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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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走馬灯:無意味で無価値な人生だった頃の記憶

 幼い頃の話。仲の良かった奴らはいた。中学時代に突然縁を切られた。そして、いじめっ子のターゲットになり、毎日言葉の刃で心をすり減らして生きていた。


 現代のいじめは暴力よりも言葉である。この時を振り返るとそう思うが、実際のところ暴力で傷つく人もいただろう。自分の場合、それが肉体ではなく精神に向けられただけであった。



 大人になって、社会人になっても平凡な奴。

 そして久しぶりに実家に帰省した時のこと。田舎は狭く、いじめてきたやつとは意図せず再開してしまった。


「よお! 元気にしてったんか、○○!!」


 当時は坊主に芝が生えたような髪型の男で、いつも同じ部活の奴らとつるんでいじめてきた。そして一人ぼっちになると友達ヅラしてくる気持ち悪い奴だ。


 しかも相変わらず、自分のことを「蔑称」で呼んでくる。○に入るのは当時のあだ名、それも自分にとってとても気に入らない、呼ばれるだけでも嫌な呼び方だった。


 他人をクソ呼ばわりし続けたら誰でも嫌にになる。それと同じだ。


「(相変わらずクズが)......よう、なんけ」


 話したくないので黙っていても、あいつは馴れ馴れしくペラペラと口を開く。昔からことあるごとにウザ絡みしては、飽きたと同時に去っていく。自分が「玩具(おもちゃ)の一つ」として扱われているようで、心底嫌だった。


 それは大人になっても同じ。近所に住んでいるから思った以上に会うし、その度に何かとウザ絡みしてくる。

 今回はどうでも良い自慢話だった。


「俺、△社に就職したんだぜ? 前に働いてたところからわざわざ転職したんやが余裕やったんよなぁ」


「ふーん。すげえやん」


「しかもこれ見ろよ。結婚予定の恋人!」


 見せられた写真を思わず見てしまう。とてもなりの整った、綺麗な女性だった。


 (自分を虐めてた男は出世。あんな陰湿ないじめをするやつながに、かぁ)



「そういや覚えてるか? 学校の柔道、いつも俺に投げられとったよなぁ」

「今もあんな感じに情けねえ声出して、会社の上司に謝ってん?」

「俺なんて上司殴り飛ばして下克上してやったがよ!」




 〜〜今日は特別酷かった。


 何か嫌なことでもあったのか、それとも逆で気分が良すぎて口が回りに回っているのか。


 あいつの言葉のせいで、嫌な記憶が次々と甦る。このままいても気分が落ち込むだけなので、とっとと帰ることに。


 そして車に乗り込もうとすると、今度は車にまでいちゃもんつけてきた。車種がどうだの、自分のは会社だの。


 頭のネジでも外れてんのかと疑ったが、そういえばこの芝生頭は昔からそうだったことを思い出す。


 それに柔道のことはもちろん覚えている。あの競技はご存知、投げ方を間違えれば普通に死んでしまう。そして学校の授業では、背負い投げは危ないから禁止されていたのに、奴は問答無用で投げて、しかも教師は見て見ぬふり。


 まさか背負い投げするとは思わないので、自分含めて何人も被害者が出た。そんな事件もあった。


(柔道で危ない真似するようなやつなんに、恋人かぁ......)


 その時はそのままスルーして、家まで車をぶっ飛ばした。家に帰れば、流石の奴もついてこない。


「......勉強して大学に行ったってんのに、高卒・就職したアレに負けとんのがか?」




 〜〜〜大学に行った自分は上だと思ってた。あんなやつよりは。


 高校時代の話。多少いじめはマシになり、どちらかというと友達が増えてきて、初めて学校が楽しいと感じる学生生活だった。


 そして高校一年の時の話。あの時、英語は学年で一番だった。誇りに思ってた。

 しかしその成績に甘んじ傲慢になった結果、二人の天才が自分を追い抜かし置いていき、果ては学年で平凡まで堕ちる。


「どうして自分は」と惨めな気持ちになる。


 普通なら恨むなり妬むなりするだろう。しかし、彼ら二人は自分と気の合う友人だった。それが辛かった。

 妬めない、憎めない。負の感情よりも友情が上回り、いつも複雑な気持ちで接していた。


 ある日、なんでそんなに英語が出来るのかと聞いた。返答はこうだった。


「英語が楽しいから」

「好きやからね」


「......へえ(楽しい? 勉強が?)」


 自分には理解できないと同時に、彼らには勝てないと悟った。

 その悟りこそ怠惰だったかもしれないが、彼らのような熱意は自分には無い。


 いざ追いつこうと思っても、英語が好きじゃない自分は熱意なんて持てない。ちょっと得意なだけだ。だから勉強に身が入らない。伸びしろもないと思い込む。


 そんな人生ばかり歩んで来た結果がこれだ。



「何もやる気になれない。熱意も夢もない。心が死んでんのかねぇ」



 そう感じたのは、この時からだったかもしれない。


 中学生時代はバカで虐められてきた。よく虐められる奴は原因があるからと言われるが、そのタイプに当てはまっていたのかもしれない。だからといって、バカでも心は傷つくし孤独を味わう。それが原因で死のうと思ったことも多々ある。


 そしてそれはその後ずっと残り続ける病である。思い出すだけで胸が苦しくて、見えないナイフに突かれてる気分である。


 だから、心が死んでる。結婚願望はある。だがいい歳なのに、毒された影響か恋ってのが分からない。好きとは何かが分からないし、女は全員一緒に見えてしまう。生きる楽しみも模索中。お金もろくに稼げない。


 そしてこのまま、無価値な人生を生きる。

 世の中にはそんな奴が大勢いて、自分はその一人なのだろう。


 そんでいて昔から恋愛には疎い。兄弟がいるが、彼らは彼女を作り何年も一緒にいる。しかも自分より出来が良い。


 昔から何をやっても弟に打ち負かされ、唯一家事や掃除、料理などの面だけは勝っていた。でも、それは比較対象にはならない。誰でもやろうと思えばできることを、自分にしかできないと思いながらやっていた。それだけだ。


 そんなこんなで生きていたためか、彼の思考は最早、ある種変な方向に卓越してしまっていた。


 ここまでくると女を見ても興奮できない。金を手にしてもどうすればいいか分からない。趣味はたまに嗜むお酒と友人との飲みくらい。「結婚しない現代人」のお手本のような存在になってしまった。


 それしかない。だが今は死にたいと思ったことは無い。

 苦労して両親が育ててきたこの命、無下にするわけにもいかない。


 生きることは責務だという、彼なりの考えが「ソレ」をしないよう押しとどめているのだ。




 〜〜〜そして走馬灯は終わり、薄れていく意識のなか。


 最後に見たのは、マスクを外して、狂気の笑みを浮かべる犯人の顔だった。謎の刺繍、無数のピアス、色々と不細工になっており、最期だというのにどうでも良い感想を抱いてしまった。


(......きた、ね、えな)


 こうして自分の命は尽きた。何とも無意味で無価値、地球上に存在する数多くの生命に申し訳なさすら感じるような、そんな生き方だった。


 ——でも神さまが存在するとしたら。


 次に生まれ変わるのなら、徳を積んだ人生だとは思えないけど、少しでもマシな運命を与えてください。


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