A0.5話 記憶と意識
…朝の暗がりの中、エレスが笑うように見えた。
…瞬きをした。
…目を開けると見えるのは暗い…
暗く黒い視野、背中の硬い感触…。
「!??……!!」
不安に駆られて跳ね起きる。
ここはどこだ、今はいつだ、何が起きた、どうしてここに…、エレスがいない、荷物も荷馬もいない、空も見えない。
何が起きたのか、何をしていたのか、確かなものを探して周囲を目で追う。目で追いかけたものを受け入れもせず、思考もせず、ただ境界を探す。
…家の中だ。酔い潰れたのだろうか?自分の荷物がある、あんなに黒ずんでいたか?
現在の現状と現実を探し回る。悪寒なのか体が冷える。
…狭い家、ではなく簡易家。雨水はあまり落ちてきてない。…ああ、そうだった、昨日は…
ふと現実と結びつくと自然と頭が落ち着き、視界のブレが収まってくる。
ただぼんやりと現状を見る。息を吸い、吐く。悪寒が抜ける。
寝ぼけた思考が戻り、何も追われることのないことに安堵する。
何を見ていたのか考える。もう一度吸い、吐く。溜息だ。
…昔の夢…だったのだろうか。
振り返り、夢の断片を拾っていく。だいぶ薄れてはいるが記憶と大体相違ない。どちらかと言えば夢というより走馬灯だろうか。
…2回目とは…まぁ、いいか
只の夢だと言われればそれまでのことだ。寝覚めは全然良くないが…
目は冴えてしまったが、頭はまだ寝惚けていた。バサッと背中を敷いた毛皮に預ける。
断片から自分の記憶が想起してくる。懐かしさより青さ、至らない部分が恥ずかしくなってくる。前世を持つとはいえ、何をやるにも最初から学ぶことが多いから致し方ない。
…省略やら美化され過ぎてなかったか?とも思うが、元の記憶も朧気だ。
胡乱げな頭に手を当てつつ、そんな記憶を整理しようと呆けていた。そこに
「……キンッ…」
外から聞き慣れない音が、小さく耳をついた。
何かいるのではと、寝惚けた頭が冷めて耳を欹てる。サラサラと外の音が聞こえる。ジージーと虫が鳴いている。変わらない夜の音しかない。
動物の鳴き声、それにしては硬質すぎる。
ありえない、聞き違い、気のせい。それでも気にはなる。野宿の中で異質な音というのは無視し難い。
…見るだけ見ておこう
ザワザワと毛皮から背中を離す。
寝ぼけた後の事だ、杞憂だろうが確認だけだと、外へ体を向け、もぞもぞと這うように動く。
シェルターから顔を出し火を焚いている右方を見るも、特に変わらない草木が暗がりにあるだけ、特に動くものはいない。
左方に視線を回し周囲を見るが、特に変わったモノはいない。
気のせいだった、と思うが、顔を右に戻しながらもう一度確認していく。
その中に
白い靄のようなものが、10歩ほど先の位置に見えた。
煙ではない。風向きからしてそちらへは流れていなかった。
布でもない。あんな人型のようなものは無い。まして首のない人のような
…そう認識するやぞわぞわと体に鳥肌が立ち、反射的に
(…なら、何だ?)
と思ってしまう。と同時に“鑑定”が…
「XXX」
出来ない、と。
悪寒が頭まで痺れさせ、思わずシェルターに身をかがめる。
暗い視界の中「XXX」の表示だけが見え、そして消える。既視感。初めて使った時以来の視界。
あれ以来鑑定が出来ないモノは無かった。煙でも蚊柱でも鑑定された。この表示はありえない。
幽霊、と前世の記憶から一つの言葉が呼び起されていた。ありえない…かもしれない。
あの時も原因はわからなかった。一時的なことかもしれない、ただの幻かもしれない。
混乱する頭はそう仮定して、未知のそれの確認を催促した。
屈んだ頭を上げ、もう一度それを観ようと視線を恐る恐る外へ向け、
…変わらぬ夜の光が唯々草木を照らしていた。
ふっと、頭のしびれが抜け脱力すると同時に、いつの間にか止めていた息が抜ける。
悪寒が抜ける。つい先程も感じたそれに体がだるくなり、頭が垂れる。
…何なんだ
覚めたと思った夢が続いていたかのような気分の悪さに、心の中で悪態をつく。
ふーっと息を抜き、その残滓を探そうと再び頭を上げ
ひたり、と、うなじのあたりに冷たさを感じ
ぞわり、と、体が、思考が、硬直する
…数瞬。しかし時間が引き延ばされたような長い感覚。
何が、と思ったかもしれない。
死んだ、と思ったかもしれない。
瞬きをするように…視界が閉じる。
「……ック……して……しゅう…」
どこで…聞こえ?…気が…
昨年は打ち切り失礼しました。とりあえず前話に付け足しや改編させるための免罪符としてこの話を書いてます。いつのまにか消えている文章が…みたいな、ホラー的なことにはしない予定です。
とりあえずこの一年、児童誘拐の事件に怯えたり、台風被害が甚大だったり、デススト3週したり、コロナに怯えたり怯えなかったりして教養を得てました。リアルサバイバル?ディスカバっただけです。
今年中は物語の骨格矯正がメインです。情景追加や話数の変更、補強的な意味合いの閑話を挿入する程度と思って下さい。
また、評価やお気に入り等して頂き、ありがとうございます。やる気や向上心の励みになり、区切りのこの話まで漕ぎ着けました。
引き続き、この話を少しづつ紡いでいきます。




