誕生礼
冬と思しき寒い時期を3回越えた頃である。
ある晴れたとある川沿いの草原、何故か自分は走っている。
「トーラァ!早く!」
前を行く大きい子供、兄であるイーサがはやし立てる。後ろを見ながら器用に走っている。
「っ、早すぎるん、だよ!、兄さん!」
抗議をする。
無理もない、兄であるイーサとは体が2周りも違うのだ
しかし、そんな抗議も
「お前が遅いと、ケパーに逃げれるぞ!」
そう煽って前を向いて走っていく。
(…ハードだ)
げんなりとそう思った。何度かその煽りは受けていたことがあった。
ケパーは前世で言う鹿のようなものだ。この状況も何度かあったが必ず出てくる言葉だった。
(狩猟民族たる部分なのだろうか?)
獲物を逃がさない、食わなきゃ死ぬ。そういった煽りで子供を鍛えていく。
そんな時代なんだろうとは推察していた。
思えば、前世の教育とは程遠いスパルタとも言える部分は、3歳を前にして数多かった。
ただし推察してどうにかなる現状でも、時代でもなかった。
時折後ろを気にしていたイーサが、気落ちを見抜いたか、
「トーラ!!」
振り向いて一喝するような声を掛けてくる。
「っ!行くよっ!!」
精一杯に返した。
―――
その集落は山のなだらかな部分に位置していた。
土壁と煉瓦造りの家が10戸ほどあり、既に東には牛、羊、ヤギの牧畜が、西には麦や野菜などの畑が営まれていた。中央には石の積まれたかまどが見られる。
その集落の入り口にあたるであろう、南の低い位置に20人ほど集まっていた。みな服は無く、白い布か毛皮を巻いている。
そこに集落付近で合流した2人が歩いていく。
すると先導していた兄のイーサが目的の人を見つけ、呼びかける。
「父さん!」
その人は気付いて「イーサ、トーラ、こっちに来い!」と言い手招きする。言外に笑顔だ。
イーサは走っていく、となればこちらも走らなくてはならないが、短い距離でも差は顕著だった。
「良い子だイーサ、トーラも頑張れよ」
と先着順で頭を撫でていく。
(もう一息なのか、まだまだなのかニュアンスが微妙だが・・)
まだこちらの言葉にはなれなかった。
覚えた言葉の種類は少なくないが、どうも言葉自体が発達していないように思えてならない。
イントネーションもあまりなく直接的な言い方が多いなと感じていた。
それはこの父、オゥディの癖なのかもしれないが。
「母さんは?」と聞いてみる。少し拗ねているかもしれない。
集落の中心辺りを見て父が言う。
「母さんはまだ忙しいだろう、少し待っていろ」
「わかった」素直にそう頷く。
この集落では出産がある度に儀式と宴会が行われる。
前々からイーサと一緒にその儀式について聞いてはいた。
今日には産まれるらしいとまず集落中に伝わった。
出産準備と宴会の準備が今日の仕事となり大人たちは駆け回っていた。
そんな中、母ヘスは助産士をすると聞いていた。来るとすれば最後だろう。
子供2人は「あまり遠くへ行かず遊んでなさい」と言われて遊んでいた。
そこに「もうすぐ生まれるぞ!!」という声が聞こえてきたわけである。
「よしっ」
おもむろにオゥディが子供の目線まで屈んで聞く。
「祈りの言葉は覚えているか」
有無を言わさない目。
「「はい」」
イーサと共に答える。矢継ぎ早にオゥディが聞く
「お祈りの形は?」
ふたりとも両手を組む形をする。
「神母が見えたら?」
ひざまづく。
「打つ音が聞こえたら?」
口に両手を当てる。
「あとは?」
「「祈ります」」 とふたり
「誰に?」
「「神に」」
「何を?」
「「その子に祝福を」」
オゥディが満面の笑みで頭を掴むかのようにふたりを撫でる。
「そうだ!良い子たちだ。」
ふたりは形を崩して、立ち上がる。
周りの大人たちも「良い子たちだ」と口々に言って、イーサと自分の頭を撫でてくる。
(拍手が欲しくなるけど、無いんだよな)
ここで拍手を聞いたことはまだ無い。手を叩くのは注目を集める時だけである。
また、いつもは他人の子供を褒めるときは「祝福を」が使われるが、今日は「良い子だ」である
。
生まれる子供にこちらはいい所だからおいでという部分と、そのような子供に導く願いであるらしい。
(かゆい・・)
思わずそう考えていた。
そんな中、大人と少年と見られる一組が近づいてきた
「オゥディ!良い子達だな!」
「ファズ!お前の子も逞しいな!」
今日の常用句であろうそんなやりとりを二人はする。
「イーサもトーラも今回が初めてだったか?」
ファズと呼ばれたその大人は、ふたりを撫でながらオウディに聞く。
「そうだ、トーラの時は、イーサがまだ小さかったからな」
「そうだったか、良い子達だ。ケイル!」
そう呼ばれた少年が、ふたりに近づいてきて、また撫でてくる。
「良い子だ」
歳は11歳て所だろう。まだあどけない感じはあるが、しっかりとそう言って撫でた。
「ありがとうケイル兄さん」
イーサがそう返したので
「ありがとう」
と慌てて自分も言う。
「ケイルもそんな時期か」
「おう。まだもう一回あるんだが、次がいつになるかはわからんしな」
ケイルがあいまいな笑顔を浮かべていた中、オゥディとファズがそう言っている。
ちなみに、カレンダーはないこの世界、寒さから暖かくなる頃を数えるため、1年=1回である。
そんなことを話していたころ。
「産まれたぞー!!女の子だー!!」
と、声が響いた。
おー!!
周りの大人たちがわく。イーサも歓喜の声を上げていた。
女か!、よかった!、とそれぞれ喋っている。
そんな中。
(いよいよか)
と自分は思っていた。
お目汚し失礼します。
想像で創造です。スーパー赤ちゃんだったなら3歳で走れる?
地球であれば、古代は雑穀類を栽培と言われてますが、野菜の栽培はしている設定です。