もう苦しまなくても、いいんだよ
僕はもう旅に出ている。ママは小さな時から僕のことを間違ってるって思ったみたい。僕がしたいことをやらせてもらえず、僕が悪い子だって怒ってた。
僕は何も悪いことしてないから、なんで怒られたのかがわからなかった。
多分理由なんてなんでもよかったんだろう。ただ、怒りたかっただけ。
それがどれだけ人の気持ちを傷つけるかなんて考える余裕もなかったのかもしれないね。
でも、やったことは自分に帰るんだ。ママは、ずいぶん子育てに苦労したみたいだ。僕を本当の意味で愛せてなかったし、可愛いと思えなかったみたい。
ママは自分が好きじゃなかったから、僕を愛することができなかったんだね。
さて、旅に出ることはできたけど、僕は何をしたらいいんだろう。新しいことをしたほうがいいのはわかってる。今までの僕は、自分のしたいことはママに否定されてきたから、したいことをしちゃいけないって思ってしまった。だから一つ一つの思い込みを外すことをしていこう。
とりあえず僕は今まで否定されてきた分を大きく上回るほど、自分自身を肯定して、許していこうと思った。
自分の中で、絶対しちゃいけないこと、ダメなこと、それすらも考えること、思うことを許していこうと思った。
自分を自由にさせるんだ。
自由って、なんだろう‥
そういえば、確かこの辺りに変わり者すぎて村を追い出された人がいたな。
もう僕は遠慮なんてしてられない。いきなり訪ねたら迷惑がかかるとか、非常識とか、もう僕は縛られない。たまに大丈夫かなって立ち止まったりしても、僕は僕の心に正直に生きるんだ。
こうして、僕は自分の心の羅針盤だけを頼りに、変わり者と噂されてる人のところに向かった。
今までしたことのなかった自分の行動と、先の読めない結果を想像してしまい、心はドキドキしていた。それでも僕は前に進むと決めたんだ。変わるんだ。
僕の目の前には、夕陽が眩しく輝いていた。
僕は走った。これから起こる予測不能なことへの胸のドキドキが僕を走らせたんだ。
人生を楽しむことって僕にはできないと思い込んでいた。だけど、他人の意見という名の常識という殻を破れば、僕は僕でいられることに気がついた。
今の僕なら、変わり者と言われた人と話が盛り上がるかもしれない。そう思うと、とてもワクワクした。
僕は気づいたら、ドアをノックして、彼の名前を呼んでいた。
「イッヌさん!初めまして!あの、お話をしたくて来ました。」
「誰だい」
変わり者と呼ばれている人の声は僕の予想に反して落ち着いていた。
「イッヌさん、あの、僕モモタロと言います。旅立ちの村から来ました」
僕はそう言った瞬間、イッヌさんが僕の村を追い出されたことを思い出した。もしかしたら、僕がその村出身と知ったら、話をしてもらえなくなるかもしれないと思った。
しかし、僕の予想に反してドアが開き、厳しいけど、どこか穏やかな顔をしたイッヌさんがでてきた。
「よく来たね、お入り」
そう笑顔でイッヌさんは僕を迎えてくれた。
僕はお邪魔しますと少し小さな声で言い、イッヌさんの後について行った。
家の中は特別なものは何もないのに、どこか清らかな雰囲気を感じた。
イッヌさんは僕に席に座るように促したから、僕は素直に座った。
「それで、モモタロくん。今日はどうしたんだい?」
イッヌさんは少し優しい顔になって僕の目を真っ直ぐ見ながらそう聞いた。
「あの、初対面の方に身の上話をするのも申し訳ないのですが」
「いいよ、単刀直入言いなさい」
「い、いいんですか。ありがとうございます。あの、僕は今までお母さんやお父さん、周りの人の言う通りに生きてきました。だけど、その生き方は僕の心を無視ししてるからこそできたこと。なので、もう僕の心を無視することに、心が耐えきれなくなり、辛くなり、心が限界になりました。」
「うん、そうだよね、そうだろう」
イッヌさんは穏やかにそう言うと、優しく微笑んでくれた。僕は安心して少しリラックスした。
「僕は、もう今までの生き方をやめようと決意しました。そして、本当の僕を探そうと旅に出ることにしました。だけど、今まで自分の心を無視して生きてきたから、自分のこともやりたい事も分からなくて」
「最初はそうだろう」
「なので、今日はイッヌさんに自由とは何かなどを聞きたくてお邪魔させていただきました」
「うん、そうか。大体はわかったよ。モモタロくんは、自分の信じた道を進もうともがいているんだね。」
「はい、まさに、そうです。でも、僕の選んだ道は本当にこれでいいのか?なんで疑問が浮かぶ時もあります。」
イッヌさんは、ハッハッハッと大きな声で笑った後にこう言った。
「モモタロくんは、今初めての経験をしている。しかも、周りにそういう生き方をしている人も知らない中でだ。それなのに、自分のために行動できる勇気はとても素晴らしい。私は、それだけでも私は君を誇りに思う。」
僕は、予想を遥かに超えた賞賛の言葉に嬉しいよりも先に驚いてしまった。
「で、でも僕のこと考えかたを否定する人や受け入れられない人もいます。本当は、そっちの方が正しいのではないかと思うのです。」
イッヌさんは、少し微笑みながら、頭を横に振った。
「誰かのいいなりになる人生ほど、虚しいものはない。それに気づけただけで、君は幸せだ」
そう言ってイッヌさんは立ち上がり、窓の外を見た。
「君ができることは、どんな時も自分を肯定し続けることだけだ。どんなに苦しくても、自分の心や想いを否定せずに、柔らかな心で包んで行くんだ。何が起こっても、君は決して悪くない。世の中に善も悪も存在しない。善悪があるのではなく、善と思う人と悪と思う人がいるだけだ。」
僕は、ただ頷くしかできなかった。
「ふふふ。少し難しかったかな。とにかく、私から言えることは、常にどんな時も誰に何を言われても、自分を信じ続けなさい。今はそれだけだ。」
イッヌさんの言葉に、僕の心は元気になった。僕は、僕の信じた道を歩んでいいんだ。
そして、どんな時も自分を肯定してあげようと思った。
そして、僕の思ったこととイッヌさんが言っていたことの中に、似ている部分があったので自分に自信がついた。
僕はお礼を言って、イッヌさん家をでた。
イッヌさんは、変わり者というより、自分を貫いてきた人なんだろうな。
イッヌさんのおかげで、僕は前を向いて進める。
僕は今までたくさんダメとかしちゃいけないとか、否定されてきたけど、それは否定する人の心の問題なのかもしれないな。否定する人もいるし肯定する人もいるんだってわかったから。否定されても肯定されても、僕が僕だということには変わらない。つまり、人が僕に何を言おうと、それはその人の考えであり、僕が同意しなければ僕の存在には何も影響がないんだ。だから僕が僕でいることが一番大切なんだ。僕は、僕であろう。