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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第一章 旅の幕開け
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「変わり者のオッドアイ」さん

 変わり者のオッドアイ。その名の通り、本当に変わっている人物だった。


「ワァオ!! なになに、どうしたのよその子!? 悲壮感すっごいわね! けど可愛い顔してるぅ〜」


 ドアを開けるなりすぐに「デリバーじゃん!」と再会を喜んでいたかと思えば、オッドアイさんと思われる女性はアンナを見て、直球な感想を投げつけてきた。


「この人がオッドアイ。俺と同じとこ出身で、実は昔告白して紆余曲折。色々あった仲だ」


 かつてのことを思い出したのか、少し悲しそうな顔のデリバー。

「それは衝撃の事実なんだけど」と素っ気なく返答する。


 オッドアイさん。瞳は青と赤のオッドアイで左が青で右が赤、髪はデリバーと似て銀髪、そしてめちゃくちゃスタイルが良い美人だ。ついでに胸の大きさも太ももの引き締まり具合もアンナより上である。

 おまけに身長もアンナより二十センチくらい高い、百八十センチくらいでデリバーと同じくらいだ。


「ちなみに学園のマドンナだったぜ」とそっと耳打ちしてくるデリバー。なるほど、確かにあの体型は暴力的だ。


「おやおや、アタシのボディに惹かれちまったかい? ふふ、どうぞもっと見たまえ諸君っ!!」


 わざわざ練習したのか、唐突に一人でモデルのようにポーズを取り始める。自分の体にかなりの自信があるようだ。


 正直女として生まれ変わった今、生前よりも更に女に興味がなくなってしまい、あのような体を見ても興奮はしない。すごいなと思うくらいだ。


 ふと気になってデリバーを見てみると「全く......」と呆れた様子でいる。いつものやり取りなのだろうか。


「いやそんなんことよりも。ネイ、お前に頼みがある。至急、こいつの腕を見て欲しい」


 デリバーの意外な返答に、流石にふざけていられなくなったのか、オッドアイさんは真面目な表情を取り繕い、二人で椅子に座り話し込む。


 そのまま二人で話し込むので、アンナは完全に蚊帳の外である。


 このままでは暇なので、失礼のないよう家の中を見て回ることに。



 まずお部屋を探索すると、値札の着いた商品に、怪しそうな薬や瓶詰めの飲み物、何かのホルマリン漬けなど、研究職を漂わせる場所だ。


 人が一人横になれるサイズのソファが置いてあり、長机がソファの前に配置されている。会社の応接室を思わせるような部分もある。


 そして他にも色々と()()になりそうなものが棚に陳列してあり、それぞれに値札が付いている。


 だがそこ以外は生活感があふれており、日用品が置いてある棚がいくつかある。値札がついていないので、やはり私的なものだろう。



(知る人ぞ知る隠れたお店って感じか。どれもこれもお得意様専用ってわけだ)


 色々と見て回っているうちに、話が終わったのか、オッドアイさんに後ろから突然両肩を掴まれた。


「よっ!! アンナちゃんって言うんだよね?」


 無言で頷く。するとアンナの体をくるっと回転させ、百八十度回転させたとこでガシっと肩を掴み直し、お互い顔を合わせる形となる。


 何がしたいのかわからず眉を寄せていると、オッドアイさんは「アタシ好みだ。いいねぇ」と訳のわからないことを言い出した。


「それじゃデリバー。この子預かるよ!」

「ああ。俺は今日中に用事済ませてくる」


 なんとデリバーはアンナを置いて、足早にこの家を出てしまった。

 しかもオッドアイの「預かる」と言うセリフ。あまりに唐突な話の流れについていけないでいると、オッドアイさんが。


「今日はアタシの家に泊まることになったんだ。アイツはアイツの仕事があるから、それを待つためにも今日はここにいなよ」


 アンナ抜きでアンナの処遇を決めたらしい。

 こちらは勝手に金魚の糞としてついて行った身だ。とやかく言う立場ではないし、言うつもりもない。


 でも一つ不安がある。

(この人......。大丈夫かなぁ)


 アンナとは真逆の性質の人間。まるでギャルのような天真爛漫な振る舞い。正直、相手にしていると疲れるタイプだ。

 デリバーの何倍も明るい性格で人当たりが良いのはわかるのだが。その分いろんなところに振り回されそうな予感がある。


「なんだい不安かねぇ?」


 デリバーと同じように相手の心を見抜くのにも長けているらしい。


 髪の色といい性格と言い、ちょっと違うけどデリバーとオッドアイさんには似ている部分がある。

 もしかすると生き別れの兄妹なのではと疑うくらいだ。


「ウチは貴方のことを何も知らない。だから不安だ」

「あ〜ん、そんな自立人形みたいな話し方しちゃって〜」


 オッドアイさんに軽くあしらわれる。自立人形とはなんだろうかと気になるが、それよりも今は。


「それでオッドアイさん。この腕について何かわかりますか?」

 この街にきた目的の一つ。この腕をどうにかしてもらうことだ。


「んんん? あ、それね。ちょっと見せてみ」


 言われた通り左腕を恐る恐る見せる。

 するとなんの躊躇いもなく「よいしょ」と触り、そのまましばらく時間が経過した。


(ウチの腕に触っても平気で、しかもずっとこのまま。何かわかったのか?)


 少しの期待を胸に抱き、さらに様子を見たまま数分後。よく見るとオッドアイさんの瞳が淡く発光している。何かしら眼に能力でも宿っているのだろうか。


 すると間も無く「ちょっと待ってて」と言って、オッドアイさんは近くの棚からネズミが詰められた瓶を持ってくる。


「これを左手で掴んだまま『殺す』って念とか送れる?」

「ね、念!?」


 そんな超能力者でもあるまいし。そう思いつつ、言われた通りに「殺す」といった気持ちをこめて念を送ってみる。


「うわっ!」

「やっぱり......。聞いてた話と今()()結果から推測した通りねぇ」


 すると今度は、瓶に詰められていたネズミが爆散した。その様子を見ていたオッドアイさんが「発動条件はやっぱり恐怖や殺意か......」と小言を挟む。


 この死に方には見覚えがあり、そしてネズミを殺した瞬間の感触も記憶にある。


「......っ(嫌な気分だ)」

「発君の腕はなんらかの方法で相手を殺すことに特化してる。それが何かはアタシにもわからないけど、対策なら思い付いたわ」


 瓶をオッドアイさんに返す。彼女はそのまま瓶を持って、再び棚から何かを持ってきた。

 持ってきたのは木の箱。それを目の前で開けられて、中身を目にしてしまい思わずゾッとした。


「こ、これは......」

「今から君の腕に『コレ』を打ち込む。痛いけど我慢してね」


 オッドアイさんが持っているのは、直径一センチほどしかない小さな黒色の玉。そして木の箱に入っているのは、釘を打ち込むために使うようなハンマーやメス、ハサミなどだ。


 まず手始めにアンナの左腕を、持ってきた机の上に固定させる。

 次に工具箱の中からハンマーを取り出し、黒い玉をアンナの左腕に乗っける。


「え、ちょっ」

「それじゃいくよ〜。痛みは一瞬だからね〜」

「痛みぃ!?


 ごクリと唾を飲み、痛みに耐える心構えをする。目は瞑らず、驚いて暴れないようにしっかりと見る。


「ホイっ!」


 オッドアイさんがハンマーを振り上げて、腕に乗った黒い玉目掛けて打ち下ろす。

 ハンマーが腕に打ち付けられた時、金属の反射音が鳴り響き、黒い玉が砕ける音がした。


 予想と違って痛みは全くない。

「あれっ?」と不思議に思っていると、オッドアイさんもたまげた様子で()()()()()()()()()()()を凝視し、「うっそぉ......」と驚きの一言を口にする。


 そういえば以前も、腕に槍の刃が通らずに弾き返したことがあった。

 腕だというのに、どうやらその強度は計り知れない硬さらしい。


 だが思いっきり振り下ろされたせいか、砕けた黒い玉の破片が左腕の皮膚を少しだけ切り裂いていた。もちろん痛みは無い。

 どうやら目的はこれだったらしく、折れたハンマーを即座に捨てて、左腕の切り傷から流れた少量の血で呪術のような文字を書いていく。


「封印!」とオッドアイが叫び、そして黒い玉の破片が段々と文字になっていく。そのまま切り傷を経由して、まるで皮膚の下に潜り込むかのように、黒い模様がびっしりと左腕にまとわりついていった。


「これでよし。あとはコレ巻いてね」と腕を隠すためなのか黒い布を渡される。

 どうやらあれほど悩んでいた問題が、こんなあっさりと単純に片付いてしまったらしい。


 それでもどことなしか、妙に燻る不安が残り続けている。


(原因の根幹はそうじゃないような......。もっとこう、別の方面から——)


 そう一人で思い悩んでいると、「今考えても仕方ないよ」とオッドアイさんがアンナと目線を合わせて話す。


「君がネズミを殺った時、不思議な魔力の流れを感じた。だから荒療治になるけど、その腕に流れる妙な魔力の流れを止める術を施しただけ。まあ、君が恐れていたように、見ず知らずの人間を殺してしまうような事故はもう起きないよ」


「そうですか」


 一応詳しく説明されて安心した。しかしオッドアイさんは工具を片付けながら、眉を寄せて「んんんぅ......」と難しい顔をして唸る。


 腕に布を撒きながら次の言葉を待つ。しばらくして、オッドアイさんが木の箱を元の場所に戻しに行って、棚を漁りながら困った口調で言った。


「話の通りなら、君は妙な研究室で目覚めたんだよね? しかも記憶が少し欠けてるんだとか」


「ええ。生まれ故郷とかなんとなく覚えてることはありますけど」


 以前、デリバーにことの顛末を少し説明したことがある。その時の話を聞いたのだろう。


 しかし、アンナが別の世界から転生したこと。そしてかつての身分など全てを話したわけではない。

 だから彼らはアンナのことを「何かしらの実験体の被害者」くらいにしか思っていないだろう。


「君の力は人工的に作られた以上、それは製作者にしかわからない。だから今は可能性の予防しかできない。でもいつか、全てが明らかになるし、それに君はその腕を制御する必要もある」

「制御?」


 確かにそうだ。製作者にしかわからないことを今解き明かすのも無謀。そしてできる限りの予防はしておくべきである。


 しかし制御とはどういうことだろうか。この腕の能力は封印されたと思っていたのだが。

 そのことについて問いただすと、少し沈黙して「少しややこしい話だからなぁ」と呟くオッドアイさん。


「今はちょっと疲れてるから......。また今度でいいかな?」


 先程の作業が疲れに響いたのだろうか。だとしたら申し訳ない。聞くのはまた今度でもいいだろう。

 しかし本当に大丈夫なのか不安が残る。その気持ちが思わず言葉となって口に出てしまった。


「ちょっと不安になってきた......」

「おいおい、今考えてもしょうがないぜ? それよりも今は、問題も解決したんだからさ。一緒にゆっくりしないかな?」


 工具を片付けて戻ってきたオッドアイ。アンナの胸を突き、ニヤニヤと何かを企んでいる顔をしている。

 無言で見つめていると、思わぬ提案が彼女の口から飛び出してきた。


「まずはオシャレしよっか! そんで街に出てカッフェでおやつ、そして極め付けは一緒にお風呂に入りましょー!」

「はえっ?」


 思わず間抜けな声が漏れて立ち尽くしているところを、オッドアイさんは手を握り、そのままオッドアイさんの部屋へと連れて行かれた。

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