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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第三章 活気と自由の街
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更地の層・初のゴーレム

 第四層。ここは街というより、どこからどう見ても更地である。天井は言うまでもなく高いのだが、地面を踏むと砂のようなものが地表を覆っていることだけが分かる。


 突然、街景色のようなものが消え去り、更地のような層に辿り着いた。そして奇妙な音も、この耳で拾った。何かあるに違いない。


「ここにもトラップだ。隊長さんや。ちょっと下がっててくれ」「悪い、頼む」


 先頭集団がトラップやらを発見し、後方にいるアンナを含めた人々は指示通りに動き、罠を回避する。


 先頭を歩く集団とはそれほど離れていない。会話が普通に聞こえてくるくらいの距離にいる。そして先ほどから、何度も同じような手順で地道に前へと進んでいるのだ。


 トレジャーハンターの勘や罠を発見するスキルも中々の物だと思いつつ。


「各々、その場に止まって! 何かが目の前にいる!」


(とうとう接敵か)


 先頭から女性の声が聞こえた。恐らく「グレイ」と呼ばれていた、あの女騎士だろう。


 声と共に、場に一気に緊迫した空気が流れ始める。


 その様変わりした雰囲気に圧を感じ、唾をごクリと飲み込んで、一応自己防衛もかねて拳を構えておく。アンナだけでなく、他の人々も戦闘態勢をとったようだ。


「デリバー。どう?」


「種類までは分からないが、何か魔術が発動したな。あと二秒でこっちに来る」


「来るって......(まるで動いているみたいな言い方だけど......)」


 魔術が発動したのなら、相棒が察知しているはず。そう思って小声で尋ねると、なんと対象はこちらに向かって迫っているという。しかも二秒で接敵するらしい。


 話を聞いてから既に二秒。何が来るのかと待ち構えていると、何かが地面を蹴る音が聞こえてきた。


 非常にゆっくりとした歩みだ。巨大なものが、ズシン、ズシンと迫ってくるような。


「これは......」


「アール、何ボケッとしているの!? ゴーレムだ、それも結構デカイ!」


「悪いグレイ、僕が引き受けるっ!」


 そして光の無い更地の向こうから現れたのは、高さ五メートルはある巨大な体を持つ、真っ白のゴーレムだった。


(初めて見た......。姿形はよくあるゴーレムだけど......顔に文字が書いてある?)


 この世界に来て初めてゴーレムという、ファンタジーに定番のモンスターを目撃した。


 こういった遺跡などにしか現れないのだろうか。姿形は、まるで動く岩そのものだが、色は真っ白で顔に目のような光がなく、文字が書かれている。


(アレって......アルファベット?)


 この世界の言葉ではない。アンナのいた世界に存在した文字が、目の前のゴーレムの顔に描かれている。


 文字の名前は「E」だ。なぜその文字ひとつだけなのか。意味が全く分からず、勝手に一人で困惑してしまう。


「ゴーレム生成の術か? 錬金術の類がトラップとして存在するとは......。戦争の名残りか何かもな」


「えっ?」


「まだ出てくるな。頭の文字が見えるか?」


 すると隣で気になることを呟く相棒。思わず顔を見るように反応して聞き返すと、なんと頭の文字について触れるではないか。


 まさかアルファベットがこの世界に存在するのかと思い込むが、どうやら違うらしい。

 相棒曰く。


「ゴーレムは特定の文字を刻み、特定の手順を踏むと作られる。文字の意味も、そしてどうして奴らを当たり前のように想像できるのかも謎だがな」


 とのこと。あの文字をアルファベットと認識していないらしい。


「......ホントだ、また出てきた(今度はm、e、t......。Emet? それともEtem?)」


 見慣れない文字列だ。英単語に詳しいわけではないが、今までにあのような文字を目にしたことはない。


「そもそも本当に英単語なのか?」と疑念を抱きつつ、腰に手を当て前方を覗き込むように目を細め観察する。


 全部で四体。地面の砂から這い上がるように生まれてきて、顔にそれぞれ異なる文字を刻んで現れてきた。


 四体が揃うと、盾を構えて身構えるアールに向かって、四体が同時に突っ込んでくる。


 その走力は意外と早く、そして力強く蹴り上げた勢いで大量の砂があたりに舞い上がっていく。


 これが視界を遮ることになってしまっている。おまけに呼吸までしづらい。


 流石に劣勢かと思い、相棒に「助けに行く?」と小声で尋ねるが、即座に否定される。


「これは本来、冒険者の仕事だ。もし誰かが死にそうだと思ったら、そんときは助けてやれ」と言われてしまい、仕方なく様子を見守ることに。


「グゥオっ! 今だ、やれっ!」


「ハァッ!」


 だがそんな悪環境の中でも、アールはゴーレムたちの突進を受け止めた。


 縦に四体同時にぶつかったせいでゴーレムどもが一点に集中する。そこをすかさず、グレイが少し太めの直剣で身近にいたゴーレムの首を切り跳ねた。


「おお、すごいねあの人」


「綺麗にスパっていったな。包丁とか使い慣れてそうだ」


「それとこれは話が別だと思うんだケドぉ......」


 最後尾にいるため、特にやることもなく、戦闘を遠巻きに眺めて冗談を交わすアンナたち。


 ゴーレムも首を切られて機能を停止したのか、砂に還元されていく。残る三体も他の冒険者たちによって葬られていく。


「皆、無事か! ......よかった、特になんともないか。先に進む、ついてくるんだ!」


 色々と気になることが多いと感じたゴーレム戦だったが、特に問題はないと判断したのか、アールは盾を背中に担ぎ直し、再び前へと歩き始めた。


「俺たちも行くぞ」と言って、相棒も前を歩いていく。


 特に異論もなく、先頭集団にはぐれないように自分も足を踏み出した。


「......ん?」


 だが少し歩いて、先ほどゴーレムが消滅した辺りで靴の裏。足の方に何か違和感を感じ、咄嗟に地面を見る。


 目にしたのは白い砂。それと水のように砂の間を這う、薄緑色の液体だけだった。


(水? この地帯の地下水かな)


 地下に潜っているらしいので、水の一つや二つ。例え水滴サイズだろうが、そこらに流れていてもおかしくはない。


 そう思い、立ち止まってしまったせいで離れていった集団に追いつくため、駆け足で前へと進んで行った。




 〜〜〜道中も大したトラップはなかった。


 ゴーレムの襲撃はその後も数度あったが、他の冒険者たちも続々とゴーレムを薙ぎ倒していき、気づけば目の前に階段がある。いつものとは違い、螺旋階段になっているらしく、階段の材質も突然変わっていて、真っ赤な石でできている。


 見つめていると目が痛くなりそうな深紅色だ。そして砂を被って汚れているように感じるが、まるで新品のように輝いており、状態はかなり綺麗である。降りていくと第五層への入り口があるのだろう。


「チィ、大した収穫なかった......」だの、「意外と早く終わったな〜」など。色々な冒険者たちが、各々の感想を述べる。


 目標である四層の攻略が済んでしまった。あっけない終わりにアンナも「なんか物足りない......」と本音を漏らす。


「......なあアンナ。言おうかどうか迷ってんだが......」


「ん?」


「なんか足元......ってより、地面が柔らかいような気がしねえか?」


 すると顎に手を当てて、一人考えるような仕草を見せていた相棒が、恐る恐るアンナに妙なことを打ち明けてきた。


 見たところ別に変わった感じはしない。真っ白の砂が辺り一面にあるだけで、来た道となんら変わりない。


 試しに地面をふみふみしてみると、確かに柔らかいなと感じるが「液状化してんじゃないの?」と適当に返答する。


「いや、目の前に階段があって、そして更地ではあるが道が存在する層だ。かつて整備された土地であり、しかも山のような斜面でもなければ水も流れていない。液状化しているにしては、色々と都合が合わないような......」


「だとしたら何さ。地面が生きてるとでも?」


「......君たち、いったいなんの話をしているんだい?」


 場は既に帰還ムード。油断はしていないが、攻略は既に終わっている。険しい顔をして考え事をしているアンナたちが異常なのか、奇妙なモノを見る目でアールが話しかけてきた。


「気になることでも?」


「うぅむ......。まあいいや。なんでもない、帰ろうぜ隊長さん(魔術の反応もねえし、気のせいだったかな)」


「分かった。どこか痛むとか、言いづらいことなら後から言ってくれ。......では皆、引き上げるぞ!」


 アールの掛け声を聞いた冒険者たちは、皆張り詰めていた表情を崩し、仲間内で談話をするなどして彼についていく。


「俺たちも行くか」


「うん、そうだねぇ。......普通、こういった遺跡の最後には大きな敵が待ち構えているかと思ってけど、なんか予想と違ったなぁ」


「第二層には大きなクマだか何か魔獣がいたらしいがな」


 ダンジョンめいた遺跡の奥には、必ず強大なボスが待ち構えている。RPGやファンタジーには定番なのだが、現実は想像と違ったらしい。


 なんだか期待外れにも思えるが、隊長のアールの言う通り無事でよかったとも思う。帰ったらこの経験を軽く日記にまとめておきたい。


 相棒と談話を交えながら、アールさんの後を追ってゆったりと、柔らかい大地の上を歩き来た道を引き返す。


 お疲れムード漂う中、他の冒険者と何やら笑顔で会話しているアールさんが、ふと後ろを振り返って「グレイはどうする?」と何やら同意を求めるように、あの女騎士に向かって何かを尋ねた。


 だが後ろを振り返っても、彼女はいない。そのことに気づいたアールが「アレ?」と不思議そうに視線を動かし、彼女の姿を探している。


 その様を偶然目にしたアンナ。そういえばいつも隣にいるはずの彼女はどこに行ったのかと、目であたりを見渡す。


「......グレイ?」


「どうしたんすか、隊長?」


「いや、アイツの姿が......」


 仲間の発言に答えつつ、視線であたりを一瞥しているアール。その表情に段々と焦りの色が現れ始め、その場で足を止めてもう一度あたりを見渡し始め。


「なんであんな場所で突っ立って......」


 第五層への階段が望める場所。そのすぐ近く。つまり先ほど、第四層攻略終了の宣言をした場所に、グレイさんが立ち尽くしていた。

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