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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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子供たちを追って森の奥へ

 人影。もしや幽霊の類だろうか。

 そういう非科学的な現象は苦手だ。


(英国だっけ......。幽霊は守り神的な感じの認識なのって)


 イギリス人は幽霊を好んで家の中に置き留め、彼らを自分の家の守りをしてくれる存在として見ているという。


 文化の違いだ。日本人の多くは幽霊を妖怪の類に数え、子供も大人も恐れており、現代の日本では心霊スポットというものすら「肝試し」として注目されてきている。


 そんなものを信じてはいないが、どうしても「いるんじゃないか」と思っている自分がいる。

 その潜在意識が、目の前の人影を目撃したアンナを内心震えさせていた。


「お、おぉ......」


 少し怖くなり、街灯の灯りから一歩も出ないようにその場に佇む。

 そしてしばらく様子を窺っていると、その人影の正体が判明した。


「......子供?」


 まだ幼い子供が、南門の出口近くで突っ立っている。

 何をしているのか。声をかけようと、近寄ろうと一歩踏み出したそのとき。


「あっ! エンくん!」


 少女の声がどこからか聞こえ、びっくりしてしまい、思わず身を隠した。

 適当な建物の物陰から顔を出し、様子を伺う。


「しっ! ハナ、大声を出すな!」


「あっ! ご、ごめん!」


(もう遅いっての......)


 今駆け寄ってきた女の子がハナ。さっきから突っ立っている人影の男の子がエンというらしい。

 二人とも間違いなく年下だ。しかしうっすらと見える見た目の特徴は、なんというか思うものがあった。


(二人ともボロボロの服だな)


 まだ幼い子供たちが、ボロボロの服を着て夜の街に出ている。しかも、外はそれなりに寒いはずなのに、彼らの見た目は明らかに寒さを軽減できていない。


 あれは貧乏の家庭の子達なのだろう。人間が生きている以上、貧富の格差は存在し、あのように恵まれない子供たちもいる。

 哀れだが、自分ができる直接的な手助けは少ない。


 しかし放っておけない。アンナは貧乏ではなかったが、あのようにボロボロになって森の中にいたから、貧しいということの苦しみは少しは分かる。


 だから、彼らの話だけでもせめてきてやろうと思い、物陰から出ようとしたときだった。


「えっ!?」


 子供たちが南門を出て、森の中へと入って行ったのだ。


 見張りはいないのか。それとも、この門は見張る必要がないので、門番すらいないのか。


 どっちにしろ放っておけない。既に森の中に溶け込み、姿が見えなくなっている。


「やばい!」


 森は舐めてはいけない。夜の間は尚更だ。


 道標を用意しておかないと、自分がどこからきたのか。どこに拠点があったかすらわからなくなる。

 あの子たちはそれを知っているのか。子供が知っているとは、考え難い。


 慌ててアンナは南門を抜け出し、子供たちが入っていったと思われる場所から森に侵入する。

 そしてそのまま少しづつ直進する。


「くっ......。やっぱりか!」


 少し進んですぐにわかった。子供たちは目的がどうあれ目印すら作らず、ガンガンと森に侵入して行ったのだ。


 連れ戻さないと本当にまずい。この森では動物は出ないが、子供たちが一晩、寒い森の中で過ごせると思えない。


 それにそこらにある適当な獲物を食べる危険性がある。

 早く見つけねば。その一心で、痕跡を残しながら歩み続けていると。


「......この音は」


 森の中に、風とは違う異音が流れているのを感じた。


 昨日も似たようなことがあった。あの時は、アンナの後ろから誰かが追跡していた。


 今は後ろからではなく、前方から音が聞こえた。もしかするとこのまま進めば見つけられるかもしれない。


「......」


 前へ前へ。ひたすら歩き続ける。


 そうしてどれほど時間が経過しただろうか。

 森のかなり奥までやってきたが、子供たちは見つからない。


 それに先ほどから妙な「何か」を感じる。

 はっきり言って、これはとても気持ち悪い。全身を舐め回すような、そんな感覚を覚えてしまう。


「これは......」


 あたりは暗く、真上から時々差し込む月明かりが視界の助けになる。

 その明かりを頼りに周りを見渡すが、近くには誰もいない。誰かがいたような気はした。


 やはり気のせいだろう。思い込みだったのかもしれない。そう思い、再び前を進んだ時だった。


「エン! 見つけた!」


 少女の声が確かに聞こえた。

 急いで声のした方向へ駆け出す。


「よくやったぞ!」


「まって、変な音がしない?」


「誰か来てる!?」


 どうやらこちらに気づかれたらしい。

 しかし逃すわけにはいかない。音のした方へ一刻も早く。


 足を前へ、前へ。久しぶりに全速力で走った結果、なんとか二人の子供を視認することができた。


「こんな開けたところがあったのか......」


 まるで小さな花畑が広がっており、月明かりが十分に差し込んでいる場所。そこに二人の子供がいた。


 二人とも明らかに怯えており、ぶるぶると震えている。

 そんな二人を見て安心し、安堵の息を吐いて胸を撫で下ろす。あとは連れ戻すだけだ。


 とりあえず二人を安心させるために、「大丈夫。ウチは通りすがりの旅人だよ」と言って、警戒を解いてあげた。

 最初は疑っていた二人も、敵意がないと察して徐々に緊張が薄れ、思わず地面に尻餅をついて「ハァ〜」と緊張で溜め込んでいた息を吐く。


「......青い姉ちゃん。急に来るからヤバイ人かと思ったぜぇ」


「そ、その......。心配してきてくれたんですか?」


「そうだよ。勝手について来てごめん。たまたま歩いてたら、門を飛び出して、しかも森に入る君たちを見つけて、危ないと思ってね」


 二人の目線に合わせて話すため、地面に座って話を聞いてあげる。


 彼らが何をしていたか。男の子が持っているカバン。そして女の子が持っている花飾り。

 誰かのために用意していたものだとすぐにわかった。


「それは?」と二つを指さして聞くと、「シスターのため!」と元気よく答える二人。


 二人の出自を少し聞くと、どうやら街の小さな孤児院から抜け出し、世話になっているシスターにお礼のサプライズを企てたらしい。


「その心構えは立派だね」と素直に褒めてあげる。


 すると二人は「えへへ〜」と年相応に照れて、満面の笑みを浮かべた。


 しかし怒るべきところは怒らないといけない。

 アンナは「でもね」と声色を変えて、腕を組んで少し強めに叱った。


「夜に子供二人で森の中に行くのは自殺行為だ。もし獣が一匹でもいたら、君たちは既に死んでたかもしれないよ?」


 危ないことは理解していたようで、二人は特に反論せず「ごめんなさい」と言った。

 詳しい話は後にするとして、とりあえず今はこれくらいでいい。


「帰り道わかる?」


「......えっとぉ」


 やはり思った通り、この子達は夜の森の怖さを知らない。来た道すら覚えていないようだ。


 アンナは立ち上がって、二人に両手を差し伸べて手を取る。

 二人とも立ち上がって、「それじゃあウチについてきて」といい、彼らの帰路を確保することに。


「ありがとうございます」


「ごめん姉ちゃん......。あっ忘れるところだった」


 女の子が花飾りを持ち、男の子は置きっぱなしにしていた何かが詰まったカバンを持ってくる。

 中に入っているのはリンゴのような実だ。あれだけあれば、りんご料理だけでしばらく過ごせそうだ。


 袋を重そうに抱える男の子。思った以上に詰め込みすぎた結果だろう。

 仕方ないので、袋を持ってあげることに。


「青い姉ちゃん......」


「あおっ......。普通に『姉ちゃん』でいいよ(なんか全身青いみたいな言い方で嫌だなぁ)」


 アンナの意図を察した少年。申し訳なさそうにこちらを見つめる。

 そんな彼の方へ一歩。二歩。普段通りの歩幅で歩み近づいた。


「......ん?」


 しかし男の子の方へ近づいた時。


 男の子の背後から複数の光が反射し、同時に舐めるようなあの視線を感じた。


 咄嗟に彼の前に立ちはだかる。突然のことで何が起こったかわからず、少年たちは呆けている。


 そして舐めるような視線が、唐突に「針で刺すような敵意」へと変わるのを感じ。


「姉ちゃん!?」

「キャッ!!」


 少年少女たちが、アンナが無数の太い木の枝に刺された姿を見て、叫び声をあげた。

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