6話 【 幼馴染の父親 】
まるで楽しみにしいていた漫画の続きを見ているような胸が躍る感覚が分かる。
それは急に摩訶不思議な体験をした好奇心なのか、それとも状況についてこれない不安感からなのかはわからない。
でも、これだけは分かる。
俺は今、ファンタジーな体験をしたのだと。
何もない部屋から気が付けばまるでSFに出てくる機密組織の内部のような風景が一面に広がり、子供心をくすぐられるような景色だからだ。
「どうだい勇士。 はじめてワープした気持ちは?」
「ワープ?」
「そうだよ。 このブレイブは異世界で手に入れた知識、科学、そして魔術を応用としたものがたくさん詰められているんだ。 さっきのワープもその1つさ。 あれは指紋・声帯・瞳の3つとそれ以外の登録されたデータを照合させてワープ機能を実施させるんだ」
俺はもうすでに異世界にでも来てしまったのではないかと思える説明をされて、何も言えずにただ呆けていた。
すると突然、大きな声で「阿良々木ィッ!?」と怒鳴る男の声がこの施設に響き渡り、従業員は一瞬で静かになる。
「これはこれは。 お待たせ致しました。 柏木長官」
光輝がゆっくりと頭を下げた先にはスーツを着こなして髪型もきちんと整えた柏木長官と呼ばれた中年の男性が見るからに不機嫌そうな顔で近づいてきた。
「貴様一体どういうつもりだ!? 一般人をこの施設にまで連れてくるとは?!」
「どうもこうもありませんよ。 僕は友人をただダイブの見学をさせてあげたくてここまで連れてきただけです。 それにすでに統括責任者には了承を得ていますよ。」
「なにィ~ッ?!」
柏木長官は大型スクリーン近くに大きな椅子に座っている誰かを睨め付ける。
椅子に座りながらでも怒りの視線に気づいたのか、椅子に座った人物は軽く手を振った。
「~~~~ッ! だからと言って一般人をここまで連れてくる事がどれだけ大ごとな事なのか! 貴様が分からんハズがないだろうが!?」
「そうですね。 でもそれってそちらの事情ですよね? 長官?」
「・・なに?」
険悪な空気がより一層険悪な雰囲気が漂う。
「あ、あの~。 お久しぶりです。 おじさん」
「・・・・! 一般人とは君の事だったのか。 勇士くん」
柏木長官は一般人が俺だと今理解したのか険悪だった顔が少し緩んだ気がした。
一応、桜月のお父さんともそれなりに面識があり、昔はよく遊んでくれていた事もあった。
「・・・・ハァ。 まぁ君なら外に情報を漏らすことはないだろう」
「どうも~。 いや~おじさんが関係者って知ってましたけどまさか長官なんてびっくりしましたよ」
「あぁ。 最近ここに配属されてね。 私もまさかこんな役職に就かされるとは思ってもみなかったんだよ。 それよりも勇士くん。 今回は君の顔に免じて許可をするが、くれぐれもこの施設の中の事は内密に。 いいね?」
「了解しました!!」
柏木長官は緩みかけたネクタイをもう一度締めなおすとそのまま施設を出て行ってしまった。
「すごいね勇士。 長官が折れる所なんて初めて見たよ」
「何を呑気な・・。 おじさんとも昔から仲良くしてもらってるから別に折れたわけではないと思うけど。 ——というかこうなる事わかってたな光輝?」
「まぁね。 でも言ったでしょ? 何を言われても大丈夫だって」
光輝は屈託のない優しい笑みを浮かべるが、俺には面倒な男に笑みにしか見えず思わず苦笑いで返してしまった。
『これより、試験に合格した適正者による体験ダイブを開始いたします。 同行されるブレイバーの皆さんは所定の位置についてください。 繰り返します。 ————』
施設内にアナウンスが流れ先ほどまで静まり返っていた従業員達が急に慌ただしく動き始める。
「それじゃあ今からダイブが始まるから。 僕達ブレイバーはここの隣で異世界へダイブするんだ。 流石に直接見せるわけには行かないけど、ここならダイブの映像があの大きなスクリーンで映し出されるし現場の雰囲気も体験できるよ。」
一通り説明を終えた阿良々木はそのまま施設から離れ隣の部屋に向かっていった。