1.0話 自分
※ここからでも読めるようにしてみてます。
前世で自分は、機械設計の職にいた普通の人だった。趣味もDIYが中心だった。機械、電気、プログラム、様々な分野の構造や仕組みを理解し、それを学んでいる所だった。
その生活もがれきに押しつぶされ、自分は死んだ。
次に目が覚めると、知らない母と父がいた。
転生したと思い、はしゃいでいた。
そういった文学が前世では多かったし、自分も好きで読んでいた。
しかし、思い描いていたモノとは程遠かった。
魔法は無い、先史時代と思しきところだった。
それは耐えられなかった。
産声を上げた後のあの儀式こそ魔法ではないか、と思い描いていたギフトに縋った。
そして、その頸木は外された。
魔法はあった。使うことが出来た。これは祝福だ。
再びはしゃいだ。これは何だろう、どういう機能だろう、と貪欲にそれを理解しようとした。
――――――――――
6歳と言っていいだろうか。
いくつかの暑い時期と寒い時期をこえて、畑の収穫が終わったころ。
少し開けた森の中、自分は木に実っている小ぶりの黄色いリンゴのような果実を見ていた。
(“鑑定”)
そう念じてみた。
すると視界の左右端に文字列が何段も表示される。
それはやはり“わからない文字”だった。
“鑑定”が使えるとわかったあの日から、何か糸口を探そうとした。
鑑定を検証すると、右側の文字列は“|”(縦棒)で前後が区切られていることがわかった。色々実験した中で、“|”の左側が物質、右側は数量ではないかと考察していた。水の量が違う2つの壺を並べてそれぞれ鑑定、比較して確かめた。
ただの水とは言え、内容物質は多いのか文字列は延々と続いていた。意識を伸ばすとスクロールできることが分かった。数量の文字が同じものが並ぶ。総量の大きい順らしい。
その数字を指定して“詳細”と思うと視界中央に膨大な桁の文字が表示された。そういったところから0~9の文字がわかった。
物質は表示内容の多さから分子式と断定した。同様に、水、水素、窒素、酸素、炭素などの文字も推察していた。しかし、その他の物の分子など知識に無かったので、そういった代表的な部分しかわからなかった。文字の種類も多く、30以上を数えて諦めた。
その物質も“詳細”と念じれば、構造と思しき図とさらなる文字列が見えた。原子であろうか?意味あるのか?それも、自分には無用の長物だった。
意識を伸ばして操作するのも慣れなかった。
自分の手を視界に入れて、フリックやタップなどしてみた。同様に操作ができたが、意識を伸ばした方が早いだろうと思い、慣れることにした。
この3年で“鑑定”への理解は進んだが、自分にとっては死にスキルだった。
俗にいう鑑定ではなく“分析”だった。実際、そう念じれば同じように機能した。分子式なんてわかっても、自分の知識には持ち合わせはあまり無かった。
ちなみに、“なんだこれ?!”と思っても起動する。煩わしい。
(せめて糖分とかわかるといいんだけどなぁ)
水が主体、とだけははっきりわかる。
糖類の特定も、果実を食べ比べて、鑑定した数字の増減で比べることも出来ないでもないが、膨大な種類があるだろう。
あと、今の生活でそんな贅沢はできない。
“終了”と念じる。視界から鑑定の表示が消える。
鑑定するまでもなく、その実は熟れて食べれることはわかっていた。
木に登る準備をする。手の届く位置には果実は少ない。
藁で作った籠を持ち、木に手をかけて登り始める。太い木なら幹に手足をかけるだけで登れるようになったが、この木は枝が多いので少し面倒くさく感じる。
(ちゃんとこの時代の人に成れるんだなぁ)
前世ではあまり木登りはしなかったが、やはり教育次第なのだろうか。
そんなことを思いながら登り、熟れた果実をもいで籠にいれていく。籠が引っ掛かりそうになり、少し時間がかかる。
籠がいっぱいになったら降りて、小ぶりな荷車に移す。また登るを繰り返す。次第に相当な高さを登るようになり、荷車も8分目くらいになった。
このくらいだと切り上げて、自分の体に丁度いいその荷車を引き始める。
ちなみに、[荷車]はもともと無かったものだ。左右に大きめの板から切り出したホイールを付けている。一輪車にしようか迷ったが、壺などを運ぶこともあり、安定を取ってこちらにした。
去年、この小さい荷車を作り、遊びと称して、水を入れた壺で兄に体験させた。兄と一緒に広めて、大きいものが2台ほどが作られた。
しかし森の中だ。荷車が躓くことがないよう気を付けたりする必要はある。途中の緩い上り坂ではさすがに重い。
(首から下に“増幅”)
念じた瞬間、荷車が軽く感じられる。ラクチンだ。
“増幅”もまた祝福で与えられたものだ。
そういえば“能力向上”も願ったんだよな、と思って念じてみたらできた。
検証したら、自由に部位指定ができることが分かった。ちなみに無指定、もしくは頭を指定すると周りが遅く感じらる、思考強化のような形になる。
能力向上では長いので、同じく動作する“増幅”と念じることにした。
ただし、あまり長くかけ続けると、頭痛や気怠さ、翌日には高い確率で筋肉痛に襲われることになるので、使いどころを考える必要がある。
増幅を“終了”する。
上り坂が終わると、すぐに森を抜ける。
ここからは下りの草原だ。平和な集落が見える。
魔物というものは見たことがないし、聞いたこともない。外敵は年に1回は出てくる狼、熊や農作物を荒らす猪たち程度。穏やかな世界に思う。
あと7回ほど冬を越せば、この穏やかな集落から物を売りに出る。
そう決まったのは能力に気づき、兄に願望を話し、神子に呼ばれた日だ。
あの日、神子は言った。
『トーラ、お前は祝福を受けている。お前が産まれた時、まるで次の神子が生まれた気がした。
だが、神子は女性と決まっている。だからお前に直に聞いてみた訳さ。
――その力は必ず役に立つ時が来る。わしはわからんかったが、外に出ればいずれわかるであろう。まさかお前もその気があったとは思わんかったがの。
――すまないね、つい聞こえてしまったのでな。まぁ話に聞く以上に賢い子じゃと思ったがのぉホッホッホ・・
――あぁ、そう青くならなくて大丈夫じゃ。わしはお主を助けたいんじゃ。両親にも話を付けようじゃないか』
その時は主に“鑑定”の文字を外に求めた自分は、それをお願いした。後日両親と話を付けてくれ、家族会議のようなものは開かれ、家族は了承した。商人とはいえ売る物がない時はもちろん集落を手伝う。
しかし、“鑑定”の内容を推察すると、その目的は砕けた。
それと同時に、この死にスキル達を呪った。
自惚れ、はしゃいでいた自分が馬鹿々々しい。商人と決めてしまったことを後悔した。
そう落胆したが、まだ前世の知識という武器はあった。
父から木を削る道具を持たされたその日から、必死に[荷車]を作った。
組み上がったそれを、親しくしていた兄に見せた。喜んで受け入れ、一緒に説明してくれた。大人たちも目を輝かせて作り始めた。
ここに技術を伝えよう。家族を、集落の人らの助けとなろう。
それらをもって商人となって、集落を潤していこう。
自惚れて結構。それが今の自分の目標であり、生きる糧だった。
この回は1話 兼 説明回です。
クドクドしてますがすみません。伸ばしても尺が微妙で。。。
当初は、死にスキルの絶望のどん底から這い上がるようになってましたが、そこまで考えちゃうとどうにもならない部分が出てきてとりあえずサバサバしてます。
あと、文字はアルファベットではなく1万文字以上はある設定です。
日本語の苦労を味わうがいい・・・
軸は動物の脂肪を使います。
ウッドベアリングは知っていますが、どれがその木かは判別できない想定です。
ご意見お待ちしております