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異世界ダイブ!  作者: 黄田 望
第一章 【 癒しの歌姫 ディーバ 】
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7話 【 ノーマル 】


 『適正試験合格者による体験ダイブを実施致します。 同行されるブレイバーは速やかに所定の位置についてください。』


 先ほどから同じアナウンスが一定のリズムで放送される。

 俺はここまで案内してくれた光輝とは分かれて、1人寂しく大勢の従業員が働く場所に置いて行かれ居心地の悪さと奮闘していた。

 何処に立っても従業員が行き来しておりすれ違う度に邪魔そうな目線を浴びせられる。


 ごめんなさい。 俺も皆さんの邪魔をしないように必死なんです!


 結果、施設の1番後ろ隅っこにマイスペースを作ることに成功した俺は息を潜めてそこから見学する事にした。


 「こらこらこ~ら! そんな所で何をやっているんだい? ノーマル君?」

 

 声をかけてきたのはボサボサの長髪に眼鏡をかけて如何にも研究者と思わせる白衣を着た女性が片手に湯気が出てるコーヒーカップを手に持って近づいてきた。

 

 「ノーマル・・くん?」

 「そう! 君だよ! だってそうでしょ? ここはあらゆるジャンルで選ばれたエリートのみが入る事が許される施設なんだ。 つまりは天才が集まる場所。 そんな所に君のような一般人が入ればどこからどう見てにノーマルだろ? だからアタシは君をノーマル君と呼ばせてもらうよ!」

 「はぁ・・・。 どうぞよろしく。」


 あまりにもペラペラと自己主張が激しかった為、俺は何も言わずに頭を小さく下げた。


 「おォ! こんな事を言われても挨拶を忘れないとは偉いね! その敬意を称してアタシも自己紹介をしよう! アタシの名前はマッドサイエンティスト!! この日本ブレイブ本部の統括責任者であり科学者をやっている!! 気軽にマッドと呼んでくれたまえ!!」

 「・・・ペンネーム?」

 「さぁー? どうだろうね?」


 マッドは楽しそうに肩を震わせて笑う。


 「さてと! 自己紹介はこれくらいにして! 君もこんな陰気な隅っこにいないで前に追いでよ! こんな機会普通はないんだからさ!!」

 「え、いや・・俺はここで十分ですよ。 あまり皆さんの邪魔をするのも悪いし」

 「そんな事気にしなくていいんだよ! 責任者のアタシが良いといったんだ! 何をしたっていいんだよ!」

 「何か語弊を招く言い方があったような?」

 「気にしない気にしない!」


 そうして俺はマッドに手を引っ張られながら大型スクリーンがよく見える1番前の列まで連れてこられた。 

 連れてこられたテーブルにはキーボードとマウスが4つ。 

 そしてディスプレイが上下に付けられ合計で6つ設置されていた。

 それぞれの画面には何やら難しそうなグラフやメーターが並んでいる。


 「今このパソコンに映し出されているのは今回適正試験に合格した子達の身体情報さ」

 「身体情報?」

 「例えばこのクネクネに動いているメーターは所謂心電図だね。 いついかなる時のトラブルでもダイブする相手の健康異変を一早く気づく為に24時間365日観察するのがアタシ達の仕事さ」


 マッドはデスクに座るととんでもない速さで4つのキーボードの操作を始めた。 

 マッドの指は見るからに普通の人よりも長くてとても滑らかにタイピングをする。 

 しかし、あまりにも早くて指のタイピングが見えない。

 見えない速度で滑らかに動く指の光景は、正直に言って気持ち悪く見えた。


 「ノーマル君。 君、今アタシの指見て気持ち悪いって思ったろ?」


 ホラーに出てくる幽霊のようにこちらに振り返ってきたマッドに俺は恐怖で何度も顔を横に振る。


 「そう? でも一応忠告しておくよ。 今後アタシの仕事をしている風景を見て気持ち悪いなんて言葉が出たら君の貞操はなくなるものと思いたまえ。 いいね?」


 俺は自然とお尻がキュッとなり冷や汗を流しながら何度も頭を縦に振った。


 『ブレイバー、及び適正合格者の全員の配置確認を完了しました』

 

 そうこうしている内にアナウンスから全員が指定の位置についた放送が流れる。

 マッドは1度手を止めて指の骨をポキポキッと鳴らす。


 「よぉーし。 それじゃあ行こうか。」


 キーボード近くに設置されているマイクに向かって数回ほど音声確認をするとマッドはエンターキーを押した。 

 すると大型スクリーンには5人の男女が同じ真っ白な部屋に集められている映像が流れ、その中には桜月の姿もあった。


 「適正試験に合格した皆々様! この度は、試験合格おめでとうございます! つきましては今回はブレイブになった第一歩目として、まず最初に異世界へのダイブをして頂きます!」


 マイクを通して映像の向こうにいるブレイバーにマッドは真剣な声で呼びかけた。


 「初めてだと稀にひどい船酔いをしたような感覚に襲われる事もあるけど、それは数をこなせば慣れてしまうから気にしなくても大丈夫。 今回はあくまでも体験だから1度ダイブしたらすぐに戻ってきてもらうから安心してください!」


 挨拶の話をしているとバッドが操作しているパソコンに表示されている画面がコンプリートと表示された。 

 それを見てマッドは小さく微笑む。


 「それでは適正合格者の諸君! 初めての異世界へ!」


 マッドが勢いよくエンターキーを押した。


 「ダイブ!!」


 真っ白な部屋からはワープの時に見せたように壁一面に光の線が無数に動き回る。

 そして、次第に部屋から映像でも直視できないほど眩しく光輝き、見えなくなった。






















 何処までも広がる青い空。 

 その空に漂う白い雲。

 そして、まるで地上を見下ろすように浮いている青い球体(ダンジョン)


 その見慣れた空に俺は違和感を覚えた。

 俺はさっきまで施設の中にいた。 

 外の景色など見えない建物の中にいたはずだ。


 だけど、映像から流れる光の眩しさに目を瞑り、次に目を開けるとそこは外だった。

 

 「・・・・どこだ・・・ここ・・?」


 その視界に広がる光景は、まるでファンタジーな異世界のようだ。

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