2話 【 適正試験 】
都会から少し離れたドーム会場までバイクを飛ばして片道20分。
車が並び渋滞している道端を使い車体の隙間を気をつけながら通る。
今日は年に1度、春に行われるブレイブ入隊の為の適正試験の日だ。
適正試験が行われるのは首都に当たる5つの国。
アメリカ、中国、ロシア、イギリス、そして俺が暮らす日本。
適正試験に合格すれば夢の異世界へと向かい自分には知らない能力を手に入れる事が出来る。
人類は見た事もない異なる世界への冒険に胸を膨らませて、毎年何千人と呼ばれる人達がこの年に適正試験を受けに来る。
適正試験を受けれる年齢は16歳~35歳まで。
男女ともに受けられることもできる為、いつも大勢の人が今年こそと受けに来る人が多い。
しかし、そんな何千人と受ける人の内1つの国で合格するのは多くて10人もいないという。
その為に少なからず1度受けた人は自分には才能がないと考え、それ以降に受験する者は少ない。
そんな大規模で合格する確率の低い試験に今日、俺の幼馴染が受験していた。
先日から、試験が終わった後は迎えに来るように押し付けられていた為、春休み真っ只中の俺は人混みが集う試験会場ドームまでバイクを走らせて来たということだ。
「遅い!!」
会場へと続く階段の上で腕を組み、仁王立ちで立ち睨みつけているポニーテールの少女が俺の幼馴染である柏木桜月。
俺と同じ16歳の高校生だ。
「いやいやいや。 確か試験が終わるのって13時過ぎ頃だって言ってたよね?!」
「うるさいわね! 私もまさかこんなに早く試験が終わるなんて思ってもみなかったのよ! そもそも! 最初に私をここまで送ってくれなかった勇士が悪いのよ! 初めからここにいれば私がここで待ちぼうけする事もなかったのに!!」
「えぇ~・・」
そして、この我儘な幼馴染から理不尽に怒られている俺は宮本勇士。
今年から近くの公立高校に通う普通の男子高校生である。
「ほらさっさと帰るわよ! 私もうお腹ペコペコで」
お腹をさすりながら階段を下りていく桜月に俺は思わず「え?」と声を漏らす。
「なに?」
「いや、試験結果見ていかなくていいのか? 確かブレイブの適正試験って試験後すぐじゃなかったっけ?」
「あぁ、それなら・・・はいこれ」
桜月は学生カバンから取り出したのは手に収まるサイズの小さい箱。
蓋は取らなくても中身が見えるようになっており、剣のマークが刻まれているバッチが入ってある。
「ま、まさか桜月、お前・・・。」
俺が体を震わせて目を見開いていると、桜月は上手く悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
「お蔭様で、1発合格しちゃいました!」
開いた口が閉まらない。
適正試験は毎年何千人と受ける人の内、10人も合格者が出ない超難易度な試験だ。
実際、周りには不合格で嘆いている人達しか目に入らない。
そんな何千人の内の1人に俺の幼馴染が入ったのだ。
喜ばないはずがない。
「すげぇなお前!!」
「ふっふ~ん! そうでしょそうでしょ!! もっと褒めてくれてもいいのよ!」
「あぁすげぇ! 本当にすげぇよお前!!」
「きゃあ! ちょっと! 頭撫でないでよ! 髪が崩れるでしょ!!」
そう言葉では嫌がりながらも桜月は嬉しそうに俺に撫でられた。
「よぉーし! そうとなれば昼食は俺がなんでも奢ってやる!」
「え?! いいの!」
「構わん構わん! 昼食だけじゃなく欲しい物も・・・あぁ・・あまり高価な物じゃなければなんでも買ってやるぞ!!」
———と言いながらポケットから財布を取り出しどれくらい現金が残っていたか確認する。
「あはは! いいわよそこまでしなくても!」
「何言ってるんだ! お前今まですごく勉強も運動もこの日の為に頑張ってきたんじゃねぇか! こんな日くらいなんでも我儘言えって!」
もちろん、高価なもの以外だと小さい声で注意しながら言った。
「そ、そう? それじゃあ・・・。」
桜月は顔を下に向けながら髪をイジイジと触りだした。
昔から桜月は何か言いにくい事や言い訳をしようとすると、この仕草をする癖がある。
それほど欲しい物が高価なのだろうか・・・。
「そ、それじゃあね」
ようやく言う決心がついたのか、桜月は何故か頬を少し赤くしながら顔を上げた。
「私・・・私ね! 勇士のこいb―――――」
桜月が何かを言いかけたその時、桜月の学生カバンから携帯の着信音がなった。
「~~~~~ッ!! ・・・はい。 もしもし」
桜月は大きな溜息を吐きながら携帯を取り出して通話に出る。
「うん。 うん。 わかった。 それじゃあ。 ・・はぁ。 ゴメン勇士。 私このままお父さんの所に行かなくちゃいけなくなった」
桜月のお父さんはダンジョン攻略関係の政府で仕事をしている役職者だ。
かなり責任ある仕事をしているらしく、家に帰る事も少ないらしい。
「そっか。 おじさんとは久しぶりなんだろ? せっかく合格報告もできるんだ。 言っておいでよ」
「・・うん。 ・・・・ねぇ勇士」
桜月は何か言いたげそうだったが、直前で息を呑み込み学生カバンを俺の顔に振り下ろしてきた。
「あっぶな!!」
「あはは! それじゃあ私もう行くから! 後で連絡する!」
「お~! じゃあまたなー! おじさんによろしくー!」
そうして桜月は駆け足で階段を下りていき、そのまま人混みに紛れて見えなくなっていった。