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領民

 私に与えられた領地は、争いにより荒れ果てた、誰もいない朽ちた街と広大な荒野と森、だったはずだった。

 しかし翌日、ポチを街を見て回ってわかったのだが、かろうじて家の体をなした個人宅に住み着いている住人がいたのだ。

 話を聞くと、どうやらもともとこの街の住民だったが戦争で駆り出されず避難していた老人や、徴収されたが怪我でろくに働く先もなく戻ってきた若者、そして他所から流れ着いた孤児がいた。

 もっとも多いのは老人だ。避難したはいいが、徴兵された子供は死にいつまでも他所へいられる資金もないと、どうせなら馴染んだ街で畑でもして死に行こうと戻ってきたらしい。

 しかしそこにいたのは孤児ばかりで、家族をなくした老人たちで何とか世話を見ていると、ぽつぽつと片腕だったりする若者が戻ってきて今になっているらしい。


 そういう話を、領主任命状を振りかざして聞いた。一応、自分たちが食べれる分の田畑の世話をしているが、いずれも実りは多くなく、若者たちが罠をしかけてとれる小動物と合わせ、細々と暮らしているのが現状のようだ。

 だから、領主に渡せるものは何もない、と警戒したように見られている。


「……事情はわかりました」


 老人たちは30人ほど、成人男性は10人、孤児が18人。多くはないが、食い扶持を稼ごうと思ったらそれなりに大変だろう。

 現に全員がやせていて、老人なんかは枯れ枝のような体ばかりだ。それでも、ここで力を合わせて生きてきたのだと見ればわかる。

 不安そうに私を見るもの、警戒するもの、その目は様々だ。


 私は決意した。そもそも私が聖人と認定され、ここに来たのだって、きっとこのためだったんだ。世界が、私をここに導いたのだ。


「まず申し上げますが、この領地に税はありません。そしてあなたたちを咎める理由もありません。安心してください。私は、あなたたちを救うためにきたのです」


 私がここにいるのは、きっとそういうことなんだ。彼らを救えと、それが神の意志なのだろう。


 私の言葉に、全員が半信半疑な顔だったが、それは仕方ない話だ。信じさせるためには、これから付き合っていかなければならない。


 そのためには行動だ。まずは食だ。食べてさえいれば、雨風に吹かれたくらいで体調を崩さない。

 ポチと協力して、いつものように肉と果実を集める。そして姉弟に料理をさせて全員に炊き出しを行い、しばし体を休めてもらう。

 その間に田畑の開墾をはじめた。私には荒れた大地をもとに戻すとか、そんな魔法はない。あるのはただ、物理的な力だけだ。だから地道にやっていくしかない。たくさんとれないなら、畑を増やせばいい。


 あとは生きるのに重要なのは水だ。街の井戸が枯れて水は2キロほど離れた森の中の川まで汲みに行っているとのことなので、それは水路をつくることにした。

 働き手としては足りない領民たちは、しかし老人たちには知恵があり、水路や家づくりに携わった経験があるものもいて、それを参考にしながら行った。

 家もそうだ。言われるまま材木をへし折り、形を整え、組み立てる。細かな技のいるところは比較的元気で元職人だと言う老人たちにやらせ、力仕事だけと割り切ることで、一週間ほどで、まず大きな集会場をつくった。


 壊れた家にはおいておけない。まず全員をそこに突っ込み、のこったぼろきれの衣類も全て洗濯して、体調を崩しているものは休ませる。

 元気なものにはこまごました作業や今後の計画を考えさせる。私に復興の経験はもちろんないので、自分たちに何が必要か、何がほしいかを考えてもらうのが一番手っ取り早いだろう。


 要望をかなえるべく昼間は伐採や水路作業、田畑の世話をし、夜間はとにかく畑を広げた。

 しばらく休ませて食事をとらせ、全員顔色がよくなって来たら畑の世話は自分たちでさせた。食事は手間なので全員同じ炊き出しで統一させた。その方が消費の計算もしやすい。


 半年後、元々それぞれで小さなグループで家に住んでいたのと同じように分けて住めるだけの家はできた。少しずつまともな生活になっていくようでうれしかった。その頃には、住民たちの警戒もとけていて、領主様と呼ばれ、まとめ役として認められて一目置かれるようになった。


「領主様、ポチ様帰ってきたら、今日は僕が水浴びさせたいです!」

「構いませんよ」

「やったー!」

「領主様、水路を少し伸ばしていただきたいんですが」

「ああ、じゃあ夕食時に時間をあけておきます」


 と言う具合だ。そうなると、やはり多少情もうつるし、義務感以上にやる気も出てこようと言うものだ。

 全員の名前も覚えたし、笑顔も見て、慕ってくれる彼らを救うのだと思うと夜中の一人の作業も苦ではない。


 さて、食料と家ができ、次に気になるのは衣服だ。もちろん全員着てはいるが、年寄りは持っていたがそれも子供用に仕立て直したりして、全員服はほぼないようなものだ。


 そこで余った獲物を日持ちするよう加工し、毛皮をなめし素材にし、売りに行くことにした。以前の行商人の旅でやっていたのと同じことだ。

 それも誰かに行かせると手間だ。ポチは昼間十分に働いてくれているので、これはこっそり私一人で夜間に行くことにした。

 一人の方がよっぽど早いのだ。深夜に出て、早朝に到着し、朝一で取引をしてすぐ出発し、人目がなくなるところから走ればまだ朝のうちに戻ってこられる。


 そうして少しずつお金をためて、衣服や生活必需品をそろえていった。

 全員がしっかり畑仕事をしてくれるようになると、老人の知恵で骨から肥料を作ったりしているうちに、少しずつ同じ範囲からとれる作物の量も増えてきた。

 すると畑面積は拡大しまくっていたので、ぐんと収穫量があがり、それも売りに出せることになった。それはもう少し離れた街の方へ、こちらも収穫翌日に売れるよう走って持っていくと、なんせ新鮮さには間違いないので、それもそこそこ売れるようになった。


 そんな生活を3年も続けると、いつのまにか、住んでいる領民たちの数は増えた。と言うか増えるように努力した。


 私が領地の復興を行い、生活する人には家をたて、田畑も与えることを地道にアピールしたのだ。行商人もやってきたり、様子を見に来た元住人が他にも声をかけて移住してきたのもあり、噂になったようだ。

 当然元住民以外にも、その都度家を増やしたりして、サービスをすることで、ここに来れば家と田畑がもらえるのは本当らしいとなったようだ。


 今では100人ほどが住んでいる。それでも街と言うには小さいし、戻ってきたのも老人が過半数だ。だが元職人だと言うものもいて、それなりに賑わいのある様子になってきた。

 そんなある日、我が領地に私の後見人を自称しているあの教会のおっさんがやってきた。


「グンニネル司祭、よくいらしてくださいました。大したおもてなしはできませんが、どうぞゆっくりしていってください」


 3年で、最初に比べて人員や物資にも余裕ができたことで、一応私と弟子の住む領主の館は新しく立派めのものを作っている。

 と言っても、以前にあったレンガではなく木造ではあるが。広さは同じ程度で部屋数多めで、門構えだけは立派にした。ほぼ倉庫だが、客間もつくっておいたので今回司祭を迎えることはできた。

 といっても家具は普通に全部手作りだし、絨毯やら絵画などの飾りもなく木の色しかないので、本当に形だけ、と言う感じだが。


「なかなかどうして、立派になったじゃありませんか。私も以前の様子は一度見ただけですが、かなり荒廃していたのに、もう普通の村だと言っても何の疑問もないほどですよ」


 そう言って朗らかに司祭は出したお茶をすする。


 しかし、口では歓迎すると言ったものの、実際には何の用なのか少し不安なくらいだ。

 馬車でお付き3人と言う偉い人にしてはかなりの少人数で来てくれて、気を使ってくれているのはわかっているが、それでもこの人を放置して作業をできないし、早く帰ってほしいのが本音だ。


 とはいえわざわざ長旅で来てくれたのだから、もてなす気持ちがあるのも嘘ではない。

 久しぶりに緊張する私に、さて、と司祭は落ち着いた様子で口を開いた。


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