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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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まだ若い君へ

 自身の胸に頭を寄せて、優しく撫でてやる。


(ちょっと、強引すぎたかな)


 弟にも似たように抱いて、愛情パワーを注入したり、逆に元気を分けてもらったりしたことがあった。


 それと似たように、そしてマイルスの今後を願って。今しかできないと直感で感じ、彼に精一杯の気持ちで優しくした。


 親を殺されるかもしれない世界。ロットのように無慈悲に、狂った考えを持つかもしれない可能性。そんな可能性が数多の人間に降りかかっていく。


 そしてマイルスも世界の地獄を、まだ若いにもかかわらず味わってしまった。突然親が殺され、自分の街がめちゃくちゃにされる。社畜になるよりもよっぽど辛いことだ。


 なのに今まで、考えが違った時もあれど、彼は歩いてきた。たとえそれが牛歩の歩みでも、苦痛を胸の奥にしまってまで。


「......オレは、大人になったつもりだったのに」


 顔を埋めたまま、ボソリと悔しそうに呟くマイルス。


 子供ほど、大人になりたがる。だが大人になって「子供の頃が良かった」と思うこともある。


 彼の言いたいことはよくわかる。今一度、背中を優しくさすって「そうだねぇ」とおばあちゃんのような優しい言葉で呟いた。


「そんなすぐに大人にならなくても、まだいいんだよ。自分のペースで、頑張って」


 自分のペース。生きる上で大事なことの一つだ。


 最近わかってきたことがある。この世界は、自分にとっては未知で、歩いて見て知るだけで楽しい。


 だが、この世界に生まれ、生きてきた人間にとって、世界とは安定しないもの。才能にもよるが個人レベルで魔法や魔術が扱え、その魔術などの力により簡単に街が破壊される。


(この世界は......。きっと、残酷なのかもなぁ)


 銃社会がどうとか、そんなレベルの話じゃない。魔術や魔法の技術が存在しており、その分良く言い換えれば技術力は意外と発展している。


 個々人の能力も個性があり、適正が明確に別れており、色んな人間が活躍できる社会でもある。


 だが悪く言えば、誰もが凶器を隠して持ち歩く世界なのだ。


 ロットの顔を思い浮かべながら、そんな最悪な妄想をする。マイルスの頭に手を置いて、目を閉じる。


「自分のペース......」


「......そうそう、自分のペースでねぇ」


 酒も入っているせいだ。感情がいつもより深く、どこかマイルスが健気に思えて仕方ない。


 悔しそうな彼に感情移入が段々と強くなっていき、かつての過去も思い返し、勝手に胸の内で情緒が高まり涙袋に涙が溜まっていく。



「......何やってんだお前ら」



「うおおおっ!! 帰ってたのか!?」


 そんなやりとりの最中、トイレから帰ってきたデリバーが、二人が抱き合っているのを見て額に汗を浮かべ口を半開きにし驚き固まっている。何をそんなに驚くことがあるのか。


「ん? デリバーも、やる?」


 焦ってアンナを突き飛ばすようにして離れ、自身の胸あたりを抑えて心音を落ち着かせようとするマイルス。


 そんな彼になりふり構わず、今度は対象の矛先をデリバーに向けて、両手を広げて「ん」と一言。


「何だ、今度はハグ魔になるつもりか? お前、実は魔性の女だろ」


「別にいいじゃんかぁ。友達とハグすることの、何がいけないんさ?」


「......まだ酒が頭に回ってるな。一回水飲んで、トイレ行って顔洗ってこい」


「はぁ......」


 意味が分からず、言われた通りに水を飲み、顔を洗いに行くことにした。




 〜〜〜珍しく酔いが覚めない。まだ頭がほんの少し浮かれている中。


「......明日。行くのか?」


 酒の席も終わり。三人は夜の街を気ままに散歩し、夜風を浴びていた。


 その道中、度々「明日には帰る」と言っていたことを聞き逃さず、本当かどうか尋ねてくるマイルス。


「ああ。もう用はない。次の街に行くつもりだ」


「次か......見送りは?」


「別に来ても構わんが、待ち合わせとかするつもりはない。出発予定時刻は朝だ。一応、言っておく」


(待ち合わせしてたら出発遅れるしなぁ)


 最後の別れの挨拶。それを伝えたいのだろうが、マイルスが上手く鉢合わせるか。もし無理なら、そのままさよならとなる。


 ドライな感じかもしれないが、マイルスとはこの街でのみの関係。次に会えるか、会えないか。一生の内に会えるかどうかなんて分からない。


 なので思い切って、感傷に浸る時間を作るより、あっさり別れた方がいい。旅人とはそういうものだから。


「分かった。できるだけ頑張ってみるぜ」


 アンナたちは適当に街を出るだけ。マイルスはわざわざ朝から、街の出入り口にて張り込みをせねばならない。


 苦労させるのは目に見えているが、そこまでして別れを言いたいなら、なぜ今言っておかないのかとも思ってしまう。


 なので「今、言っちゃえば?」と、とても客観的に見れば分かるが「今言う」よりも「別れのその日に言いたい」という、人間のめんどくさいところを考慮できず、素直に本心を口にしてしまった。


 最初は「うっ」と言葉に詰まるマイルスだったが、まるで逃げるように数歩先に前を歩き。


「とにかく! 別れはその日に言わねえと気が済まないんだ! 分かったか、じゃあな!」


「えっ? ちょ、どこ行くの〜!」


「帰る!」


 話を聞かない子供のように突っ走り、そのまま姿が見えなくなってしまった。


「ウチ......何か変なこと言ったかなぁ」


 アンナの中身はインターネット溢れる時代に生きた現代人。会おうと思えば、連絡を取ろうと思えばいつでもできた時代。


 だから個人の別れに関して、ちょっとドライだが「後から言えるしいっか」と、この世界とは価値観に相違があった。


 別れの言葉だってスマホで言えばいい。そんなことを思う人種でもあった。


 だから突っ走るマイルスの背中をぼーっと見ていた、隣で突っ立っているデリバーにすら「お前って意外と冷たいとこあるよな」と言われてしまった。


「そんな会えないもんかねぇ」


「世界は広い。個人的に連絡を取り合う手段はあるにはあるが、俺たちの手元には無い。無論、マイルスもな」


「......ふぅん」


 言いたいことも分からないことはないが、やはり現代人の(さが)がまだ拭いきれず、ちょっと違和感を感じる。


 別れた人とどこかでばったり会える。狭い大地「日本」で暮らしてきたからこそ、現代人関係なしにそう思うのかもしれない。


 まだこの世界に来て日が浅い。世界の広さも正直よく分からない。街だってまだ二つしか訪れていない。


(......二つしか行ってないってのに、結構濃い体験してんなぁ)


「ほら、帰るぞ」


「うん」


 お酒の影響か眠気はある。普段よりかなり強く、少しぼーっとしてしまう。


 とっとと宿に帰り、そして朝早く起きなければ。


 大きくあくびをして、二人は散歩を中止して、宿への帰路についた。

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