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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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森の奥に潜む「神様?」

 

「ぐうぅ......!」


 腹。胸。腰。足。体のありとあらゆる部位を、直径五センチはある太い木の枝が貫いていた。


 そして枝が脈打つように鼓動し、アンナから何かを吸っているのがわかる。


 少量ずつだが、このまま放っておくのはマズい。

 なりふり構ってはいられない。左腕を解放せねば。


「ったく......。人様の服に穴開けて......」


「姉ちゃん!」


「ウチから離れるな!! 隙を見て逃げるよ!」


 唯一貫かれなかった左腕を使って、アンナを貫く枝を切断する。


 大本(おおもと)が何かはわからない。それにこの森には生き物はいないと聞いていた。


(だとすると......。もしかしてこれって......)


 先日対峙した男が言っていた”森の神”。古くからの言い伝え。

 思い当たるとしたら、可能性としてはコイツしかないだろうと、その存在を脳裏に思い浮かべた。


「まさかこいつが......」


 まだ枝がうねっている姿しか見えない。全体像が把握できないが、ここは奴のフィールド。

 加えて二人を抱えて戦うのは絶対に無理だ。アンナが死なずとも、この子供たちが死ぬ。


「いいか二人とも。ウチが目印として、木の幹に傷をつけて帰り道の道標を作ってきた。先にそれを追って逃げてくれ!」


 この子達を逃すため、アンナは人柱になる必要がある。


 しかし子供たちは「姉ちゃんは!?」と、血反吐を吐きながら指示するアンナの心配をする。

 前を向いたまま、二人を安心させる言葉を言いつつ、切羽詰まった声で命令した。


「ウチは大丈夫! 二人を勝手に追ってきてなんだけど、今すぐに二人で逃げて!」


 二人に付き添う形で、ちゃんと街へ返すつもりだったのに、こうなっては仕方ない。


「エン!! 早く!」

「ちくしょー! 姉ちゃん、門で待ってる! 生きて帰ってきて!」


 子供たち二人が立ち去る音がする。やっと逃げてくれたようだ。

 これで気兼ねなく、思うがままに戦える。


「姿見せてみろ。このっ、日陰ヤロー!」


 切断されて体に刺さったまま枝を抜いて、再び身構える。貫かれた穴がみるみるふさがっていく。

 自身の再生能力も凄まじいものだなと、改めて実感する。


 そして相手がなんであれ、枝を使って貫いてくるなら、アンナはただ刺されるだけでいい。


 今は子供たちの逃げる時間を稼ぐだけだ。


 そう思って、ひたすら刺される覚悟を決めた。


「......は?」


 しかしその覚悟を嘲笑うかの如く、真の姿を現した()()を見て、全身が硬直してしまった。


 それと同時に、久しぶりに心の奥底に「恐れ」を感じた。


 目の前に現れたモノ。月明かりに照らされた場所まで出てきたが故に、その詳細まではっきりと見えてしまった。


 大きな大木に無数の生々しい目玉が生えており、脚は人の足が複数生えたかのような見た目の植物の根。そして手となる触手が激しくうねり、体の至る所から生えている。

 口はついていない。頭には血の色よりも濃い色の葉っぱが生えている。


 これはまさに「化け物」だ。


「な、なんだこれ......」


 この世のものとは思えない。

 そしてその姿を間近に見たことで、より一層強く感じる「捕食者」としての敵意。


 あの大木の化け物は、アンナを喰らうつもりなのだ。


「っ!!」


 触手が再び激しくうねりだし、アンナの左腕を絡めとる。


「なんだって!?」


 アンナの武器を理解している。言葉は離さずとも、この敵はアンナの武器を理解している。

 つまり、それなりに()()がある。


「ぐっあぁ!! や、やめ......っ!!」


 続いてうねうねとうねる触手たちが、アンナの体をもう一度貫く。


 さっきアンナを貫いた木の枝は、こいつらの触手だったようだ。


 そして触手たちが再び脈動し、アンナから「何か」をまた吸い取り出す。

 これがこの大木の捕食。例え傷が治るアンナでも、おそらく失うとマズい「何か」を吸われている。

 すなわち、アンナが体を貫かれるわけにはいかない。


 再生能力にものを言わせた耐久戦はできないというわけだ。


「あぁ......くっ、動けっ!」


 体から何かが抜けていく感覚。正直に言って言葉にはし難い、その気持ち悪い感触に全身が蝕まれていく。

 痛みを堪えることができるはずの体なのに、耐え難い苦痛が無限に襲ってくる。


(ああ......。ここで、ウチは死ぬんか......)


 これは無理だ。勝ち目がない。

 戦闘経験すら乏しく、相性的に言っても最悪と言えるこの大木の化け物。勝つための策すら思いつかない。


 いや、そもそも勝つつもりで立ちはだかったわけではない。


「はぁ、はぁ......っ。逃げ、れたか......な」


 子供たちが離れて、どれほど時間が経ったかわからない。


 それでもアンナの命は無駄ではなかったはず。


 この命でつなげることのできる、二つの若い命。それを守るためなら、死んでもいい。


 そう思っていたのに。アンナの脳裏に、アンナを助けてくれた人たちの言葉が蘇った。



「なあどうだ、どうせ一人なら俺と一緒にくるか?」

「抱え込みすぎるな!あの夜空みたいに超絶自由に、やりたいことをやりなさい!です!」



(やりたいこと......)


 まだ、それすら見つけられていない。そのために明日から旅に出る。


 そうだ。まだ死んではいけない。せっかく蘇った命。新たな人生。新たな世界。

 それを見ないで、旅をしないでどうする。


「アンナ」の物語は、まだ序章すら始まっていない。物語を作るのはこれからなのだ。


「うぐ、ううう!」


 この木の触手を振り解く力。それが必要だ。

 気力だけで左腕に力を込める。もうこうするしかない。生き残るためにやるしかないのだ。


「動けぇぇ!!」


 例え策がなくとも、考えなしでもやるしかない。

 無我夢中で、腕を振り回すように動かした。


 だが触手は解けない。むしろ、縛る力が強くなる。

 この触手をどうにか消さないとならない。


 この大木を殺すつもりで、本気にならなければならない。


「このっ! 殺してやる!!」


 いつもは殺生を避けるアンナでも、相手が殺すつもりで、しかも人間じゃないなら話は別だ。

 そう言った相手に対して「殺す」と決めた以上、その決意は揺るがない。


「うおっ!?」


 すると突然、拘束されていた左腕がビュンと振り下ろされ、不思議なことに左腕が急に自由に動かせるようになった。


 何が起こったかわからず腕を見ると、腕を縛っていた触手が灰になっている。それもいつの間にか粉々になったうえで、灰となっていた。


「これって......」


 初めて人を殺した時と同じ現象だ。

 もしかすると、アンナの腕はなぜか触れたものを「灰」にできるのではないだろうか。


 しかし灰になる前、初めて殺した女性の肉体は弾け飛んだ。


 だとすると、能力の一つに「灰にする」力があるのであって、全体的な能力ではないはず。


 だが今は深く考える必要はない。この腕を手当たり次第使うだけだ。


 自由になった左腕で、体に刺さった枝に向かって思いっきり振り下ろす。

 バキバキと木材が砕ける音が鳴り、硬くて柔らかくうねっていた触手が切断された。


(これは......)


 切断された触手からは、ダボダボと大量の血液が、滝のように流れていた。


 どうやらアンナから吸っていたのは「血液」だったようだ。


 外傷はどれだけ酷くても治るアンナだが、吸血された場合はどうなるかわからない。


 それに今までの分を考えると、かなりの量を吸われているに違いない。

 その証拠に、体の節々に力を込めようにも、風邪で蝕まれた体のように上手く力が入らない。


「モタモタしてたら死ぬな......」


 まだ視界ははっきりしていて、体調面も目立った影響はない。

 しかしあまり時間はないと考えて、大木の化け物から距離をとる。


 吸血鬼ならぬ吸血木。この世界は植物すら知性を持ち、そして襲ってくるのだろうか。


 一ヶ月も森にいたというのに、こんな化け物を目にしたことは一度もなかった。


「どうにかして一発当てれば......」


 左腕をどうにかして触れさせて、大本の大木を消すしかない。


(覚悟を......。決める!)


 心を冷静に、そして目の前の化け物を睨みつけて、覚悟を決めた。

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