表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遊びの時間

作者: 柊 依央菜

※注意※この作品は、ホラーです。



「 ななちゃん、もう少しで帰るわよ 」


 お母さんが私に話しかけてくる。今日私は、お母さん、お父さんと一緒に遊園地に遊びに来ている。


「 おぎゃー、おぎゃー 」


 そうだ、弟もいたんだった。まだ赤ん坊の弟は、泣いてばかりだ。お母さんとお父さんは、弟ばかり構う。私だって泣きたい時はあるけど、お姉ちゃんだから我慢してるのに。


「 良い子、良い子。あなた、オムツ替えないといけないかも 」

「 トイレはあっちだったかな⋯⋯ 」


 お母さんとお父さんがトイレに向かっている。私はまだ小学3年生だよ。いくら普段しっかりしてるからって、置いていったら駄目だよ。


 私は、たまには両親を困らしてやろうと、その場を離れた。いざとなったら、遊園地の人に迷子ですって言えば大丈夫。夕方前の賑やかな遊園地を走る。フリーパスっていうのを、手につけているから、乗り物に乗り放題だ。身長制限があるのは駄目だけど。


「 ねぇ、君。1人なの? 」


 後ろから話しかけられた。まずい、遊園地の人に見つかったのかも。私はゆっくりと声の方に振り向いた。


「 良かったら、一緒に遊ぼうよ 」


 そこにいたのは、ピエロ服の男の子だった。私より少しだけ年上に見える、金髪の青い瞳の男の子。顔はピエロのメイクをしているわけではなく、右頰に黄色い星のペイントだけしている。

 お人形さんのようだ、学校の男子とは違う。綺麗とか、美しいって、こういう顔の事を言うんだなって感じるような男の子。


「 あなたも1人なの? お母さんとお父さんは? 」

「 さあ、知らないよ。それより、一緒に遊ぼうよ 」


 私は、少し考えた後、頷いた。


「 良いよ。1人で遊ぶより2人の方が楽しいよね 」


 私がそういうと、男の子はにっこりと微笑んだ。そして、私に近づいて来て、手を差し出してくる。私はその手を取った。それから、色々なアトラクションを2人で楽しんだ。

 しばらく楽しんだ後、男の子は私を見て言った。

 

「 来て、面白いところに連れて行ってあげる 」


 ピエロの男の子は、私の片手を握ったまま、走り出す。私は、必死に走ってついて行った。しばらくして、大きなテントにたどり着いた。男の子は、その中に入っていく。私も手を繋いでいるので、中に入って行くしかない。

 中を見て、ここはサーカスのテントである事がわかった。客席とステージがあり。大きなボールや、フラフープなどが置いてある。だが、観客は1人もいない。


「 サーカス、やってないよ。お客さんがいないもん 」

「 サーカスに客は要らないよ 」

「 要るよ。収入がないと経営出来ないんだから 」


 私の言葉に男の子は、首を傾げた。


「 収入がなくても、サーカスは開けるよ 」


 そう言うと、男の子は、一番前の席まで行って私を座らせ、自分も隣に座る。

 私は不思議に思いながらも、先程から気になっていた事を男の子に聞いた。


「 ねぇ、あなたの名前を聞いてなかったから、教えて欲しいな。私は、なな だよ 」

「 なな、僕の名前はクラウン。宜しくね 」

「 クラウン。日本語上手いね 」

「 そう。日本語上手いんだ、僕 」

「 どこに住んでるの? 」

「 ⋯⋯僕の家 」


 そんな会話をしていると、だんだんとテント内が暗くなってくる。そして、ステージの上がライトアップされた。

 ステージの上には、30センチくらいの猿の人形がいた。体は人形らしく可愛いが、目が大きすぎてちょっと怖い。


『 本日は、我がサーカスをご覧に来て頂きありがとうございます 』


 猿の人形が喋っている。どこからか音声が流れているのかも知れない。


『 まずは、うさぎさんの玉乗りでございます 』


 猿の人形は司会のようだ。ステージ横からうさぎの人形が出てきて大玉に乗っている。どうやって動いているのかは、わからなかったが、私は拍手をした。うさぎの人形はすごく可愛らしい。


 その後も、くまの人形の綱渡りや、ぞうの人形のフラフープ投げなど、楽しい時間が過ぎた。

 途中からクラウンもステージ上でジャグリングをしていて、とても上手かった。


『 本日はありがとうございました 』


 猿の人形が締めの言葉を言うと、またテント内が暗くなる。再び明かりがつくと、私以外誰もいなかった。クラウンもいない。


 私は怖くなって、外に出た。遊園地は、夕日に照らされている。周りには人が一人もいない。私は焦って、走りながら他の人を探した。




 走って、走って、でも誰もいない。アトラクションにも、レストランやギフトショップにも誰もいない。私はいつの間にかたどり着いたメリーゴーランドの前でしゃがみこんだ。


「 ふぇっ⋯⋯ぐすっ。お母さん、お父さん 」


 私は泣いた。遊園地の人も見つからないのでは、どうやって家族に見つけて貰えば良いのかわからない。


「 ごめんね。少し、驚かせようと思っただけなんだ 」

「 クラウンッ!! 」


 私は、後ろから聞こえた声に振り向いた。そこには、ピエロ姿の綺麗な男の子が笑っていた。


「 泣いていたんだね。僕のせいだ。ごめんね 」

「 誰もいなくて、不安になったの 」

「 大丈夫、一緒にメリーゴーランドに乗ろうよ 」


 クラウンは、私の手をとり無人のメリーゴーランドに乗り込んだ。白馬に私を前に乗せ、クラウンはその後ろにとび乗る。

 そして、遊園地のスタッフさんもいないのに、メリーゴーランドは動き出す。


「 楽しいね。なな⋯⋯ 」

「 うん、でもね。もう帰らないと、お母さん達が心配する 」

「 帰ったら僕がななを心配するよ 」

「 でも、ここは、私の家じゃないもん⋯⋯ 」


 後ろからクラウンが私を抱きしめてくる。表情が見えない。なんだかちょっと怖い。クラウンにも、帰る場所があるはずなのに、帰らないと家族が心配するよ。


「 ねぇ、じゃあ。最後にあれに一緒に乗ってよ。あれに乗ったら帰って良いから 」


 クラウンが指を指したのは大きな観覧車だった。私は小さく頷く。


「 本当にあれが最後だよ 」

「 うん、だって、ななは家に帰らないといけないからね 」


 二人で無人の遊園地を歩き、観覧車に向かう。その間もクラウンは私の手を離さなかった。

 観覧車は、一番下のゴンドラの一つだけ扉が開いていて、私達が乗り込むと勝手に閉まった。そして、ゆっくりと動き出す。


「 ねぇ、もしもだよ 」


 隣に座るクラウンが話しかけてくる。私は彼の顔を見た。美しい顔が悲しそうに笑っている。


「 もしも、帰るところがなかったら、まだ一緒に遊んでくれる? 」

「 ⋯⋯えっ? 」


 観覧車が回る。ゆっくり、ゆっくり回る。私達が乗り込んだゴンドラが上にあがって行く。



 私は外の景色を見た。

 どこまでも、続いている。

 遠くまで、遠くまで、続いている。

 地平線の彼方まで、遊園地が続いている。

 色々なアトラクションや、カラフルなお店、楽しい音楽が続いている。

 終わりが見えない。

 私の帰るところがない。



 私は、クラウンを見た。

 彼は楽しそうに笑っている。



「 これで、まだ遊べるね 」


 彼は嬉しそうに言った。

 


 







お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あえて恐怖の遊園地ではなく、楽しい遊園地に閉じ込めたのが良い。ホラー感を出さずに、最後まで遊園地ネタをやりきった構成は引き込まれるものがあります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ