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3.0話 糸車

 ―――3年後。9歳。集落のはずれ、小川近くの土の上にて―――


「よしっ」


 作り上げたそれの動作に問題がないことを確認する。原始的な糸車だ。

 時間があるときにコツコツと作り3台目となる。

 右の大きな円状に組んだものを、左の小さな駒(紡錘)を糸で繋いである。

 大きな円には、それを回すための取っ手が付いていて、回すと小さな駒を高速回転させる。


 評判は上々で、今まで手で紡いでいた羊毛や麻は、冬まで残っていたが、秋に入る頃には既に無くなっていた。

 3台目は過剰かもしれないが、とある実験材料でもあった。



 目の前で、少し神妙な顔をして糸車を見ている兄イーサがいる。

 来年13歳で成人となる。

 背が伸び、体もがっしりとしてきた。顔つきもだいぶ精悍になっていた。


「お前はほんとに…よく思い付くな?」


 少し前のことを思い返して聞いてくる。


「ここを枝から板に替えたらすごい力になったんだ。回っているものに刃を当てると削れることは少し前に見せたでしょ?色々と出来るんじゃないかなと思って。」



 その部分を指差してそう説明した。我ながら白々しい

 これを最後に組み上げる前に、とある実験を見せた。


 大きな円状の木枠は中心の軸から左右それぞれ8本の骨格(スポーク)を持ち、外周上で繋ぎ合わされて八角形に組まれている。

 指を差していた左右のその骨格の間には、やや小さい木の板がある。

 それを実験用の基台に乗せる。

 中心軸にあらかじめ用意していた軸に収まる木材を取り付け、小川のその流れが少し速い水に沈めて回転させた。小さな水車だ。

 後付けした木材を、研いだ骨角器を当ててゆっくりと削り、木の先端を鋭くしたり、細くして切断してみせた。


 その後にも、真ん中に穴をあけた薄緑色の小さな石を削った木材に圧入し、次は砥石で磨いて、リング状にした。

 それを実演するため、糸車としては無骨になってしまったが。


 水車は前世で少し程度だが知識があった。最初期の自動動力だ。

 特別詳しかった訳では無いが、構造はわかっていたため、この時代の道具と相談しつつ構想を立て、作ろうと思っていた。


 イーサを巻き込もうという魂胆もあるが、商人で自分がいない間、管理できるようにさせたかったこと。また、そういった教養があればイーサ自身でそれらを作れる。

 そのために、幼い頃から事あるごとに原理を見せ、体験させていた。


 川で円形のものがに回ること。大きい円に小さい円をくっつけると回転が速くなること。糸で繋げばいいということ。逆転すること。


 子供の好奇心を盾にして、いきなり完成形を出さないように気を付けていた。そして、今回そこに踏み込んだ。



「ふーん…?…でも、あの速さで回るならそれを糸車にした方がいいんじゃないか?」


「そうなんだけど、糸が濡れてしまうかもしれないし、止めたいときには片手が塞がってしまうんだ。川から離れたり、何かで止めれればいいんだけど…」


 イーサが提案してくる、そのことに内心喜びながら、それに答えていく。解決方法はあるが、まだ話すべきではない。


「そうだな……真ん中の木を伸ばすとか?止めたいときは槍をいれるとか?」


「う、うん。そうだね!」――すぐ壊れそうだが


「そうか!やってみるか?!」


「あ、で、でも、ほら、この石とか木も父さんに見せないといけないし!」


 食いつかれたので、あわてて置いてあった削った石と木を見せて、話を逸らせようとする。

 水車を作る名目は糸車以外にも必要だと思って、指輪のようなこれを作ってみせた。

 また、商人となった場合これも商品になる可能性はある。

 それを見てイーサが


「まぁ、それもそうだな。あ、親父もあれを見たいって言うかもしれないしな」


 と言った。

(あ)っと思った。その水車は糸車に組み込んでしまった。そうだった。

 今回は云わば、水車のほぼ完成形だ。父オゥディもまとめて巻き込んでもよかったかもしれない。糸車にこだわりすぎて失念していた。


「そ、そうだね、その時にやってみようよ」


 失敗の焦りを隠しつつ、槍で止めるのも一回くらいなら大丈夫だろうと思い、了承した。




 ――――――――――




 オゥディを探しにイーサと集落へ戻る。

 折よく今日は狩りへ出ておらず、自宅の近くで薪を割っていたところだった。


「父さん、ちょっと!これ見てみて!」


 そう言いながら近づいていく。

 オゥディはこちらに気付いて、ゆっくり石斧を置いてから


「何をまた作ったんだ?」


 そう聞いてくる。

 イーサには途中経過を見せることが多かったが、オゥディには話はすれど、原理がわからない所に完成品を提出してしまうことが多かった。


「今日はそんなんじゃないよ!」


 と言い、薄緑色のリングと、削った木材を見せる。

 身構えていたオゥディは、その小ささに少し安心したか、すんなりと薄緑色のリングを手に取り、まじまじと見始めた。


「ほぉ、確かにキレイに削れているが、これは?」


 訝しげな顔になり、そう聞いてくる。


「トーラがおかしな物を考えて、それを削ったんだ」


 イーサがそう言うと、オゥディの眉がヒクりと動く。


「糸車を少しだけ変えたらそれが出来たんだ」


 と補足の説明を挟む。


「なるほどな…。しかし、これは祝具か何かにはいいかも知らんな。あとで神子に聞いてみればいい。すまないが俺にはこっちの価値はわからん」


 オゥディはそう評価してリングを返し、次は木を手に取る。

 木は横に筋が入っていて一部細く、鋭い。先程よりも厳しい目で見ている。


「これは、見たことがない削り方だな。何かに使えるかも知らんが…、矢が作れるか?」


 その問いには首を振って答える。


「それはやってみたけど木が暴れて、難しそうだった」


「そうか」


 端的に返ってくるが、まだ木を見ている。少しドキドキする。そして少し厳しい顔をして口を開いた。


「すまんが、どう削るか見せてくれないか?使えるかもしれないが、どういう物かわからんとな」


「うん、わかった」


 了承した。

 水車を糸車からもう一度外さなくてはならない。

 そして槍が来るだろう。



 ――――――――



 リングを見せようと神子を探す途中、母ヘスを見つけたので緑色のリングを見せてみた。


「まぁー、綺麗ねぇ!」


 見とれていた。こういったモノは、やはり女性には受け入れられるらしい。


「これ作り始めるの?!」


「いや、聞いて回っているところで、まだわからないんだ。」


「へー…」


 しばらく見て、指に入れようとする。小さめのリングなので残念ながら入らない。

 そこで「ちょっと待ってて」といって羽飾り用の細い革を持ってきたと思ったら、ペンダント状にして首にかけた。


「どう?これ?」


 と聞いてくる。


「「綺麗」」


 と我が子二人に言われると、ヘスは満面の笑みを浮かべた。



 ―――――――――



 その後、「神子に聞いたらあげるから」と言って一旦預かり、神子のもとへ行った。

 神子はリングを見せると欲しいと言ったが、もう一つ作るから後日でもいいか聞いたら了承してくれた。「祝福がありそうじゃ」との理由を聞いた。




 ――2日後、オゥディ他、大人5名の立ち合いで実演した。

 木材切削はやはり芳しくなかった。

 もっと大きければ、出来るかもしれないからやってもいいか聞いたら、あっさり承諾された。


 イーサは槍を持ってこなかった。

「槍でやったら壊れるだろ」と言い、水車を、基台ごと持ち上げて止めた。

 正解だ。


奴隷人力車はまだないです。

また道具がないので、製作スパンが一個当たり長い想定です。

ヒスイってそんなに簡単に穴空くのかなー削れるのかなー、違ってたら増幅して頑張ったことにしてください。。

あと、ヒスイの手斧はないですが、周辺には大きいものが無いということで…


母親に指輪を見せて、惚れるなよとは言えないので、やはりちょっと出です。


専門家の方へ。

この時の水車の能力は、弱能力を想定しています。実演時間も2時間ほどかかる想定です。物語のテンポ上、説明を省略している部分が多いです。

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