪れただけだったが、それでもそこで経験した思い出は、アンナにとっては大きなものだった。


 次はいつくるかわからない。もしかしたら、今日あった人たちとは最初で最後だったのかもしれない。


 初めての旅で心が激しく一喜一憂しているのを実感する。

 もちろん別れることの寂しさも感じるが、この心の移り変わりが「生きている」ということを強く実感させてくれる。


「......これが『旅』か」


 デリバーの後をついていきながら、小さな声でボソッと呟いた。

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