6.0話 旅程
集落を出て10日が過ぎた。
馬を引きながら大きな川沿いを右手に川上に向かって歩く。
しかし道というものは無い。
馬車はそういった点もあり困難であることは、山の集落の商人ジルから聞いていた。
いずれ作ろうという計画もあるがお互い集落である。そこまでの人員はあまり割けない。
また、山の集落へは川沿いに東の方向へ歩けばいいと聞いていた。
馬は増産した麦と交換してくれた。ジルさんも祝福を願ってくれた。
今のところ順調であった。川沿いということで水は確保できる。
少し歩けば森があり、小動物を狩ることも出来るし、食べれる植物もあった。
背中に背負った自分用の荷物も、1日であれば耐えられた。
しかしである。
10日間ひとりで黙々と歩くのは結構つらい。
ジルさんを素直に尊敬した。
やがてそのおとなしい馬に対して、自分の考えを話しかけるようになっていた。
『馬で麦の刈り入れって何か出来るかな?例えば――』
『――布じゃなくて服作りたいんだよねぇ、針がないしなぁ』
『――せめて胡椒が欲しいような。こっちでも高級品かな?』
などと生前の言葉でつぶやき始めている。
転生してから、いろいろ考えて、いろいろ作っても、伏せている部分はまだ多い。
物言わぬ馬はその思いを語るのには格好の的であった。
そんな自惚れた、迷惑な同行人に連れられて、よく馬もついてきてくれている。
そういう自覚はあった。
日が暮れる前の時間になる。
『今日はこのあたりにするか。んじゃ、ちょっと待ってろ?荷物降ろすからな。』
せめてすぐに重荷は解いてやることにしていた。
そうして楽になった馬の手綱を、木に括り付けておく。
『それじゃ休んでいろよ、お疲れさん』
そう馬に言って、弓を持ち、森の中へ狩りに入っていく。
狩れる日は狩ることにしている。
一昨日狩った肉も昨日で終わりになったところだ。
貰っている干し肉や干し野菜はあくまでも非常食と思っていた。
危険な動物も、向かってくる一匹の狼であれば“増幅”を使って倒せた。
若い熊であれば少し苦戦するが、撃退は可能だ。
しかしそれ以上は無理だ。
大きな熊の肉には、いくら叩きつけてもそれは届かないだろう。
群れの狼ではこちらが消耗してしまう。
それでも“増幅”で全力疾走すれば逃げきれることはできる。
だから、まず森の様子を観察する。
地面、草木、空気、風向き、臭い、音。
父オゥディから教わった、狩りの術を駆使して森を進む。
幸い、付近には危険な痕跡は無い。
そうしてしばらく進む、静かだ。
今日は無理かな?と思っているところで目の前の土に違和感を覚える。近寄る。
人の足跡と思しき跡が見える。
(ん?何だ?誰か近くにいるか?)
ジルの話ではこの付近には集落は無い。だが渡り歩く人もいなくもない。
足跡を確認する。最近付けられたものであり、左へ向かっている。
少し慎重にその足を追っていく。
極力、音は出さない。弓と矢筒はそれぞれ両手で抑えている。
足跡は覚束ない様子だ。いくらか草木をひっかいて、音を出しているはずだ。
(弱っている?でも何で森に?)
森に来るということは比較的危険だ。そう教わったし、実際そうである。
それでもこの人は入ってきている。
少し足を速める。あまりよくない状況のようだ。
この森の獣に、人の肉の味を覚えられると、この先困る。
その人のにおいが微かにし始める程になった時。
「ガサッ」
と遠くで草木が揺れる音がした。獣のにおいは強くはしてない。
さらに足を速めてそこへ向かう。
足跡を追う。
やがて草木の陰に足が見える。倒れているようだ。
周りの空気を確認する。周辺はやはり静かだ。
そう確認するとその人へ駆け寄る。俯せに倒れていた。
ブロンドの髪は長い、女性のようだ。
「大丈夫か!?」
女性を起こし、土だらけになったその頬をぺしぺしと軽く叩き、「おい、…おい!」と反応を見る。そうしていると、目を開け始めた。
よかった…、生きている。女性は薄く口を開け
「……だれ…?」
か細い声で聞いてきた。
しかしそれには答えず「どうしたんだ?大丈夫か?」と聞き返した。
少し間をおいて、息を吸い。
「…おなか……すいた…」
微かな声でそう言ってまた眼を閉じた。
――――
その女性を担いで一旦、馬のいる場所まで戻る。
女性は気を失っているのか、寝息を立てている。
その女性を、優しく草原の上に寝かせる。
そして繋いでいた馬に『見張っててもらっていい?』と言い、また森の中に入り枯れ木を集め始める。見つけた果実をとり、薬草も念のため摘んでいく。
そうして森から戻ってきた。
次いで竈用の石を川辺から拾い、火をおこし始める。
ある程度の火になったらそこを離れ、小さいスープ用の土器に川の水を組んで火にかける。干し野菜を千切り、干し肉も細かく切って煮立った土器に入れていく。そして岩塩と薬草を適量入れる。
ほのかにそのスープのにおいがし始めて、土器を竈から降ろした時、後ろでカサッっと音がした。
女性が起きたのだろう。土器から木の椀に移して上半身だけ振り返り、やさしく聞く。
「…気付いた?スープ出来てるけど、飲める?」
女性は既に、半身を起こしていた。
暫く待つ。
女性は動かない。
少し時間がたつ
「…それとも干し肉かな?空腹のときはおススメしないんだけど…」
また待つ。
今度はゆっくりと女性はこちらに向けて動きだした。
よろよろと這うような速度でやがて両手で木の椀を掴む、こちらは離す。
女性は受け取ったスープを、ゆっくりと口に近づけて、飲み始めてくれた。
「おかわりあるからね」
そう言って自分は干し肉をかじり始めた。
様子を見る。ゆっくりと飲んでいる。むせてしまう様子はない。
―――その女性、いや少女には、無数のあざがあった。
いきなり10日後でごめんなさい。
たぶんトラブル起きるとヤヴァイので。
旅程20日ってどうなんでしょう? 2kx8hx20d=360km程だと計算しますが…
ちょっと遠いですよね…物資で死ねそうな気がします。
やたらとキザなのは、念のため、次話で説明します。




