遊びの時間
※注意※この作品は、ホラーです。
「 ななちゃん、もう少しで帰るわよ 」
お母さんが私に話しかけてくる。今日私は、お母さん、お父さんと一緒に遊園地に遊びに来ている。
「 おぎゃー、おぎゃー 」
そうだ、弟もいたんだった。まだ赤ん坊の弟は、泣いてばかりだ。お母さんとお父さんは、弟ばかり構う。私だって泣きたい時はあるけど、お姉ちゃんだから我慢してるのに。
「 良い子、良い子。あなた、オムツ替えないといけないかも 」
「 トイレはあっちだったかな⋯⋯ 」
お母さんとお父さんがトイレに向かっている。私はまだ小学3年生だよ。いくら普段しっかりしてるからって、置いていったら駄目だよ。
私は、たまには両親を困らしてやろうと、その場を離れた。いざとなったら、遊園地の人に迷子ですって言えば大丈夫。夕方前の賑やかな遊園地を走る。フリーパスっていうのを、手につけているから、乗り物に乗り放題だ。身長制限があるのは駄目だけど。
「 ねぇ、君。1人なの? 」
後ろから話しかけられた。まずい、遊園地の人に見つかったのかも。私はゆっくりと声の方に振り向いた。
「 良かったら、一緒に遊ぼうよ 」
そこにいたのは、ピエロ服の男の子だった。私より少しだけ年上に見える、金髪の青い瞳の男の子。顔はピエロのメイクをしているわけではなく、右頰に黄色い星のペイントだけしている。
お人形さんのようだ、学校の男子とは違う。綺麗とか、美しいって、こういう顔の事を言うんだなって感じるような男の子。
「 あなたも1人なの? お母さんとお父さんは? 」
「 さあ、知らないよ。それより、一緒に遊ぼうよ 」
私は、少し考えた後、頷いた。
「 良いよ。1人で遊ぶより2人の方が楽しいよね 」
私がそういうと、男の子はにっこりと微笑んだ。そして、私に近づいて来て、手を差し出してくる。私はその手を取った。それから、色々なアトラクションを2人で楽しんだ。
しばらく楽しんだ後、男の子は私を見て言った。
「 来て、面白いところに連れて行ってあげる 」
ピエロの男の子は、私の片手を握ったまま、走り出す。私は、必死に走ってついて行った。しばらくして、大きなテントにたどり着いた。男の子は、その中に入っていく。私も手を繋いでいるので、中に入って行くしかない。
中を見て、ここはサーカスのテントである事がわかった。客席とステージがあり。大きなボールや、フラフープなどが置いてある。だが、観客は1人もいない。
「 サーカス、やってないよ。お客さんがいないもん 」
「 サーカスに客は要らないよ 」
「 要るよ。収入がないと経営出来ないんだから 」
私の言葉に男の子は、首を傾げた。
「 収入がなくても、サーカスは開けるよ 」
そう言うと、男の子は、一番前の席まで行って私を座らせ、自分も隣に座る。
私は不思議に思いながらも、先程から気になっていた事を男の子に聞いた。
「 ねぇ、あなたの名前を聞いてなかったから、教えて欲しいな。私は、なな だよ 」
「 なな、僕の名前はクラウン。宜しくね 」
「 クラウン。日本語上手いね 」
「 そう。日本語上手いんだ、僕 」
「 どこに住んでるの? 」
「 ⋯⋯僕の家 」
そんな会話をしていると、だんだんとテント内が暗くなってくる。そして、ステージの上がライトアップされた。
ステージの上には、30センチくらいの猿の人形がいた。体は人形らしく可愛いが、目が大きすぎてちょっと怖い。
『 本日は、我がサーカスをご覧に来て頂きありがとうございます 』
猿の人形が喋っている。どこからか音声が流れているのかも知れない。
『 まずは、うさぎさんの玉乗りでございます 』
猿の人形は司会のようだ。ステージ横からうさぎの人形が出てきて大玉に乗っている。どうやって動いているのかは、わからなかったが、私は拍手をした。うさぎの人形はすごく可愛らしい。
その後も、くまの人形の綱渡りや、ぞうの人形のフラフープ投げなど、楽しい時間が過ぎた。
途中からクラウンもステージ上でジャグリングをしていて、とても上手かった。
『 本日はありがとうございました 』
猿の人形が締めの言葉を言うと、またテント内が暗くなる。再び明かりがつくと、私以外誰もいなかった。クラウンもいない。
私は怖くなって、外に出た。遊園地は、夕日に照らされている。周りには人が一人もいない。私は焦って、走りながら他の人を探した。
走って、走って、でも誰もいない。アトラクションにも、レストランやギフトショップにも誰もいない。私はいつの間にかたどり着いたメリーゴーランドの前でしゃがみこんだ。
「 ふぇっ⋯⋯ぐすっ。お母さん、お父さん 」
私は泣いた。遊園地の人も見つからないのでは、どうやって家族に見つけて貰えば良いのかわからない。
「 ごめんね。少し、驚かせようと思っただけなんだ 」
「 クラウンッ!! 」
私は、後ろから聞こえた声に振り向いた。そこには、ピエロ姿の綺麗な男の子が笑っていた。
「 泣いていたんだね。僕のせいだ。ごめんね 」
「 誰もいなくて、不安になったの 」
「 大丈夫、一緒にメリーゴーランドに乗ろうよ 」
クラウンは、私の手をとり無人のメリーゴーランドに乗り込んだ。白馬に私を前に乗せ、クラウンはその後ろにとび乗る。
そして、遊園地のスタッフさんもいないのに、メリーゴーランドは動き出す。
「 楽しいね。なな⋯⋯ 」
「 うん、でもね。もう帰らないと、お母さん達が心配する 」
「 帰ったら僕がななを心配するよ 」
「 でも、ここは、私の家じゃないもん⋯⋯ 」
後ろからクラウンが私を抱きしめてくる。表情が見えない。なんだかちょっと怖い。クラウンにも、帰る場所があるはずなのに、帰らないと家族が心配するよ。
「 ねぇ、じゃあ。最後にあれに一緒に乗ってよ。あれに乗ったら帰って良いから 」
クラウンが指を指したのは大きな観覧車だった。私は小さく頷く。
「 本当にあれが最後だよ 」
「 うん、だって、ななは家に帰らないといけないからね 」
二人で無人の遊園地を歩き、観覧車に向かう。その間もクラウンは私の手を離さなかった。
観覧車は、一番下のゴンドラの一つだけ扉が開いていて、私達が乗り込むと勝手に閉まった。そして、ゆっくりと動き出す。
「 ねぇ、もしもだよ 」
隣に座るクラウンが話しかけてくる。私は彼の顔を見た。美しい顔が悲しそうに笑っている。
「 もしも、帰るところがなかったら、まだ一緒に遊んでくれる? 」
「 ⋯⋯えっ? 」
観覧車が回る。ゆっくり、ゆっくり回る。私達が乗り込んだゴンドラが上にあがって行く。
私は外の景色を見た。
どこまでも、続いている。
遠くまで、遠くまで、続いている。
地平線の彼方まで、遊園地が続いている。
色々なアトラクションや、カラフルなお店、楽しい音楽が続いている。
終わりが見えない。
私の帰るところがない。
私は、クラウンを見た。
彼は楽しそうに笑っている。
「 これで、まだ遊べるね 」
彼は嬉しそうに言った。
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