~第1幕~
俺が退職願を提出して周囲は反発。特に何故かいい気になっていた塚地のそれはハンパがないものでドン引きした。人を売り物にして彼に得られるものなどはない。その筈なのに彼は彼以上に俺をドンドン売り出してケラケラ笑っていた。
俺の中のプライドが崩れた。壊れたのだ。
この10年間は仕事を一生懸命やってきたから、有給なんてほとんど消化しなかった。どうにも退屈で空虚な1カ月を俺は過ごしていた。
そうとは言っても働かなきゃ生活はしていけない。職業安定所で相談をしてはみるものの、やっぱり長年やってきた介護職を勧めてくるアドバイザーばかりが俺に着いた。そんな折、俺の親戚から電話があった。
『よしおちゃん、今仕事がないのだって?』
「たけし叔父ちゃん、その情報どこから知ったのよ?」
『風の便りさ。でよ、それならおススメしたい仕事があるって言うのよ』
「何の仕事?」
『警備員だわ』
へぇ~警備員と全く思いもよらない業界からのオファーに俺は少し心が踊った。しかし大変そうな仕事ではある。とりあえず職場見学だけでもと俺は答えてみた。
叔父から電話があった翌々日、市内で一等地と呼ばれている立派な建物が並ぶ街中にスーツ姿で繰り出した。その会社は各大手企業のオフィスが含まれている高層ビルの上部にあった。結構力のある会社なのか。
エレベーターで36階に到着する。面接でもないのに何だか緊張してきた。
ノックして事務所に入ると、スグそこに「入室された際はこのボタンを押してください。社長も例外でありません」と設置台に説明書きがあり、おかしいなと思いながらもボタンを押してみた。
すると俺の頭上にたらいが落ちてきて命中した。
「いってぇ! 何だよ! これは!!」
事務所の奥から美人なOLがやってきた。ショートカットの茶髪で目が大きく、スタイル抜群で社内のマドンナとか呼ばれていそうな女性だ。
「ああ! すいません! 社長じゃなかったのね! ごめんなさい!」
「社長にこういうことさせる会社なのですか!?」
「いや、私じゃないよ! 専務の趣味だからね! それでどちら様?」
「今日職場見学で来させて貰った兒島という者です」
「ああ! 大島さんの御家族の! 話は伺っています」
「兒島です。あと親戚であって、家族ではないですよ」
「間違えちゃった☆ えへっ☆ あ、とりあえず専務が奥であなたをお待ちです」
入室して5分も経ってないだろう。既に俺はこの会社で入職する気は失せた。
奥に入るといかにもヤクザの事務所みたいな雰囲気の部屋を目の当たりにした。ソファーで堂々と寛ぐ男、この人がこの問題ありげな会社の専務か。
「お~どうも! 君が職場見学にやってきた北島さんの甥か」
「兒島です。あの? 間違っていませんか?」
「あ、そうそう! ごめんね☆ てへぺろ☆」
(ふざけているのか、この糞ジジイ)
「私だが、このニッコリ警備の専務をやっている大和田篤史というよ、宜しく。それでこちらが」
「総務の指原麻衣子です。サッシーって呼んでね」
「は、はぁ……」
「さっそくだが、君の叔父である剛志さんがちょうど現場で働いている。そこにサッシーが連れてってくれるから、ついていくといい。ああ、でも何だ、まぁ、せっかくの機会だからゆっくり話でもしようか。ほら、そこに腰掛けて」
大和田専務は迎いのソファーへ手招きした。
「ああ、サッシー、ジュース入れて。多分炭酸がないヤツ」
「あいよー」
何このフランクすぎる会社。俺は恐る恐るソファーに腰掛けた。
総務とゆうか雑務をやっている指原は「持ってきました!」とボトルを抱えて大和田の後ろにやってきた。そしてそのまま彼の頭上からバヤリースをふっかけた。
「こら! 何やってんの! コップに注いで来るのが常識でしょ!」
「あ、いや、この方が面白いかな? と思ったので」
無茶苦茶すぎるだろこの会社。俺は急にドキドキしてきた――
∀・)指原さんのことはサッシーって呼んであげてください♡