~第8幕~
俺と宮迫はトランプビル近くの建物の物陰に隠れて、缶コーヒーを飲みながら時間を過ごした。宮迫は1日1500円程度しか稼げてない計算になるが、俺にコーヒーを奢る経済力なんてあるのだろうか? 俺が飲んでいるコーヒーは彼の奢りだ。変な気持ちになるが俺はゆっくりと飲み乾した。
「そろそろですか?」
「うん、そろそろだ」
宮迫は腕時計を見る。俺の体内時計的には30分を過ぎたと思う。
俺達は裏口から入った――
案の定、宮迫の言うとおり甲高い赤ん坊の声が聴こえていた。さらに渡部の「クソ! ちゃんとやれ! このクズが!!」という声が続く。
「マジか……確かにチャラ男な感じはしたけど、まさか本当にこうだとは……」
「ど、ど、ど、どうしよう門島君?!」
「兒島だよ」
このおっさん、人を誘っておきながら何でここに来て及び腰になっているのか。「おい! まずいって! 開けるなって!」っていう宮迫のビビリ声を背に俺はドアを開けた。溜息をつきながら――
俺達が見たのは赤ちゃん? を模したマネキンでトイレ介助の練習をしていた渡部だった。なるほど、あの悲鳴の発生源はこのマネキンか。
一瞬時が止まったが渡部は即座に「何勝手に覗いているの!?」と激高した。しかし俺も俺で負けるワケがなかった。
「お前こそ何勝手に私有地を使用しているのよ!? そのマネキンの声が廊下に響き渡っているぞ!? 会社に知られたら、仕事なくなるぞ!?」
「何だ……!? 俺を脅す気か!?」
「いや、脅すとかの問題じゃない! だいたいそのマネキン、赤ん坊みたいな形をしていて何でそんな悍ましい悲鳴あげるの!?」
「これしか売ってなかったからだ!」
「どこで買ったのよ!? おい! そこ! 笑うな!」
気がつけば、宮迫は腹を抱えて笑っていた。何だよ、このオヤジ。
「まったく……何なのかと思ったら、お子さんのトイレ介助の練習かよ」
「お、おう……そうだ。何でわかった?」
「どう見ても分かるだろが! ほら、ここに鳴き声を止めるスイッチがあるから、押しとくぞ」
「待て! それを止めたら臨場感が!?」
「いらないだろ!! そんなものは!!」
俺は長年の介護の知識を活かして、赤子のトイレ介助に関して俺なりに渡部へ伝授した。確かに彼の介助の仕方は多少問題がありすぎたようだが、ある程度の訓練をすれば改善ができるようにも思えた。
「助かる! また明日もお願いできるか?」
「おう、まぁ、練習すれば出来そうな感じがするな」
「勉強になった! 俺、孫がいるけど、活かせそうだし、俺も参加していいかな?」
「はいはい、どうぞ。宮迫さんも良かったですね~」
こうして俺による俺達の赤ちゃん介護の勉強会が暫く続いた。そしてその中で俺達に絆のようなものが生まれていった――
∀・)ブラック企業で友情を育むの巻でした!だんだん兒島さんもニッコリ警備に慣れてきた模様(笑)また1時間後!!