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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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迷宮のような建物

 ギルド総本山「スカイジャンクション」に二人で足を踏み入れたデリバーたち。

 中の景色は、とても言葉では言い表せないようなものだった。


「お、大きい......」

「んっ。まあ、建設部とか企画部とか、用がなければ絶対に行かない場所ばかりだけどな」


 胸を張って真上を見上げる。それでもなお、何がなんだか把握できないくらいには大きな建物だ。

 壮観なスケールである。日本だと建築法に引っかかりそうな建物だ。



 まずギルドに入って分かったのだが、天井が凄い高い。一階から三階まで吹き抜けになっていて、建物の内縁に沿って廊下が作られている。


 二階や三階の概念はあるようだが、フロアの面積が小さい。他は天井まで吹き抜けになっている。


 建物内も連絡通路がたくさんあり、各部門ごとに通路が伸びている。それぞれの道が箱のような場所に繋がっている。


(ああやって部署ごとに別れてるってこと? どうなってんだろ......)


 前の世界じゃあんなイカれた建築は見なかった。建物内部が吹き抜けで、しかも無数の通路や階段、そして変な箱型の内部建造物。


(......これを他人に説明しろって言われても無理だ)


 これら見たものに対して言えるのは、とにかく凄いということ。あと見ないとわからないということだけだ。


 今いる場所を見渡すと、一階は普通のエリアで、上へと繋がる階段やエレベーターが目に映る。



「上に行くには階段かエレベーターだ。ちなみに大真面目に階段を使うと疲れるし、エレベーターは混み合う。だから皆、最短距離を自分で編み出して、ベストな道を選ぶんだ」


 ベストな道を選ぶ。言葉だけだと意味がわからないが、目の前の光景を見れば納得だ。

 ギルドの一階には受付、フロント、交易部門など色々な施設が立ち並び、()()()()()が上へと伸びている。

 どこがどこに繋がっているか。それを知らないとこの階段は地獄だ。


「お〜い、置いてくぞ〜!」

「あ、待って!」


 流石においてかれると確定で迷子だ。

 色々と目移りしてしまう興味深い場所だが、今は余計な情報はシャットダウン。

 精一杯デリバーについていくことだけを考えて、彼の背中を追って階段を上り進んだ。



 階段を何段上ったのか。それすら数えるのも面倒なほど、アンナたちは上へと進み、ついに目的の場所へと辿り着いた。


 場所は三階。施設の名前は「ギルド登録受付場」と書いてある。


 ここはさっき下から見たように、箱型の場所で小さな受付が一つ確認できる。そして見慣れない機械や何かが詰め込まれた箱が並べられている。


「ついたな」


「だいぶ上ったなぁ」


 アンナもデリバーも息切れはしていない。デリバーはともかくアンナは色々と人間ではないので、この程度で息があがるようには作られていない。と思われる。


(それにしてもどれくらい上ったんだろう)


 気になって後ろを振り返ると、さっきまであったはずの階段がなくなり、出入り口が柵で封じられていた。


「ワッツ......?」

「んん? ああ、なるほどね。あれを見てみろ」


 デリバーが指を差すもの。それに視線を向けると、答えはすぐに分かった。


「回ってる......」


「ああ。一階から天井まで伸びてるあの柱は、この建物の階段を仕切るもんだ。段々と増設される施設一つ一つに階段なんてつけたら、今頃ここはめちゃくちゃだからな」


 つまり、各部署に伸びる階段はあの太い柱が支柱になっており、支柱から生えた階段が利用者のその時々の目標に応じて動く仕組みなのだろう。支柱の大きさは直径二十メートルくらいはありそうだ。


 その支柱には踊り場が複数ついており、そういえばあの踊り場を経由したような覚えがある。

 一階から踊り場へ。そこから複数の道が伸び、さらに上ったり歩いたり。そうしてどんどん上へと上がってきた。


 まさに未知の技術だ。魔法で動いているとしか思えない。

 もしかすると本当に魔法があり、それで動いている可能性もある。


(なんか昔見た魔法使いの映画で......あったな。こんなの)


「今俺たちはこの受付に来たかった。その意思を汲み取った階段がここに辿り着けるよう仕向けてくれただけだ。帰りも『帰りたい』ってイメージすれば勝手に道が出来上がる。不思議だろ?」


 コクコクと頷く。デリバーの説明を全て聞いても完全に理解できなかったが、要するにゲームで表すなら主人公の動きに合わせてギミックが作動するのと同じだろう。

 関心しつつ、本来の目的を忘れないよう気持ちを切り替えて「行こう」とデリバーに言う。


「ああ。あとはあそこのカウンターに行くだけだ」


 目の前には受付の女性が一人。カウンターの奥に書類を整理している男性が二人いる。

 その女性のもとまで歩き、「登録ですか?」と女性が聞いてきた。

 名札に名前が書いてある。彼女の名前は「リーセ」と言うらしい。


「ああ。この子の免許を作ってくれ」


「かしこまりました。ではご用意しますので、お名前をご記入ください」


 そう言って渡された書類には、名前と出身地。年齢。履歴などの欄が事細かに分けられていた。


「ほわっ......」


 先ほどから予想外のことが起こりすぎて、変な声しか出てこない。

 履歴や出身地など、どうやって誤魔化そうか考えていると、デリバーが耳打ちしてきた。


「出身地は俺と同じでいい。履歴は『戦争孤児』だ。そう書いとけば大体どうにかなる」


 デリバーに耳打ちされた通りの出身地や履歴を書き込んで、思い切って提出。

 紙を渡して目を通された時、受付のリーセさんが一瞬「ん?」と眉を寄せ、その表情を見てバレないか不安になった。


 しかし目の前で確認の読み上げをされ、一つ一つの項目に対して頷き返し、結局何事もなく書類が通った。

 こんなガバガバで大丈夫なのか。情報セキュリティが不安になるが、今のところこの街で大きな事件が起こっていないので、多分対策はしっかりしているのだと思う。


「ではアンナ様。証明写真を撮影しますので、こちらにきてください」


「証明写真......」


 自分のであって自分ではない顔を撮影される。なんだか妙な感じだが、言われた通りに指定された席に座った。


「この写真はしばらく変更できません! 後悔の無いよう、とびきりの笑顔でお願いします!」

「笑顔!?」


 失敗が許されない状況下で、しかも急に笑顔を作れと要求されるのはかなり厳しい。

 それでも仕方ない。アンナは深呼吸して、顔をもみほぐす。


「それでは撮ります! 3、2、1!」


(目を開いてニィッと笑え!)


 大丈夫、今まで多くの営業なりなんなりで、笑顔を作るスキルには長けているはずだ。

 そう自分に言い聞かせながら、咄嗟に笑顔を取り繕ってみる。


 ——パシャッ


 だが撮られた写真を後で見返して、デリバーに思いっきり笑われることになったのだった。



 〜〜免許を作成して一時間ぐらいしたあとのこと。

 免許証が完全に出来上がるまで手続きがあるので、少し早めのお昼を食べるべく、この建物に併設されているカフェテリアにやってきた。


「でっけぇ......」


 連絡通路を渡って行った先にあるカフェテリア。

 というより、カフェテリア専用棟といった方がいいだろう。


 職員はもちろん、外部からの客がたくさんいる。

 そして食事のバリエーションもかなり豊富であり、一度では味わい尽くせない、食一つにとんでもない楽しみを感じる。


 自分が学生時代にこのような学食エリアがあれば、もう少し楽しめたなと思いつつ、デリバーに「お昼どうする?」と相談する。


 少し考えて込んで、デリバーは「ゆっくり召しあがろうぜ」といい、パンコーナーへと向かって行った。

 アンナも後を追って、二人でパンをいくつか買い、飲み物を持ってテラス席へと座る。


「外の光が暖かいな」


「うん。ウチもそう思う」


 テラス席は日光が当たる位置にあるので、自然と体が暖まってくる。しかし時々風が吹くので、その度にデリバーは寒そうに震える。


「中に戻る?」

「いや、こんくらい耐えられる。それに人が多すぎるとゆっくりできないからな」


 カフェテリアの入口を見ながら言うデリバー。アンナも後ろを振り返って入口を見ると、既に人だかりができ始めていた。


「だろ?」


「お昼時だからか......」


 それならテラスで時間を潰した方がいい。どのみちもう少し待つ必要がある。

 それまでデリバーと世間話や今後の予定でもしていよう。


「なあデリバー。ちょっと聞きたいんだけど」


 街を見下ろし景色を眺めているデリバーは、アンナに呼ばれて「んん?」と声だけで返事する。


「世間話に付き合って。例えば......。デリバーの今までのこととか」


 そう言うと目を閉じて「う〜ん」と唸るデリバー。

「話すと長いぞ」と言って、彼は買ってきた飲み物を一口だけ啜った。

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