13.0話 氷解
――熊の巨体が緩い放物線を描いて、飛ばされている。
在り得ないその光景を、自分はただ目で追う。
飛ばされた巨体は、地面に這うように着地した。
…熊はそのまま動かなった。頭の位置に少し違和感がある。
目でそれをただ追っていた。
(……魔……法?…)
そう考えれたのは、少し経ってから。
それでも思考はまだ戻らない。
ガサッ
近くで草木の擦れる音がして覚醒する。
音がした方向を見る。
「…エレス!?」
そこにはエレスが倒れていた。
急いで駆け寄り、その華奢な体を抱き起こす。傷が無いか体を見る。
ぼやけていても邪魔な“鑑定”の表示は“終了”する。それと同時に“増幅”も終了した。
景色がいつもの速度に戻る。
腕を重点的にみる。外傷はない。
顔に耳を当てる。小さく息はしている。生きている。
しかし顔色は青くなり、こけた頬も相まって、こと切れているかのようにも見える。
急いでエレスを担ぐ。
その痩せ細った華奢な体は、やはり軽い。
森の出口まで駆ける。…明日は足が痛むはずだ。
――――
暗い森を抜ける。
馬もおとなしく、その足を折っていた。
川の近くまで行きエレスを優しく降ろし、仰向けに寝かせる。
枝と薬草を森から採ってきて、火を焚き、薬草を煎じた。
冷ましたそれを、一滴ずつエレスの口に含ませていく。
効果があるかはわからないかった。
しかし、何もせず祈っていることは出来なかった。
それでも長い時間エレスは目覚めない。
…既に夜になって久しくなり、星空も爛々と主張をする。
だいぶ冷えてきた。
エレスの体が冷えないように、毛皮を体にかけてある。
焚火の光が揺れる顔は、穏やかに寝てるように思える。
自分は隣に座り、そんな顔を覆うようにして見ていた。
「…………ん…」
エレスからそんな声が聞こえた。
「……エレス?」
小声でやさしく話しかける。
エレスはゆっくりと目を開いていく。そして
「………トーラ…?」
小さな声でそう口を開いた。
「……気が付いてよかった…」
そう言ったと同時にようやく安心する。
「………わたし、どうして……」
「……エレスのおかげで、助かった…」
自分のあの考えにはリスクがあった。
大見得を切ったが、囮役も木登りもどういう結果になっただろうか。
「…うん……?…トーラ?なんで泣いてるの?」
既に自分の目は霞みかけけていた。少し声も震えている。
「……エレスが生きててくれたから…だ」
そう言って涙を拭う。
せめて笑顔を見せてあげたかった。無理矢理笑顔を作る。
「…フフッ、変な顔ー」
「はっ…ははっ…」
あのエレスから、軽口が聞けた。ならば大丈夫だと思った。
「……スープ食べる?」
自分が堪えきれなくなる前に、そうしたかった。
「…うん!」
エレスはそう言って、笑顔で応えてくれた。
「…わかった、待ってて」
そういってエレスの頭を軽く撫でる。
自分の気持ちが落ち着いていたところで、スープを作ろうと涙をまた拭い、腰を浮かせる。
そんなとき
「…トーラってさ」
「…ん?」
エレスが自分を呼ぶ。
「…お母さんだよね?」
…この子はまた
応えに窮することを聞いてくる。
ただし今回は、すんなりとその言葉は出てきた。
「…ありがとう、エレス」
そう感謝を伝えるだけでいい。そう思った。
……すみません、絞首台はこっちですか?
…度々すまん、エレス。熊は厳しかったんや。
運動量計算したらどえらい数字になってもうて。
それでもな、クリティカル判定にして少し減らしたんやで。
でも明るいうちに目覚めさせる予定が深夜になってしもうて…
結果オーライ!!(ガタンッ)←絞首台
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