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~第2幕~

 破天荒で訳がわからない社風のノリを見せつけられたものだが、意外にもそこから始まったのは親身な大和田による俺の話の傾聴だった。



 その雰囲気に反して大和田と言う男は柔和で話しやすい受け答えをしてみせた。気が付けば俺も赤裸々に物事を話す彼のように自身が退職した経緯を話していた。



「そうか……そうだったのか。それはさぞ苦しかっただろうな」

「はい、すごく辛かったです。まさか自分の仕事で自分がしたくないことをやるハメになるなんて」



 俺は気が付けば涙を流していた。大和田が顔を近づける。



「兒島君、大丈夫だ。我々の仕事は『警備』という社会の営みを護る使命にある。君の嫌がる一発芸を仕事でやることなど絶対にないよ……!」

「本当ですか?」

「ああ、サッシー、彼を小池電機まで連れてってくれるか?」

「あいよー」



 気の抜けた彼女は「イケメン特集」と表紙にある雑誌をソファーで寛ぎながら読んでいたようだ。自由過ぎるだろとツッコミを入れたくなりつつも、ゆっくり立ち上がって動きだした彼女についていった。



「ランボルギーニ!?」



 俺は思わず声にだして驚いてみせた。



「何か?」

「いや、メッチャ高級車じゃないですか!? 乗っていいのです!?」

「うん、会社の車だし。ウチ余裕で儲かっているし。傷つけてもいいよ。替えがまだあるからね。運転してみる?」

「え!? 替えなんてあるの!?」

「鈴木の軽だけどね~」



 いきなり凄くランク変わるな。尚更傷つける訳できないぞ。



 俺は指原の運転するランボルギーニで小池電機まで向かった――




 そこで目にしたのは目を疑うような光景だった。



「たけし叔父ちゃん!?」



 駐車場の出入り口で叔父が車の誘導業務にあたっていた。気になったのはその全身ピンクのユニフォームの胸ポケットにデザインされているあざといハート印。だけどそれ以上にもっと気になるその姿……



「何で踊っているの!?」



 そう、踊っているのだ。腰をぶんぶん振りながら。そしてその舞踊は車が来て尚も続けている。



「馬鹿じゃねぇの? 運転手が笑っているじゃないか!」

「これが私たちのやり方。そしてその模範よ」

「え?」

「お客様に愛される警備員を配置して、お客様は勿論関わる人達全てを笑顔に。ニッコリ警備の基本、ダンシン警備! ダンシン誘導!」



 シャッキーンって効果音が今聴こえたけど……いらねぇよ! こんな場面で! いやいやいやいやいや……あり得ないってこんなのは! 公的秩序を乱している模範そのものじゃねぇかよ! まだ「そんなの関係ねぇ」の方が断然マシだぞ!?



 俺達は駐車場に車を停め、叔父の前へ向かった。



 どう見ても無駄に運動をしていた叔父は汗まみれに。しかし当の本人はやけに活き活きとしていた。



「ふぅ、どうだい、よしおちゃん。儂もカッコいいものだろう」

「いや、全く格好わ――」

「まさに本社の社員が目指す理想の姿でした! 社長にもお伝えしますよ!」



 俺が事実を伝えようとすると指原が口を塞いできて割り込んできた。何コレ、どういう展開だよ。



 交代要員の壮年がやってきた。彼も現場に着くや否や踊り始めた。しかしそのスタイルはどこかゆったりとしていて、まるで日本舞踊を踊っているかのようだ。踊り方は人それぞれでいいのか?



「ん? 音楽がどこからともなく聴こえてこないですか?」

「ええ、私たちが着任すると専用スピーカーから音楽が流れる仕組みになってね、その音楽に合わせてダンシンするワケよ」

「それって自分で選べる物なのです? ていうか専用スピーカーって……」

「ダンシンスタイルは自由だし、BGMも勿論その人の趣味を活かしているわ。専用スピーカーは各現場にカスタマーの許可を得てつけさせて貰っているわよ」

「仕事というか、もはや趣味の世界のようですね……」

「でも、彼らは楽しそうでしょ? ほら、ご覧なさい」



 日本舞踊をやりながらも、その壮年は凛々しい笑みを浮かべていた。



 何だろう。妙な感覚がこみあげてきた。





 もしかして俺にも出来る? いや俺だからこそ出来るものじゃないか?




 俺は本社に戻り、大和田に感想を聞かれた。その時に「やってみたいとは……思います」と答えた。彼は俺の肩をポンポン叩くと微笑んだ。そして俺の耳元で囁いた。



「ここはある意味どこよりも厳しい世界だ。でもどこよりも楽しい。待っている」



 俺の進路はいつの間にか決まってしまった。俺も何故こんな判断をしたのかは解らない。分からないけど、何故か初出勤に向けワクワクし始めたのだ――

∀・)いよいよ兒島嘉男さんの奇妙な人生が始まります!また1時間後!

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