15話 【 チート能力 】
ディーバの能力を披露してくれるという話で案内されたのは木造建築の中にある広い部屋だ。
恐らく学校の体育館くらいの広さはあるだろう。
その部屋にはすでに何十人という子供から老人までの人達が集まっており、ディーバが部屋の中に入ると出迎えるように拍手が飛び交った。
ディーバはその拍手に答えるように軽くお辞儀をして集まっている人達の中央に歩いていく。
俺はとりあえず邪魔にならないように1番最後尾で待機することにした。
集まってる人達の中心には椅子が1つだけ用意されており、ディーバはその椅子に座ると部屋にあったギターを構え息を深く吸い込む。
一瞬、静かな時間が流れるがディーバが優しい声量で歌い始めギターを奏でる。
聞いた事もない言語。
聴いた事もない音楽だったが、俺はディーバの歌い始めの時点で彼女の歌声に心を奪われた。
恐らく3分くらいの音楽だっただろう。
彼女が歌い終えると聞き惚れていた人達からは部屋に入った時以上の拍手が彼女に送られた。
俺も思わず拍手をしていた時にある事に気付いた。
さっきまで歩く度に痛かった右足が、全く痛みを感じないのだ。
その場で軽く飛んだり屈伸したりしてみたが、全く問題ない。
「これが私の能力だよ」
俺が1人で飛んだり屈んだりしていると周りの人達に手を振りながらディーバが近くまできていた。
「私は歌う事で人の怪我や病気を治癒させる能力があるの」
「・・・」
「・・・あれ? ど、どうかした?」
俺は何も言わずただディーバを見て固まった。
ブレイブで異世界にダイブできる人間は必ず不思議な能力を手に入れるという。
例えばある人は風を操り、ある人は驚愕な身体能力を手に入れたりする人。
普通ならあり得ない強大な力を手に入れたブレイバー達はその能力を【チート】と名付けている。
そしてこれも勿論、現代では常識な知識として世間に公表しているが、誰が、どういったチートを手に入れているのかは政府が機密にしている。
その為、平凡な一般人がその能力を目にする事はないのだ。
しかし今、俺はそのチート能力を目の前で見て実感した。
これが感動しないわけがない。
俺は思わずディーバの両手を強く握っていた。
「ありがとう! マジで感動した!!」
「え? あ、えっと・・ど、どういたしまして?」
ディーバは少し困惑した様子で頬を赤くして戸惑い、その様子を見ていた周りの人達は口笛を吹いたりして盛り上がっていたが、勇士は初めて見たチート能力に感動して他の事など気にしていなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
そんな盛り上がっている空気の中、1人の男が血を流すほど拳を強く握りしめていた。
額には筋が浮かび上がり鍛え上げられた筋肉はより一層大きくなっている。
「よくも・・・よくも!!?」
その男は小さい声で確かに日本語を話していた。