12.0話 魔法
馬とエレスを残し、静かな森の中に入った。
エレスには自分が出てくるまで入ってこないようにと言いいつけた。
「うん!」と笑顔で返してきた。
それは素直に嬉しかった。
…少し気分が浮ついている。駄目だ。森に集中しなくては。
目を閉じて大きく深呼吸を3回する。
これから何をするかを確認する。周辺の安全確認と、小動物の捕獲。
そうだ。これからを考えれば、この狩りも無事にこなさなくては。
目を開く、森の景色に集中する。
耳を森の音に向ける。
臭いを風を空気を感じる。
森に集中する。
――そうして森の中を進み始めた。
―――――
野兎を一匹狩り、一旦馬の場所まで戻る。
エレスはまた穏やかに寝ていた。
自然と顔がゆるんでしまう。
陽の高さを確認する。まだ陽が傾くまでは時間があった。
獲物の血抜きを行い、手と白い布についた血を洗い、もう一度、森の中に入った。
―――――
森の中を進む途中、風向きが真逆に変わり、少し強く吹いた。
体に草木が少し当たる。
(嫌な風だ)
風は獲物のにおいを運ぶ以外にも、自分のにおいも運んでしまう。
それは危険なことであった。
風下を重視して危険が無いか見ていた。風上を感じて獲物を探していた。
だが、獲物ならば足跡を見ればいい。そう思い続行した。
景色に注意して歩く。足跡を探す。音を聞く。風に獣のにおいはしない。
進む。
そうしていると小動物の足跡を見つける。
足跡を追いかける。いつもより慎重に。
そして景色を見る。
――成体の熊が、そこにいた。
慎重に止まろうとするが、内心は気が気でない。
枯れ枝を踏んでしまう。音が出る。
…よかったこちらを向かない
注視して後ろへ下がり始める。動悸がはやる。
風が後ろからまた吹く。
冷や汗が出始める。後ろに下がり続ける。
熊がこちらを向いた。それでも尚下がり続ける。
こちらを睨んでいる。…下がり続ける。
動き出す。…下がり続ける。
走り出してくる。止まる気配はない。
“増幅”!!
(逃げる!!あれはダメだ!!)
背を向けて走り出す!
増幅をかけて足を速く!景色を認識して最短ルートで駆けだす!
増幅であれば逃げ切れる!
それは過去にも学んでいた。それは油断かもしれないが、大きな強みだった。
ひたすらに駆ける、後ろを振り向く、徐々に熊とは差が出来始めている。
前を向く。森の中で見慣れぬものが見えてくる。
「エレス?!!」
エレスがこちらを向く。
笑顔で「トーラ!」とこちらを見るが、すぐに不思議そうな顔をする。
(どうして?!?!)
こちらは必死であるのに、場違いな“それ”から、“これから”を判断する。
エレスに向かって走る。そして直前で速度を落とし、エレスの腹を左肩に背負いあげる。軽い。
また走りだす。
「っ!?――トーラ?あれ何?」
熊を見る、だいぶ差が詰まった。
「熊だよ!!」
やはりエレスは認識していない。「熊?あれが?!」と聞いてくる。
何故森に入ったか、怒っても仕方がない。
必死すぎて、そんなことを考えている余裕もない。
走りながら、生き残る術を考える。
後ろの熊を見る、少しだけ差はできた。
どれくらい走れる?エレスを抱えて?
木に登る?エレスをおぶってから?
自分もエレスも生き残れるように、頭の中の算盤をはじく。走りながら。
また振り返る。
先程よりは少しずつだが差は出来ている。でもこのままでは逃げきれない。
そして結論を出す。
「エレス!走れる?!」
「うん!」
「降ろしたら馬の方・・・あっち!に走って!!…熊は自分が何とかするから!!」
エレスの抱えている手を変えて、見えるように指を指して、そう支持する。
少し走り難い、速度が落ちる。
「え!?トーラは?!」
続いた声で肯定したとみて、すぐ手を持ち換えて速度を戻す。
少しエレスの声が裏返っていた。抱えているからだろう。
「また後で会える!!約束する!!」
そう言って決断を促す。
「え?」という声が聞こえたかどうか。それは肺が押された音かもしれない。
暫く走りながらその返事を待つ。
しかし、そろそろ足の状態も分水嶺だと感じ始めた。これ以上は難しい。
「エレス!わかった?!!」と聞いてみる。
「…うん」答えであろう声を聞いた。
「降ろすよ!!」
そう言って速度を落とし、エレスを降ろす。少し加速度が残るが、エレスを両腕で抑えて止める。
そうして降りたエレスに「さあ!!走って!!」と指示して、逆に位置取るため2、3歩動いて熊に向かう。
エレスが逃げ切れれば、それで勝ちだ。
自分は増幅を使えば、囮役をしてから木に登るなりすればいい。
…そう考えたつもりだった。
…エレスは動かなかった、こちらを向いていた。
「エレス!!さぁ!」声を出して促す。熊は既に近い。
しかし、エレスはにこやかな笑顔を見せる。
――何故だ、そうじゃない。
「トーラは怒らないよね?」
エレスの足が、向かってくる熊に揃えられる。――そうじゃない!
「エレス!!」
エレスが両手をさしだす。やめてくれ!そうじゃない!!
せめて、“増幅”したまま突き飛ばしてでもエレスを守ろうと藻掻く。
熊はもう視界に大きく映っている。行動に移そうとしたその時、
――エレスの手の前に光が集まりだした。
“何だこれは?”
増幅中にもかかわらず、瞬く間にその光は、円と線を描いていく。
見たことのあるような文字も刻まれていく。
やがて光が光を隠して一層光り輝きだす。それは熊に向かい放たれ、
その巨体が“飛ばされた”
熊―クマー
時速40kmですってよ、奥さん。
臨海距離が問題かなー、せめて25m欲しいクマ。
とりあえず、このまま書き連ねていきます。
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