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マリアと王女

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40/55

40.それが、恋

「えっ!?私たち、王宮に住むんですか?」


 急な話題にマリアは驚き、テオは頷いた。


 ここはマクレナン王宮の客室。


 シュネーバルツァと共に荷をまとめて王宮へ向かえとテオから手紙が来て、何かと思えばいきなりの滞在要求である。


「じゃあ、しばらくレースには出られないわね」

「事情が事情なだけに、仕方なかろう」

「女王の即位はいつ?」

「それも決まっていない。出来れば敵を殲滅次第、というところか」

「パトリック王子は?」

「逃亡しているらしく、現在捜索中だ。誰も口を割らぬが、あの日賊と護衛を手配したのも恐らくパトリック王子だ」

「……何てこと」


 崩れ落ちるように身を預けて来た妻の肩を、テオは抱き止めた。


「少し落ち着かないが、王女も街を外れると危険だ。我々は王女の力になるために、しばらくはここで過ごそう」

「はい……王の命なら、仕方ありませんね」

「何。面倒な陰謀は私達に任せて、君は馬に乗っていればいい。そういう意味では、ここはローヴァイン領と変わらん。この王宮にある庭も、馬を走らせるにはなかなかのものだぞ」


 マリアは夫の胸から離れると、客間の窓から王宮の庭を見下ろした。


 トラヴィス王がかつて馬を走らせた、都会の中にあって広大な庭。ふと視線を走らせると、障害物競走の出来る馬術スペースがある。マリアの目が光った。


「あら、あんないいものがあるのね……」

「障害物だ。騎士はあの訓練を存分に行う」

「騎士の訓練?」

「マリアもやってみるか?どうせ部屋にいてもやることがないし、気が滅入るから庭に出てみるか」

「そうですね。ブリュンヒルデ様もお誘いしましょう」




 マリアがしばらく庭でシュネーバルツァと待っていると、乗馬服姿のブリュンヒルデがやって来た。


 心なしか、王女の顔色は乗馬に臨んでいつもより明るい。


 テオは一足先に、障害物の訓練をしていた。


 ブリュンヒルデはシュネーバルツァに触れると、にこりと笑った。


 あんなに馬を嫌がっていたのに、急に馬と打ち解けたのかとマリアは驚く。


「ブリュンヒルデ様、随分と馬に慣れましたね」


 すると、なぜか王女は悪事を暴かれでもしたかのように、びくりと肩をすくめる。


「そ、そうかしら……」

「シュネーバルツァに向ける視線が、明らかに優しくなりましたよ」

「!」

「ね、王女様。馬の可愛さに気づいたんでしょう。馬は人間と違って、無邪気で、正直で、計算を知りませんから。でも、欲に忠実でひたむきなんです」


 ブリュンヒルデはしばらくその言葉を咀嚼してから、小さく呟いた。


「馬も、飼い主に似るのかしら……」

「飼い主って、パウルさんのことですか?」


 王女は赤くなって黙った。


 マリアもそれを見て、少し赤くなる。


「……パウルさんは、今どうしてますか?」

「はい。実は彼は今、肋骨を折って王宮内の医務室にて静養しています」

「肋骨を……?」

「彼、あの日私を助けようとして、怪我をしてしまったんです」


 マリアは平静を装って頷きながら、心の中でパウルに拍手喝采した。


「まあ。それは大変でしたね。王女様も、パウルさんも」

「はい。贖罪を兼ねて毎日、お見舞いに行っています」

「!毎日……?」

「や、やっぱり行き過ぎよね……あちらも迷惑でしょうし、そろそろ控えようかしら」


 それを聞きながら、マリアは心の中で大いに悶えた。


「そうだ、王女様。上手にシュネーバルツァに乗っているところを、パウルさんに見せてあげましょうよ」


 ブリュンヒルデはハッと顔を上げる。


「シュネーバルツァに?」

「そうです。彼女はパウルさんの愛馬ですから、王女様が乗りこなせばきっと喜びますよ」

「なるほど……そうね」


 王女はスッと真剣な眼差しになる。


 鞍に手をかけ、鐙に足をかけ、勢いをつけて飛び乗る。


 シュネーバルツァは、王女に乗られるまで行儀よく待っている。ブリュンヒルデは手綱を引くと、馬を一歩一歩、歩ませた。


 マリアは驚きにぽかんと口を開ける。


 あんなに馬を怖がっていたのに、急に王女が馬を怖がらなくなっていた。


(これが……恋の力)


 マリアは月並みにそんなことを思い、心を震わせる。


 寝室係になったのだから、こういったことも手引きすべきなのだろうか。


(でもブリュンヒルデ様だって大人だし、ここは見守った方がいいのかも……)


 遠ざかって行く王女の背中を見ていると、テオがやって来た。


「おー、ついに王女が馬を操るようになったか!」

「ええ。だって、愛しの彼の馬ですものね?」


 テオはマリアの言葉に首を捻った。


「愛しの?まさか……パウルのことか!?」

「ええ、多分。王女様はパウルを好いていらっしゃいます」

「……なぜ?」

「……それは私にも分かりかねます。でも、パウルさんは真っすぐでちょっと熱くて、とてもいい人ですよね」

「パウルは22歳。王女は25歳。年下の夫だが……」

「あなたが歳の差の話をする……?」

「ははは。まぁ婿入りと考えると、年下でちょうどいいかもしれんな」


 と、遠ざかり過ぎた王女が馬に乗ったまま叫んだ。


「止まらない!だ、誰かこの子を止めてー!」

「おっと、大変だ」


 走り行くテオを眺め、マリアはしみじみと呟いた。


「ふふふ。止まらない、止められない……なんてね」


 そこに。


「こんにちは」


 ふらりとパウルが現れた。マリアは恋物語の主人公の登場に、パッと顔を輝かせる。


「あら、お久しぶりですパウルさん!体はもう大丈夫なの?」

「はい。運動は出来ませんが、歩くぐらいの日常生活なら、何とか」

「医務室で寝ているだけというのも暇ですものね」

「はい。だから、ちょっと見に来てみました」


 遠くでブリュンヒルデがパウルを見つけ、にこりと笑う。


 パウルは少し表情を固くして、何か考えているようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子本人の足取りを追うことよりも 王子派のせん滅を優先している王様とテオが頼もしいですね。 仮にパトリックが国外まで逃げ延びて外国の力を 狩りて攻めて来たら、ただの侵略戦争。 ブリュンヒル…
[気になる点] あいつはどこに行ったのかなぁ。 王子と一緒に隠れているのだろうけど、何をしでかすかわからないところが不気味ですね。 [一言] なんか、パウルが王女のためにもう一肌も二肌も脱ぎそうですね…
[良い点] いい感じだね!パウルさんは長男だっけ?あと、身分が釣り合うかな?
2021/01/20 15:59 退会済み
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