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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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ネイさんと晩酌

 鍋も終わり、アンナは食器を洗う係を引き受けて、せっせと皿洗いに勤しむ。

 全て洗い終えたところで、ネイさんが風呂から上がり、さらにしばらく時間が経った頃。


 アンナは、不眠症ともいえるこの体質によって起きていた。

 まだ有り余る体n活力を使って、ネイさんが寝ようかまだ起きていようか。迷っているのを遠目から確認し、彼女の方へ近寄る。


 こちらへ気づいたネイさんが不思議そうな様子でこちらを見つめ、そんな彼女に包み隠さず言った。


「晩酌しましょう」

「今から!?」


「おこちょ一杯だけでいいので。話がしたいんです」


「それだけなら......」と押し負けたネイさん。早速、ネイさんが貯蔵していた度数高めの酒瓶を、二つの小さなおちょことセットで持ってきた。


 二つの器に注いだところで、早速だが控えめに乾杯。

 一杯飲んだところで、アンナ側から話を切り出した。


「ぶっちゃけで聞きます。ネイさんの人生における目標ってなんですか?」


「アタシの目標......。う〜〜ん。今は結婚かなぁ?」


「なんて冗談冗談!」と手をぶんぶんと振って否定するネイさん。本気二割くらいの気持ちがこもっていた気がする。


(ネイさんならできそうだけど......)


 彼女の容姿なら、すぐにいい相手も見つかる。相手と巡り合った数だけ、自分に見合う人間とも出会う確率は高いはずなのだ。

 なのに結婚できないでいるのが不思議に思った。


 冗談を言って笑って見せたネイさん。腕を組んで再びしばらく考え、少し迷った様子で口を開いた。


「これが正解か分からないけど......。アタシは自分がやりたいと思ったら、迷わずやる。結果が良かれ悪かれ、自分が楽しければそれでいいと思うの」


「結果が良かれ悪かれ、楽しければいい......」


「そうよ」


 奥が深いようで、やはり理解できない。そんなアバウトな目標でいいのだろうか。


 そう悩んでいると「お風呂で言ったこと覚えてる?」と聞いてくるネイさん。もちろん覚えている。


「あの時、やりたいことをやりなさい。考え込みすぎるなって言ったわよね? それでいいの。何が正しくて何が間違ってるかなんて、人によって見方が変わるしね」


 そんな事言っては、「難しいわよねぇ」と呟いてため息を吐き、止まらない勢いでお酒を飲んでいく。


 ネイさんの言いたいことはわかるが、はっきり言って難しい。


 今回戦った男は、心にどうしようもない「絶望」を抱き、性根が見事に腐ってしまっていた。

 そして彼のストレス発散の道具として見られていたのか、力のままにアンナに襲いかかってきた。


 奴が絶望してしまったのはこの世界に対して。その気持ちは少しわかる。


 アンナだって以前の世界ではやることが見つからず、無気力に生きていた。それでも他人を傷つけるような真似はしてこなかったが。


 以前は失敗した人生だと思っていた。どこで間違えたのか。幼い頃に夢を持たず、のうのうと生きていたせいなのか。


 原因ははっきり分からない。だが今回は失敗したくない。そう思うと考え込んでしまう。


「ネイさん。やっぱり、ウチはあなたとは違います。どうしても考え深くなって......」


「まあ、そうよねぇ。結局、心は人それぞれ。考えも感じるものも違う。アタシがこうでも、アンナちゃんにとっては違うしねぇ」


 アンナの悩み。それに対する答え。結局振り出しに戻ってしまった。

 何を目標に、どんな夢を見ていけばいいのか分からない。


「じゃあ、試しに人助けとかは?」


「人助け......」


 ネイさんがアンナの左腕を指さす。

 この腕はネイさんに施しを受けてもらい、彼女曰く「封印」をしてくれたことで色々と心配がなくなった。


「その力があれば、悪いヤツくらい簡単に倒せる。そうでしょ?」


 ネイさんはアンナの腕をなんとかしてくれて、いわゆる「人助け」をしてくれた。見ず知らずの汚れた女の姿(アンナ)をした化け物に優しくしてくれた。


 彼女がやってくれたように、ありとあらゆる悪や困難から他人を助ける。


 まるで修行僧のような生き方だが、もしかすると意外と性に合うのかもしれない。少なくとも、他人を助けるのは嫌いじゃない。


 しかしそれはエゴイストではないだろうか。

 人助けと余計なお世話の境界線。それが分からず、無闇に他人に優しくして逆に怒られるのも嫌である。


 そんなネガティブな考えをしてしまい、「あ〜〜わかんない......」と唸って、両手で目を抑えて俯く。


 何が面白いのか「ハハッ!」とネイさんが何故か笑い、アンナの頭をポンポンと叩いて、これまたアバウトなアドバイスをくれた。


「まあ、今はデリバーに厄介になって、あいつの横にいて世界を見て回るといいよ。きっと、答えが見つかる」


 きっと答えが見つかる。


(本当にそうだといいなぁ)


 今考えても仕方ないのかもしれない。

 自分には向いていないかもしれないが、ネイさんの「考えすぎるな。やりたいことをやれ」という教えを大切に、しばらくは歩んでいこうと思う。


「ネイさん。ありが——」


 俯いていた顔を上げて、ふっと優しくネイさんに微笑み、お礼の言葉を言おうとしたときだった。

 机の上のおちょこや酒瓶が衝撃で跳ねて、ガシャンッと音を鳴らした。


「オゥ......。寝てる」


 ネイさんが机の上で爆睡していた。

 どうやら寝かしつけてしまったらしい。


 度数の高い酒をガンガン飲んだせいだろうか。日頃の疲労も関係ありそうだ。


 (仕方ない。ネイさんをベッドに運ぶとするか)


 お酒を片付け、おちょこをシンクの中に置き、ネイさんの腕を体に回して自室まで連れ込む。

 自分より背が高く重いネイさんを運ぶのは、中々に大変だった。


 起こさないようにゆっくり彼女をベッドの上に寝かし、自分も部屋から出よう。


 そう思って一歩踏み出したその時。ネイさんに強い力で引っ張られ、ベッドの上へ引きずり込まれてしまった。


「......ネイさん?」


「ぐぅうう......」


 唸りながら眠るネイさん。寝ているというのに、アンナを抱く力が強い。


(抱き枕にされた......)


 もしかするとこのまま朝まで待機せねばならないのか。

 そう思い焦っていると、不思議と酔いが体に回ってきた。


 度数が高いアルコールを、無意識に何度も摂取したせいに違いない。遅効性の毒のように、ゆっくりと体が熱くなり、眠気が襲ってくる。


(ちょうどよかった......)


 眠れるなら問題はない。任されるがまま、夢の世界へいくだけだ。


 寝付くまでのしばらくの間。ネイさんにゼロ距離で抱かれている状態であり、彼女の寝息や匂いを身近に感じる。


 息は酒臭い。だが体からふんわりと漂ってくる独特な、当然だがアンナとは違う人の匂いがする。

 なぜだか知らないが、嗅いでると安心する。


(目が......)


 段々と瞼が閉じてくる。どうやら起きていられる限界のようだ。


 視界が閉じていくのを感じながら、アンナはネイさんに抱かれたまま眠った。

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