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開花後

 目を閉じて両手を組みひざまずく中、赤子の泣き叫んでいる声が聞こえる。

 暗い視界の中にあった「XX」が消える。


 神子がカッ!!と打音を響かせる。


 程なくして周りがざわざわし始める。


「イーサ、トーラ、もういいぞ」


 と言われ、おっかなびっくり目を開ける。

 周りの大人たちは立ち上がろうとしたり、そのまま座っていた。こちらを見る人はいない。

 父オゥディを見る。その奥に母ヘスもこちらを見ていた。


「よくやったな。手伝ってくるからまたあとでな」

「家の前で良い子にしてて」


 とそれぞれ立ち上がって、出産した夫妻のところへ向かって行った。


(バレなかった・・か)

 トーラは安堵した。平たく言えば厳かな儀式だった。

 前世でのお葬式とは違い、ひとりひとりの圧が強いと感じた。そんな中を盗み見たのである。

 最初と最後はちゃんと幸せを願いました、などとセコい事は言えない雰囲気であった。


 兄イーサと見送る。少し視線を動かして神子を探し見つけた。

 石板の上で外の世界に伏していた。


 “鑑定”と念じようとしたその矢先。


「トーラ!終わりのほうでビビっていただろ?!」

 突然、イーサが言ってきた。バレてた?自分の隣だったね。

「ビビってないよ!」

 と反論するが内心、冷や汗が出始める。

「本当かぁ?」

 ねめつけるように言われる。

「本当!」

 きっぱり言う。(大丈夫だ、現場を押さえられたわけではない!)

「へぇ~?」

 確信しているらしい。

 ここで負けて・・・も大丈夫か?

 しかしイーサは

「ま、いいか。家まで戻ろうぜ」

 ニヤけながらそう言って歩き出したので「はーい」と後ろを着いて行くことにした。

 ビビってたかどうかならまだいいかと思うことにした。


 歩きながら周りを見る。既に神子は人の波の中にいた。

 “鑑定”の検証は、一段落してからにしたほうがいいだろうか。初めての魔法の興奮はあるが、同時に機能不全の初期不良なんじゃないかと疑ってた。


(XXって・・・完全にアウトだよな)


 魔法の取説なんぞこの世にあるのだろうか。


(あ、ロボトミーはなしで。頭を叩けば治りませんか?)


 少し頭がおかしくなり始めていた。




 歩いている最中、頭をフル回転して“鑑定”の機能不全で考えられるところを妄想していた。

 先導するイーサが止まる。気付けばもう家の前だった。


「お前さ、何か様子がおかしいぞ?」

 イーサが振り返って聞いてくる。

 前世でも同じようなことがあったことを思い出す。

 何か問題があると考えすぎて、人を寄せつけない雰囲気になってしまう。


「ちょっと考えてた」


 返せれる言葉が少なくて、そう無難に返す。

 そう困っていると、意外なことをイーサが聞いてくる。


「許嫁のことか?」


 イーサもそれは気にしていたのだろうか?

 確かに今日の今日だ。そう帰結するのは当たり前かもしれない。


「許嫁のことじゃないよ。それは兄さんをホントに祝福してるよ」


 本心だ。


「本当か?」


「本当」


「じゃあ何でそんなにおかしいんだ?」


 こう突っ込まれると困る。

 鑑定の件は出せない。

 考えているこれは3歳で言っていいのか迷う。

 こう悩むところも不機嫌に映るのだろうか。

 あまり兄は待たせれない。許嫁を蒸し返されても厄介だと、腹を括る。


「・・・大きくなったら、外に出よう、と、考えてた…」


 最後はしりすぼみになってしまう。言ってしまった。


「他の集落から女をさらうのか?」


 ―それは過激すぎます、兄さん。


「違う。そんなことはしたくない」


「じゃあ何をしようと外へ行くんだ?」


「それは・・それを考えてる」


「はぁ?」


 そう言われても困る。まだこの世界で3歳だぞ。苦し紛れに思いついたものを言う。


「商人…?」


「あ?ああ」


 イーサが思い出したようだ。


「ここに無いものが手に入るんだよ?」


「だから?」


 ほんのちょっとだけキレた。抑えていた思いが出てしまう。


「えーと、ここの人が喜べるように何ができるか考えてるんだ。もっと麦は取れるかもしれない、道具があるかもしれない。羊の毛もこの布も欲しがる人がいるかもしれない。そうすればみんなここで美味しいものが食べれるんじゃないかと思うんだ」


 少しこちらの言葉にアレンジしつつも、そう言った。

 孝行したいのは本心だ。

 外の世界にも興味があった。

 商人は冬の前に来て、麦や羊の毛などと交換しているのを見たことはあった。


「・・おう」


「ごめん、まだ考えていて、こんなことしか言えない。」


 イーサも渋々頷く。あとは、


「だから…」


「わかった。ごめんな」


 こちらが言いかけたところにイーサが謝る。しかし考え込んで雰囲気を壊したのはこちらだ。


「こちらこそごめんなさい。あと、ホントにおめでとう、兄さん」


 兄の手を取り、もう一度祝福する。少し気になっていたのかもしれない。


「ありがとう、外出るまでに鍛えてやるからな」


 なんだかんだ言っても、弟思いの兄であるが、


「アハハ・・・」


 手加減は無いのだろうなと、笑って誤魔化すことにした。




 その後、しばらく話していると、オウディが宴に呼びに来た。


 宴は盛り上がった。ビールっぽいものや肉などが大盤振る舞いされていた。大人たちは騒いでいる。

 丸焼き肉が作られていく。漫画肉はなさそうだ。


 こちらは3歳なのであまり食べれない。

 細かくされた鹿の肉が追加されただけで、雑穀のスープとナンのようなものという、いつもと変わり映えしないものだった。


 ちびちびとスープを飲みつつ場を持たせることにして、両親や兄と話しながら宴を見てた。


(商人か)


 兄の言葉に反論するためにそう言ってしまった。早まっただろうか?


 そんなことを考えていると、神子がオゥディに近寄っていた。


「トーラを借りるがいいかね?」


 などと聞こえた。

お目汚し失礼します。


まじで悪い子です。めっ”

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