税金
「私がわざわざここに来たのは他でもありません。大事な話があります。まだ決定と言うわけではありませんが、上からの提案がありましたので、それを伝えに来ました」
上から、とはまた穏やかではない。決定ではないと言いながら決定しか選べないやつではないのか。
と思いながら神妙に聞いておいた。最近いいものを作れるようになり、商売がうまくいっているようですね、と言う物言いから始まり、ながながと遠回しに説明された。
それによると、どうやらそこそこ儲けているのだから、全面免税はさすがにとっぱらい、そろそろ最低限くらいは払ってもらおうか。人数も増えているし。みたいなことらしい。
それ自体は、わからないでもない。と思った。他の街と物のやり取りをしているのだから、それに対しては税がかからないと他の領地に比べて不公平だろう。が、問題は内容だった。
商売をして領地を超える場合に、その際に売り上げに対してかかるのはわかる。だが、まさかの土地代と人頭税だった。
土地代って。どれだけ無駄に広いと思っているのか。使っていない土地が9割だ。人頭税って、人数が何人いたらって奴だろう。半分が子供と老人の生産力で、成人一人分数えられてたまるか。
実際に計算された額をみて、これを毎年なんてとんでもない。死ね。と言われているようなものだ。この3年で貯めたので一度なら払えなくはないが、毎年となるとじわじわ首を絞められるように数年以内に全員死ぬだろう。
「こ、こんな額、いきなりすぎではありませんか?」
「今までが聖人とはいえ好待遇すぎだったんだよ。これでも、領主として払うべき税はもっとたくさんあるところ、本当に最低限の分だけだ。とれた作物や産業、商売にはかけていないのだから」
「っ……」
ふざけるな!! こんな、こんな仕打ちがあるか!? 誰もいない土地だと思っていたくせに、それで無税としていたくせに、いざ少しまともになれば、馬鹿みたいな税を取り立てる!?
民を、俺の領民をなんだと思っているんだ! 今、確かにみんな笑えている。腹をすかせた奴は誰もいないと自信をもって言える。
でもそれは、努力したからだ! 飢えだけは嫌だから。あんなにみじめなものはないから、そんな思いはさせたくなくて、がむしゃらに畑を耕した。
人手がほしくて、もっといろいろな物がほしくて、人を増やした。それだって半分は他所でもお荷物になるような年寄りだ。
なのに人数分税をとって、また貧しくさせるのか? 今だって十分に満たされているとは言えないのに。
これがこの国のやり方だって言うなら、それをこの国の王が命じたと言うなら、そんなの、ぶっ潰してやる!! まずは情報があがらないようこいつから……!!
ばきょ、と間の抜けたような音がして、俺の手のなかで木のコップが圧縮されて塊になり、はいっていた液体は手を濡らした。
その感覚で我にかえる。いま、何を考えた?
殺して……? いや、違う。それは聖人ではない。「私」はそんなことを考えない。
でもじゃあ、どうすればいい。唯々諾々としたがって、あいつらから笑顔を取り上げるのか? それが聖人なのか? 違う。絶対に違う。
落ち着け。聖人はどうする。聖人は、一足跳びに暴力に頼らない。まず、言葉。それが先だ。
一つ、深呼吸をする。そんな私に、司祭は不思議そうな顔をした。そののんきな様子にイラッとしながら、ゆっくりと口を開く。
「……グンニネル司祭。そのような額を払えば、民は食事もままならず、また生産量ももとに戻ってしまいます」
「? そんなはずがないでしょう。基本の税金だけなのですから。それに払うのは、税を集めている君です。君は今、そのくらいは持っているだのでしょう?」
「確かにあります。ですが、それはこの領地すべての人間の全財産だからです。全員で一つの集団として、私がまとめてお金を管理しているからあるだけで、本当にそれぞれの仕事に基づいて分ければ、私の元に残るのはほんのわずかでしかありません」
「ん? どういうことですか。それを税として集めるのが領主の仕事でしょう」
普通ならそうだろう。それはだけど、領民がそれぞれに生計を立ててお金を稼いでいることが前提だ。
「私は税金を取っていません。私がお金を持っているのは、他の村への売買を全て取り仕切り管理しているからにすぎません」
いわば大きな会社の社長のようなものだ。その売り上げで全員の衣食住を何とかして、給料が未払いで手元にためているというだけでしかない。
だからちゃんと給料を分配し、領主として税を回収するのはそこから改めて一定割合になる。現状一人に渡せる額は大きくない。
生活には困っていないとはいえ、成人男性一人での生産力を1とすれば、老人や子供は当然その半分かそれ以下だ。だから今の生産力を一人当たりで計算すれば半分以下なわけだ。そうなると儲けも同じだけの領民数のいる他の地域に比べても半分以下のはずだ。
他の領地で一人頭で税をとってやっていけるのは、成人の割合が多いからだ。だがここは逆だ。生産力の少ない者の方が多数派なのだ。
その状態で人数だけで他の領地と同じだけ税をとってしまえば、一人当たりの負担自体は同じでも、財産に対しての負担割合は大きすぎる。100万円稼いでいれば1万円の税は安くとも、10万の稼ぎでは1万は重すぎる。
と言うことを何とかわかってもらおうと言葉を重ねた。色々と頭の中では理屈はできているはずなのに、うまくわかってもらおうと説明をすると、どういえばいいのかわからず、言葉に詰まったり回りくどくなったりしてしまったが、最終的に司祭は了解してくれた。
「君の言いたいことはわかりました。確かに、現状では難しいみたいですね」
「そう、そうなんです!」
伝わったことが、とても嬉しかった。言葉を重ねれば、こんな私でも腕力なしに意思疎通ができるのだ。
「だけど、おそらく今回はそれで通っても、今後もずっと税を全くなし、と言うわけにはいかないでしょうね」
喜んだ分、何故だと怒鳴りたくなった。歯をかみしめて耐える私に、司祭は言葉をつづける。
「君はやりすぎました。積極的に領民を募ったでしょう? あれは、それこそ君の言う生産力を他の領地から奪う形です。大々的にやられてしまえば、その領地は当然面白くないでしょう。直接文句を言って、争うこともできますが、君は王から直接領地を任された聖人です。だから王を通しての要請となったんですよ」
「っ、そ、それは、でも、元々この領地の住民だった人たちが殆どですよ」
「一度でも移れば、同じことです。それにほとんどで、全員ではないのでしょう? ならそれはいくらでも言いようがあります。そしてそれを言われたら、王だって無視するわけにはいきません。聖人として君を優遇するにしても、過剰に贔屓をしていると思われてはいけませんからね」
「……っ」
言っていること、わからなくはない。ここの周りの領地は、面白くなくて文句を言って、言われた王も全く無碍にしたら、それこそ王への不満になるかもしれない。だけど、勝手だ。勝手な話だ。この領地を、あいつらを見捨てていた癖に! 頑張って自分たちで立ち直ったら権利を主張するなんて!
う、ううううう! 殺してやりたい! そいつら全員殺して、王様だって殺して、全員ぶっ殺してやりたい!
そう思ってはいけないのに、本当にそうしたところでこの領地を守れる保証だってないのに、そんなバカみたいな単純なことしか考えられない。腹が立つ。王に、司祭に、状況に、なにより考えなしに人を増やして楽をしようとした、自分に腹が立つ。




