7.0話 少女
それは痛々しい少女だった。
毛皮を巻いていない所に見えるその細い体には、至る所に痛々しいあざがあり、体も痩せ、頬もこけている。
背は自分より少し低いが、歳は近いと思う。
ブロンドの髪はぼさぼさで長い。
最初見つけた時は、ただの空腹だろうと思った。
しかし体の土を払い落とすとその跡が目に付くようになった。
虐待か、奴隷か、難民か。
考えられることはあったが、何にせよ森からは担ぎ出すことにした。
しかし、である。空腹を満たしたところで、この少女はこの何もない所では死ぬであろう。
狩りも出来ないであろうし、果実も見分けることが出来ないだろうことは想像できる。
保護して山の集落まで向かう事も出来るであろうが、行動速度は落ち、物資も尽きかねない。
幸い今まで狩りをして節約しているが、二人分の食料となると牛歩に近い物となる。
どうするべきか考えていた。
集落の人らを思えば、無事に交易をすることが優先だ。
しかし、助けている以上、見殺し、もしくは殺すなんてことは到底無理だ。
そこまでこの時代に染まり切れていない。
(前世でもそんなことあったなぁ)と思いだした。あの時は、冷え込んでいた深夜に見かけた徘徊老人である。対応していたら朝方になってしまった。まぁここには警察なんていないが。
そんなことを考えていると、馬が見えてきた。
少女の考えも何かあるかもしれない。まずは介抱することを始めた。
色々と考え、スープや果実を用意した。
神子や集落の人らから教わった、体にいい薬草を摘んでおいた。
やがて少女が気が付いた。
心的外傷を思って、少し離れた対応をとった。
少女はスープを飲んだ。
そうして今に至る。
スープは既に空になり、振り返ると少女は果実を食べていた。
目が合う。
食べるのを止めてしまった。
「あー大丈夫だから、食べていいから」
そうやさしく言って促した。
暫くこちらを見る。
また俯き、ゆっくりとかじり始めた。
「そうそう、食べていいから。少しだけ聞いてもいいかな?」
聞かなければ始まらない。
少女と向き合うように座り直し、切り出し始める。
少女は果実をゆっくりと咀嚼し、呑み込む。そして口を開く。
「……なにを?」
やや高く、細い声であるが、発見当初よりはしっかりしている。
肯定と受け取り聞いていく。
「まずは、…どうしてこんなところに来たのかな?」
少しの間があく。
「……わからない」
困った…。わからないって何だ?
「そうか」とだけ返し考えに窮した。
少女は俯いたまま、果実をゆっくりとかじり、咀嚼し、呑み込む。少しのどが鳴った。
「…家はどこに?」
やはり間が開く。
「………わからない」
先程より小さい声で答えてくる。
「どこかに行こうとしてた?」
「……………わからない」
さらに小さい声になった。
家も行先もわからないならどうする?
両親、集落などあまり踏み込んで聞いても良くない気がする。
しかし聞かなければどうにもならない。
2回果実をかじり、呑み込んだあたりで聞いてみる。
「…言い難ければ黙っててもいいんだけど…これまでだれかと一緒にいた?」
あらかじめ、そう断って聞いてみる。
「………いた…」
「両親?」
「…?……リョウシン?」
聞いたことのない単語のように聞き返してくる。
「父親や母親のことだけど…」
「……知らない…わからない……ごめんなさい…」
その声は既に聞き取りにくい。その謝意を聞いて自分は反省した。
もう少し聞いてみるべきだろうか?この辺にしておくべきだろうか?
「その誰かって…?」
とりあえず、手掛かりといえそうなのはこれしかない。聞くことにした。
しかし
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい生きてきてごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
…突然始まったその闇に、自分は呆気に取られる。
繰り返される謝罪が、あふれ出るように少女の口から紡がれていく。
こちらを一切見ず、俯いたまま。
何を言える?何が届く?そんなことを考えるが、思い付かない。
それでも届くように思っていることを伝える。
「大丈夫だから!自分は君を殴ることはしない!」
「嫌だ!!ごめんなさい!ごめんなさい!・・・・」
こちらに顔を向けて拒絶する。しかし、その目は焦点があっていない。
あふれ出る闇は止まないどころか、はっきりした声で聞こえるようになった。
何をどうすればいい?このまま何もせずにしていれば収まるだろうか?
そうじゃないだろ。
意を決して少女のもとに近寄る。
近づくにつれて、それは叫び声に近くなる。
少し後悔する。馬も少し嘶く。
しかし、それでも尚近づき、少女と目線を揃える。
ゆっくりと右手を動かす。
少女はぎゅっと目を閉じ、息を呑み、謝罪の言葉が途切れる。
手を少女の頭に乗せる。少女は強張ったままだ。
…優しく頭を撫でる。それでも駄目だ。
「大丈夫だから」
優しく声に出す。少し少女は震える。強張りは取れない。
根気よく続ける。
長い時間そうしていると、肩の力がほんの少しだけ抜けた。
「君を傷つけはしないから」
害意は無い。その事を優しく口に出す。
優しく頭を撫で続ける。
やがて少女が、少しだけ薄目を開く。こちらを覗く。
「………本当に……?」
震えた声でそう聞いてくる。
「本当に」と言って目線を合わせ、あやすように笑顔を見せてあげる。
そうして暫くすると「………ごめんなさい」と小さく言ってきた。俯いてしまう。
こちらも「ごめん聞きすぎた」とやさしく返した。
少女はずっと俯いている。憔悴している様子でもある。
その頭から手を離し、ゆっくりとそこから離れた。
気付けば周りは薄暗くなってきていた。
「…今日はもう休もうか?」
そう声をかけると、少女はこくりと頷いた。
ん~
とりあえず事なきを得ておかないと…
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