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領地

 それから私はおっさんに連れられて、なにやらいくつもの実験? 検証? をやらされた。

 魔法を使うには、魔力と言うガソリンのようなものが必要らしい。だけど私の体にはその魔力がないと計測された。またジャンプをする時にもその反応がないことから、計測外などではなく、魔法ではないと認定された。


 そこで、そうだったんですね、なのに聖人だなどと言って申し訳ない。もう二度としません。じゃあ帰ります。と言えたらよかったのだが、魔法ではないが、確かに飛んでいると認定されてしまった。

 聖人となるには、魔法がつかえると言うのは必須条件ではなかった。どれだけ神のいる国へ近づけるか、が条件なのだ。

 もちろんそれは、魔法なしに身一つで近づけるわけがないからわざわざ明記されていないだけなのだが、そうだとして私が聖人の条件に当てはまっているのもまぎれもない事実なのだ。


 ということで、めちゃくちゃ大事になった。ここだけの話で収まらず、教会関係者から貴族、果ては王族にまで話はいったらしい。もちろん直接顔を会わせたわけではなく、その偉いさんの話し合いの間は教会で軟禁状態だ。扱いはよかったが、いつどうなるのか不安であった。

 宿を引き払い、ポチを手元に寄せることは許されたが、だからといってポチにのって逃げるのも得策ではないだろう。穏便にすむ可能性があるのだから。万が一も、私の命だけでと確約さえとれれば、死なないので問題ないのだけど。


「お師匠様……、ほんとにごめんなさい」

「ヨータ、何度も言わせないでください。私が言ったのは事実なのですから、あなたはそのまま言っただけです。悪いとすれば、それは教会の定義も知らずに言った私です」


 用意された大きなベッドの上でごろごろしていた私に、ヨータはベッドに飛び込むようにしてぎゅっと私の腰に抱き着いてきた。頭を撫でて慰めてやる。

 それをベッド脇の椅子に座っているリョンが冷めた顔で見ている。


「でも、お師匠様が遠い国から来た人だと知ってたのですから、ヨータはそれも考慮すべきでした」

「弟に厳しいですね」

「お師匠様が甘いからです」

「まぁ、焦っても仕方ありませんよ。リョンもこっちで寝たらどうです?」

「……はい」


 リョンがいそいそとヨータと反対側に回って抱き着いてきた。

 随分身長が追いついてきて、多分来年には抜かされてしまうんだろうが、それでもリョンは私を慕ってくれている。いつまでこの二人と一緒にいられるのだろうか。


 ワン!

「うわっ」

「ぐっ」

「ポチ、自分の体の大きさを考えなさい」


 ポチが上に乗っかってきた。主に私の上だが、手足が乗っているだけで両サイドの二人も重そうだ。


 コンコン、とノック音がして、ポチをおろさせようとした手をとめて起き上がる。


「はい」

「失礼いたします」


 入ってきたのは例のおっさんだった。

 そして長々とそのおっさんが言うことには、どうやら私はれっきとした聖人として認められることになったらしい。

 そして聖人となった以上、今まで通りとはいかない。聖人となれば特権階級であり、王ですら一目置く存在でなければいけないからだ。

 どこの出身とも知れない子供を大真面目にそんな扱いにするわけにはいかないが、かといって認めるだけであとは放置と言うわけにもいかない。それでは聖人の権威が傷つくからだ。

 と言うわけで私は領地を与えられることになった。税金も免除で王が聖人に対して敬意を払っていることの証明となる。そして教会からは今までの聖人への前例にしたがった毎年年金が与えられるそうだ。

 だがもちろん、形ばかりだ。領地と言うのはこの国で一番貧しい土地だ。以前隣国との小競り合いで戦地となり、森が焼かれ田畑は荒れて人もいなくなり、領主の一族も死んでから戦後も放置されている土地だ。

 そこを聖人に任せることで、対外的に聖地として扱えるので、私の死後はまた別の誰かに与える際に箔をつけて悪しき土地ではなくすことができるからだ。

 年金は、金額をきくと普通に大したことがない金額だ。この都会の物価ではぎりぎり三人は生活できるだろうが、ポチのエサで破産する程度でしかない。本当に形だけだ。


 形だけだが、一応王様にも謁見して、承ることになった。肩がこるかと思ったが、そうもならなかった。さすがこの体だ。


 正直、税もないし義務もないと言うことで、実のところ無視して他所へ行っても大丈夫そうなのだが、一応自分のものになったのだから、その領地をやらを見に行くことにした。


「なんだかわくわくするな! これでお師匠様は、お貴族様なんだもんな!」

「貴族ではありません。ただ領地をもっただけの聖人です」

「領地持ってるのって貴族じゃん!」

「ヨータ、はしゃがないの」

「だって、だってお姉ちゃんだって思うでしょ!? お師匠様はすごい人なんだよ!」

「馬鹿! お師匠様は、最初からずっとすごい人でしょうが!」


 無事、二人と一匹が何もかけることなく、こうして街を出られたのだ。それで十分だろう。

 教育については、滞在中に二人に教師をつけてもらうと言う名目で少ししてもらっただけだ。歴史と算数を教わっていたが、歴史はともかく、算数は少しくらい教えられるし、まぁ、何とかなるだろう。

 面倒なことになったのは事実だが、好待遇ではなくても何もなかった身から、教会と言う後ろ盾を一応得たのだ。悪いことばかりでもなかろう。

 特にあのおっさんは聖人を認定したと言う功績で階級が上がるそうで、喜々として後見人になるから何かあったら連絡しなさいと言っていた。裏しか感じないが、もし二人が成長してあの街で暮らすとなれば多少は役に立つだろう。こういったコネは大事だ。


 首都から我が領地まで、もらった地図をもとに寄り道せずに向かったのだが、到着まで半年以上かかってしまった。


「こ、ここ……?」

「す、すご、いや、大きな領地ですね!」

「うーん、まぁ、大きいですけどね。森も範囲なので」


 そう、範囲だけなら広いのだ。隣国へと続く国境のある手付かずの大森林も含めての領地だから、多分広さだけなら、他の貴族の領地と比べても平均はあるのではないだろうか。

 ただ、ないもない。朽ちてぼろぼろの木造の建物が、ぽつぽつあるが、もっと進めば本当に何もない大地が続いている。いまだに焼けたような跡すらある。争いから5年もたっているらしいが、それにしては復興しなさすぎだろう。


 とりあえず、領主の館として先人が使っていた建物はそのままもらえるらしい。とりあえず向かうと、大きな建物だったのだろうが、ぼこぼこと穴があき見る影もない。ところどころ崩れている塀に囲まれた中を見て回ると、端っこの馬小屋は形が残っていた。


「とりあえずポチの家は無事なようですね」

 ワフ!? グォン! バウバウッ!

「あとは我々の寝床ですが、まお、おいおい直していくとして、屋根の残っている部分ですかね」

「うーん。多分部屋ごと無事そうなのもあるけど、廃墟の中って思うと、何かやだなぁ」


 ヨータが文句を言うが、気持ちはわかる。野宿でも平気だが、玄関の壊れた不法侵入が容易な家と言うのはどうにも抵抗がある。


「何言ってるの。無事な部屋一つあれば、私たちの住んでた家より広いでしょうが」

「そんな昔のこと覚えてないし。じゃあ、探してくる!」

「待ちなさい、ヨータ。急に朽ちて崩れてくる可能性もあります。一人ではいかないように」

「あ、そっか。はーい」


 警戒しながら、建物の中に入ってみた。あちこちめちゃくちゃで、天井や扉が無事なところも、家具が倒れていたり目視できない枯れた死体のようなものがあったりして、とても一晩でも過ごせるレベルではなかった。


「しかたありません。しばらくは、ポチの家に住みましょう」

「家ってどうやってつくれるの? 俺、頑張ってお師匠様がゆっくりできる家つくるよ!」

「嬉しいことを言ってくれますね」

「! わ、私だって、頑張ります! この村を復興させましょう!」


 そこまでするかも決めていないのだが、やる気があるのは何よりだ。折角土地をもらったのだから、まともな家の一軒くらいはあってもいいだろう。


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