16話 【 化け物 】
歌というものは不思議なもので、言葉も生まれも違う世界なのに歌が共感できるだけで知らぬ土地の人達と仲良くできる力がある。
ディーバがこの世界に転生して手に入れたチート能力は【歌の治癒】。
歌う事で他人の怪我や病気を治癒させる能力を持っているようだった。
ディーバはその能力を使ってこの建物で暮らしている人達の健康を守ってきたという。
俺はその能力を実際に目の辺りにして感動で胸がいっぱいだった。
しかもそれから俺がディーバの友人だと紹介されると現地の人達は俺を快く受け入れて一緒に食事をしたり歌を歌ったりした。
この時に聞いた話だが、俺をあの時威嚇した理由は俺があの石造が無数にある土地に1人でいたからだという。 もしかしたら彼らを石造に変えてしまった化け物が戻ってきたと思ったことだという。
「化け物って・・・もしかして」
「うん。 この世界を滅ぼす原因の敵だと思う」
つい先ほどまで現地の人達と歌って踊ってを繰り返した俺達、同じ木造建築の中にある小さなカフェテリアのような場所で休憩をしていた。
この建物は他にも子供の遊び場や酒屋、レストランなどと色々なお店も経営されており、少ない人口でまるで広いデパートにいるような感じで生活している。
「君が最初にいたあの場所は、大昔にとても文化が進んだ豊かな国があったそうなの」
しかしその時代に突如、生物を石に変えてしまう化け物が誕生したという。
「化け物は無差別に人を石造へと変えていき世界を滅ぼす手前までそれは続いたと言われているわ。 でも―――」
だが、人類は滅びる事はなかった。
それは化け物を倒した英雄が現れたわけでも封印した賢者が誕生したわけでもない。
「化け物は何故かいつも一定の人類を残すと姿を消すの」
「姿を消す?」
「えぇ。 何故か分からないけど無差別な石化をやめてしばらくの間姿を消すのよ。 そしてまた人間が繁栄して多くなるとまた現れて人を石に変えていく」
俺は注文して届いた紅茶を眺めて少し考え込む。
「おかしくないか? それって人類にとっては確かに脅威だけど、世界が滅亡する原因と何か関係があるの?」
「私も最初はその化け物が原因じゃないって思ったわ。 でも今回その化け物が滅亡の原因だと確証できる」
「その理由は?」
ディーバは一緒に頼んだ同じ紅茶を一口飲み目を合わせる。
「今の現状がその理由よ。 本来化け物が人を石に変えた数は約人類の半分。 だけど今ではすでにこの建物で暮らす人間しか存在していないのよ。」
聞けば聞くほどおかしな話だ。
昔は人類の半分でやめた石化を今回は何故か全滅させる気で石化に取り込んでいる。
一体その化け物は何がしたいのだろうか。
それとも何か別に目的があって?
―――—何故そうなのか?
桜月が言ってたブレイブ試験に出てくる内容の問題が頭に浮かぶ。
何故そうなのか。
・・・そもそもなんで化け物は石化させるんだ?
人を殺すわけでもなく支配するわけでもなくただ石に変化させるだけ。
石にしたあとは壊すわけでもなくそのまま放置。
「・・・なぁディーバ。 その化け物ってもしかしたら―――――。」
まだ整理できていない内容をディーバに聞いてもらおうと顔を上げた時、俺は一瞬何が起きているのか分からなかった。
ついさっきまで確かにディーバは俺と会話をして飲み物を飲んでいた。
それなのに、今目の前にいるディーバは、あの無数に立っていた石造と同じく石化していた。