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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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初めから・今までずっと

 一歩。そしてまた一歩。アンナは石の床を踏み、微妙に三段だけ段差になっている足場を踏み越えて、腰を後ろに引きつついつでも飛び下がれるように前へ進む。


 目的は目の前に寝っ転がる男。一枚の薄い布を毛布のように上からかけた状態で、こんな奇妙な場所で眠っている男に近づき、その正体を明らかにするのだ。


「......」


 なぜか心臓の鼓動が早くなる。手に汗が滲み出る。もしかするとこの事件の、腐食現象の首謀者かもしれない男が、目の前で無防備に寝ているのだ。


 もし彼が元凶だったら。マイルスはどうするか。自分はどうすればいいか。それとも寝ているフリで、アンナを殺す隙を伺っているのか。


「っ......(お、落ち着け! 耳を澄ませ、しっかり見るんだ!)」


 後ろでマイルスが黙って見ている。アンナは歩いているだけ。目的の男はいまだに眠っている。


 耳を傾ければ、寝息のような、呼吸のような音が聞こえる。体が僅かに上下に動いている。つまり、相手は生きている。


 残りちょっとだ。あと二歩歩けば彼に触れられる。

 ここまでくれば、左腕を伸ばすだけでいい。いざと言うときに使えるのはこっちの手だ。


「っ、掴んだ!」


 そしてガシッと、彼の上にかけられた布を掴み、ゆっくりと引き剥がした。


 まず暴くべきは、武器を仕込んでいるかどうかの確認だ。

 そのために布を掴んで引っ張ったのだ。


「......っ!」


 布を引っ張ることに成功した。無事に相手の格好を見ることができた。


(これは......武器? それを沢山身につけているのか?)


 布をとっても相手は起きることなく、大人しく横たわり続けている。


 そして布の下には、まるで防弾ベストのような物が見えた。


 なぜか前側を止めるためのチャックが空いていて、ベストの内側が覗き込めた。

 その隙間を見ると、何やら道具が何個か確認できる。


 それにしてもこの服装は、何かを連想させるものだった。


 外の景色。深い暗闇に対応するかのごとく真っ黒なベスト。そしてベスト以外はタイツに似た物を着ていて、これなら物陰に隠れられると一眼では判別しにくい。


 まるで暗殺者......というより、街中でたまにすれ違う()()()()の装備に似ている。


「......どういうことだ?」


「アンナ? どうした?」


「いや......えっと......。今から顔を見るよ」


 衣装が使い込まれていて、ハンターのような服を着ていることから、本当にこの人が敵だと思えなくなり、思わずオロオロと慌ててしまった。


 その慌てぶりを不審に思われて、マイルスに余計な迷惑をかけてしまったようだ。


 とりあえず、顔を確認しないことには始まらない。

 こっそりと反対側に周り、隠れた顔を見るべく顔を近づけた。


「......へっ?」


 そして思いも寄らない事実を知り、思考が完全に止まり、間抜けな声を漏らして腰を抜かし尻餅をついてしまった。


「なんだ?」


「な、な、なんで......えっ? う、うそ......だ.......」


 この場所にいるということは、つまり敵の可能性があるということ。


 あのローブ姿の輩は言った。この先の罠を越え、そこにある杖を使えば「彼」に会えると。


 目的の人は間違いなく「男」だ。そしてこの場に不自然に寝っ転がっているのも男。

 つまり、ほぼ間違いなく「敵」なのである。


 だから、信じたくなかった。この顔の主が、アンナのとてもよく知っている人だったからだ。


 尻餅をついてゆっくりと後退り、段差があることに気づかず体がバランスを崩し、腕を下敷きにして横から転がり落ちる。


 小さな階段が三段分だ。怪我はなかったが、男の正体を知ってしまい、衝撃が体を襲っていて、腕や腰。足に力が入らない。


「......なんで?」


「おいアンナ!? どうした、落ち着け!」


 明らかに様子がおかしくなるアンナを心配してか、マイルスがなりふり構わず飛び出し、男の体を飛び越えてアンナに寄り添ってきた。


 両肩を掴み「大丈夫か!?」と声をかけ、地面に手をつけたまま一筋の汗を浮かべ、下を俯くアンナの顔を覗き込む。



「......誰だ」



「っ!? てめえこそ誰......だ......。......あ?」


 寝っ転がっていた男が、まるで本当に寝起きだったといかのごとく、ハッキリしない弱々しい小さな声でつぶやいた。


 そして聞き覚えのある声と、以前にも見たことのある顔。それを見て、マイルスも同じく言葉を失い、「なん、だと......?」と驚愕しつつ段差の上の男を見開いた目で見ていた。


「やはりお前たち......。というより、お前は来ると思っていたが。意外と早かったな」


 やはりとの口ぶりから、デリバーの予測。「アンナか俺。もしくは似たやつを誘っている」という彼の言葉を思い出す。



 この男はアンナを含め、ある条件を設けて誰かを待っていた。そのために、街を脅かすことをしたのだろうか。


 だとしたらとても身勝手な行為だ。許されざる犯罪者だ。


 また推測通りなら、自分のせいで街を巻き込んでしまったことになる。



 こういった必要のない憶測を脳内で繰り返してしまい、勝手に内心で怒りが増していくのを抑え、右手で目の当たりを強く抑える。


 指圧で目を閉じさせ、左手で怒りを沈めるように胸のあたりを少しさすりつつ、ゆっくりと息を吐く。


「お前ですら俺の正体を見破れなかった。......側から演技をしていて、中々面白かったぞ?」


 まるで煽るような口調。自分の知っているあの男とは違い、明確な敵意を持った上での話し方。


「......ねぇ。これも......また何か、唐突な無茶振り? それとも......本気なのか?」


 未だに信じたくないという葛藤と、目の前の男の正体を見破れなかった自分の愚かさ。色々と複雑な感情が混じり合い、心が荒ぶりそうになるのを堪えつつ、静かな声で語りかけた。


 信じたくない事実を目の当たりにし、()()()()()()()()()()()()()()()()ことの恐怖や怒りによって正気が狂いかけたが、なんとか冷静を保ち話しかけることができた。


 しかし「実は敵だった」なんて、よくあるベタな展開だが、こうして対面すると様々な感情が心の中で渦巻き、それらを振り払うように抗おうとすると、意外と冷静な気持ちになれる。

 事実として受け入れて割り切ってしまえば簡単な話だ。


 目を開きスクっと立ち上がり、両手を強く握りしめて、段差の上にいる男の顔をじっと見つめる。


「その目つき......。切り替えが思いのほか早い。意外と情にあっさりしているな。お前も実はろくでなしか?」


「情......ね」


 とても冷酷で、感情を切り捨てたかのような、悟りを開いた人間のように冷たい様子で、段差の上の男は見つめてくる。


 相手は完全に敵だ。そして意図はわからないが、昨日の話。アンナを誘った理由が、憶測だが理解できた。


 この男は「腕の力」をどこかで知ったと思われる。だから今まで接触していたのだろう。


 アンナは段差の上に立つ、一晩で随分と見た目や様子が変わったかつての友の名前を、唸り声のように低く掠れた声で呼んだ。


「......ロット」


「ああ、俺だ。そして歓迎しよう。君たちは俺の試練を乗り越えた。最終試験の始まりだ」

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