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次の村

 翌日、声がかけられ呼ばれるまま出ると、男たちが勢ぞろいしていた。

 そしていつまでも置いておけないので、出ていくようにと言われた。昨夜は友好的だったのに、随分な変わりようだ。

 隅にいる、昨夜襲ってきた男はびくびくしながらこちらを見ている。


 殺してやろうとしたことがバレた、にしては犯罪者め、ではなく強引だが普通の旅人として追い出そうとしている。

 あの男が独断でして口を割らなかったのか、または、元々村ぐるみで、あの食事もわざと体調を崩させようとして、失敗したから明るみに出ないようぼろの出ないうちに出ろと言っているのか。


 なんて、こんなのは、私の性格が悪いから、そう思ってしまうだけだ。急に態度が変わったのだって、何か理由が……いや、そうじゃない。それで誤魔化しても、違ったとわかれば、また怒りに支配されてしまう。

 そうじゃない。そうだったとして、よしとしなければならないのだ。


 全員が悪人だったとして、それは、ポチが立派で俺が不相応に見えるから、悪心を持たせてしまったのだ。もともと、悪人なわけではない。俺が許せば、なかったことになる。俺が救わなければならないのだ。


「お世話になりました」


 礼を言って村をあとにした。最後まで警戒したように見られていたが、気にしないことにする。村で手に入れたのは衣服だけだが、村の入り口からは道も続いていて、ここから先の指針には十分だ。それにここに住んでいる人も、私と同じような姿かたちで、同じように考えて悪事もするのだ。それはむしろ、よかったのだ。善人しかいない世界なら、聖人だって存在しえないだろう。

 これから気持ちを切り替えて、改めていこう。私はもう生まれ変わっているのだから。


「ポチ、お腹が空いているなら、ひとっ走り狩ってきなさい。この道に沿ってゆっくり歩いて行きますから、満腹になったら余分に一匹持って適当に戻ってきなさい」

 ワン!


 ポチは元気に返事をすると、空っぽの籠を背負ったまま駆けだし、道の左側にある森へむかっていった。それを横目に見送り、私は道沿いに歩く。

 道沿い、と言っても、車輪跡があり、定期的に馬車か何かが通っているのだろうと思われるものだ。人が歩いて頻繁に行き期しているわけではないだろう。ここだけ低くはなっているが、草も生えていて、石も多い。

 だが無視して歩こうとすれば、地面についた足が石を地中へ押し込んで歩けるので、それほど違和感もない。全く、便利な体になったものだ。

 どうしてこんなことになったのか。今もまだ実感がない。人間ではないなにかになってしまったのだろうか。それにしては、幼少期の自分そのものに見える。


 だが、そんなことは私にわかるはずもない。考えることはやめよう。どうせ、それはもうどうにもならないのだから。


 これからのことを考えよう。そうは言っても、この世界の人間が全員、私のような生き物であるわけでもないこともわかっている。そうでなければ、昨夜のようなことにもならないだろう。だから、この体が人間でないような振る舞いはしない方がいいだろう。食べているふり、寝ているふりは今後もした方がいいだろう。

 そうなれば、聖人を目指すとは言え生活をしているのが分かる程度には、金銭を稼ぐべきだろう。今後もポチにあれこれ持たせいくが、それで毎度物々交換と言うのもどこまで通じるかわかったものではない。服以外に必須なものはないし、安くてもいいが売って、金銭を獲得しよう。そうすれば、それを恵むと言う徳もつめるだろう。

 無償で提供するだけが善行と言う訳でもないし、それが自然だろう。ポチの世話もあるし。村を見たところ、田畑のところに木製だが道具もあったのだから、それなりに文明も進んでいるはずだ。


 村をまわって、稼ぎながら、困っている人がいれば助けていく。そうして、本当に聖人となるにはどうするか、どう言った存在なのかをじっくりと探っていけばいいだろう。

 聖人になりたいが、具体的な生活がどんなものなのか、実のところ詳細なイメージはない。自分で理想を求めていくしかないだろう。この世界で何ができるか、できないか。ゆっくり見ていけばいい。時間だけはたくさんあるのだから。


 そうして何となく今後のことを思いながら歩いて行くと、太陽が頭上に来る頃にはポチが戻ってきた。


 ワオンッ


 走ってきて前にお座りして、獲物を置いて嬉しそうに吠えるポチ。自分の半分ほどの大きさの猿だ。見ていて気持ちのいいものではないが、背中の籠にのせてやる。

 それにしてもこのポチ、して来いと言うと簡単に狩りをしてくる。これなら一人で生きることも簡単だろう。私を襲ったのは単に簡単そうだと思ったからだとして、その後ついてきて果物を欲しがったりしたのは何だったのか。枝の先にあったから自分ではとれないにしても、飢えていたわけではなさそうなのに。

 まぁ、わからないが、ポチがいるから簡単に稼ぐと言う選択肢もあるのだ。いくら力が強くなっていようが狩りなんてしたことがないのだから、面倒だ。それに昨夜の件もある。いてもらえるなら心強い。って、犬相手にこんなことを思うのも恥ずかしいが、事実だ。


「よくできました。それでは、行きましょう」

 ワン!


 午前はゆっくりと、ポチが戻ってからはポチがついてこれる程度の駆け足で休憩をはさみながら進むこと三日目にして、ようやく次の村が見えてきた。普通に歩いたら、いったい何日かかるのか億劫で数えたくもない。

 どうしてこんな辺鄙なところで離れて集落をつくっているのか、理解に苦しむ。縄張り争いとかだろうか。あいにくと、歴史なんかはあまり勉強しなかった。こんなことならもっと日本史や、なんならサバイバルの本でも読んでおけばよかった。完全サバイバルマニュアル、確か探偵マニュアルの横に置かれていたのに。

 まあ今更だ。そろそろ先行しているポチを戻しておこう。


「ポチ、お前は顔が怖いですからね。私の後ろからついてきなさい」

 グゥ……ワフ


 なにやら不服そうにうなったポチだが、頷いて後ろにまわった。

 本気で言葉は通じているのを、そろそろ認めなければいけないかもしれない。しかしあの村人も普通に獣扱いだったので、この世界では獣も言葉が通じると言うわけでもなさそうだし。いったいどうなっているのか。


「おい! 止まれ!」


 村に近づくと、獣除けの木製柵の出入り口部分にいた男がそう大きな声をかけてきた。私はにっこりと微笑んで両手を広げて敵意がないことをアピールしながら立ち止まる。男は斧を手に近づいてきて、ポチを見て数歩前で立ち止まる。


「う、後ろのそいつはなんだ!」

「私の連れです。私の言うことをよく聞く、いい子ですよ。ねぇ、ポチ」

 アン


 殊更媚びるようにポチが可愛い声をあげる。やるな。男は胡散臭そうな顔をしているが、籠を背負っていて実際に大人しくしているのもあってか、否定はせずに唸った。


「そ、そうか。しかし、そいつを中にいれるわけにはいかん」

「そうですか。ではせめて、獲物を売りたいのですが。新鮮な肉は入り用ではありませんか?」

「……お前だけが中に入るって言うならいいだろう。ただし犬はそこの塀にくくりつけておけ。紐はかしてやる。あ、短くな! 人を襲えないようにな!」

「襲いませんよ。もちろん、そちらがポチに何かをしなければね」


 男が出入り口のすぐ脇にある小さな小屋から持ってきた紐をポチの首と柵の一部を結び、そしてポチの周りに大きめの円形に線をひく。


「ポチは大事なパートナーですからね。この線の中に近づいて何かしようものなら、ポチに噛みつかれない保証はありませんからね。いいな、ポチ」

 ブフンッ


 やる気たっぷり、とばかりの鼻息をだしてくれた。そんなポチに身震いしてから、男は、近づくかよ。と悪態をついて私を中に入れてくれた。

 ポチに背負わせておいた大きな籠をそのまま持ち上げて運ぼうとしたが、持ち上げた瞬間奇異の目で見られたので、地面に卸して引きずることにした。

 せっかく乾燥して、いい具合になってきていたのに。すってしまってだいぶ傷んでしまうだろう。これで作り直しかもしれない。面倒な話だ。


 それはともかく、少し進めばすぐに広場にでた。そこにいた人に事情を話していると、長だと言う年寄りがやってきた。


「ふぅむ。お前さんのような子供が旅とは。よっぽどのことがあったんじゃろう。どれ、見せてみなさい」


 簡単に説明して獲物を見せると、うんうん、状態もいいし、村を代表して全て自分が買い取ってやろうとすんなり話がすすんだ。


「金額だが、悪いが、こっちも最近の不作でお金がなくての。20リブラでどうじゃろうか」

「そうですか」


 普通に金銭をだしてきた。てっきりまた物々交換で提案されると思っていた。希望通りなのだけど、しかし、相場が全くわからないが、絶対に安いだろう。


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