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6話


 冒険者ギルドでマキナさんと別れたサヴァンは冒険者として初めての仕事である『メニー苔』の採取クエストを受けた。

 最初の仕事とあって意気揚々とやる気満々だったがギルドを後にしようとした時誰かの視線を感じてサヴァンは振り返った。


 (……? 誰かの視線を感じるんだけど、気のせいかな?)


 その視線はまるでこちらを値踏みするかのような陰湿な感じでまるで自分の体全体を舐めまわされているような

気持ちの悪い感覚を覚えたサヴァンは寒気に身を震わせた。


 「なんだこの気持ち悪い感覚は……」


 それ以上この場にいたくなかったサヴァンは足早にギルド内を後にした。

 するとその視線から逃げられたようで先ほど感じた寒気はすぐに消え失せる。

 あの視線の正体は何なのか今のサヴァンには知る由もないのでとりあえずクエスト攻略に頭を巡らすことにした。

 まず向かったのは【道具屋】だ。

 ギルド内にも簡易的な店舗が設けられ使用用途の多いアイテムが販売されているが他の道具屋や装備屋と比べると

若干ではあるが割高になっている。

 そのため特にランクの低い冒険者はギルド内の店舗を利用せず、それぞれの専門店を利用することが多い。

 

 (ってマキナさんは言ってたけど、ギルドの利益を考えたら教えていい事なのかな?)


 彼女の厚意に感謝をしつつも、目的の道具屋へと歩を進めた。

 ギルドから徒歩十分ほどの距離にある【ルブリナ道具店】、目的の道具屋に到着した。

 ポーションのような瓶を模った特徴的な看板が目立つ店構えだ。

 意を決して中に入ると古ぼけた陳列棚にはホコリを被った道具やポーションなどがあり

いかにも長い事営業していますといった雰囲気を醸し出していた。


 「あらいらっしゃい、これまたかわいいお客さんね」


 二十代前半の赤目茶髪のお姉さんがカウンター越しに椅子に座っているのが見えた。

 他に店員がいないためどうやら彼女がこの店の主であることは察しが付く。


 「あのー、冒険者用の道具一式を買いたいのですが……」


 「坊や見ない顔だけど、この店は初めてかい?」


 「ええさっき冒険者ギルドで登録を終えてこれからクエストに出かけるところなんですよ」


 「ふーん、そんな若さで冒険者を目指そうなんて珍しいね、なにか訳ありかい?

 まあこちとらうちの商品を買っていってくれるなら誰だって客だ、ちょっと待ってな」


 そう言いながら冒険者の必需品であるポーションや松明たいまつなど一通り必要なもの一式を見繕ってくれた。

 理由はわからないが何故か彼女の眼鏡にかなったようでかなりおまけしてもらえた。

 それでもかかったお金は20ゴルドと今のサヴァンにとっては決して安くはない出費だ。

 サヴァンは彼女にお礼を言うと店を後にした。


 いよいよ、目的の場所に向かうのだが目的地は洞窟だ。

 ラスタリカの町から徒歩で二時間ほどの距離にある場所に小さな洞窟がある。

 今回の目的であるメニー苔は苔という名前からして湿気を多く含んだ場所に自生することが多く

洞窟や沼地などジメジメした場所が採取ポイントとなることが多い。

 今回も例に漏れず近くの洞窟が目的の場所だ。


 整備された街道を道なりに進み途中何度か休憩を挟みながら目的地に到着した。

 道中何度か行商人の馬車とすれ違った以外は特になにも起こらなかった。

 どうやらラスタリカの衛兵が定期的に巡回しているらしく、モンスターや盗賊の類は

根こそぎ駆逐くちくされているようだった。


 目的地には鬱蒼うっそうと覆い茂る森がありその森を道なりに進むと洞窟の入り口が姿を現した。

 洞窟内は明かりがないため薄暗く先が見通せない。

 サヴァンは道具屋で購入した松明に火を付け、メニー苔採取のため洞窟に侵入した。


 洞窟内は予想通りジメジメとしており時折肌寒いような生暖かいような何とも表現し辛い風が肌を撫でまわす。

 地面は岩盤のように固い凹凸があり何とも歩くのが難しく、一度バランスを崩せば転倒してしまうほど足場が悪かった。

 いつモンスターが襲ってくるかもわからない状況で不安な気持ちに苛まれながらも周囲を確認し、確実に一歩ずつ前進していく。


 (焦るな、慎重に進めば大丈夫さ……多分)


 そんなことを考えながら進んでいると突然後ろからの衝撃に襲われる。


 「ぐあっ」


 たまらず声を上げてしまうもののその衝撃の正体は洞窟の天井にぶら下がっていた蝙蝠こうもりがぶつかってきたようなのだが

 その時に松明を落としてしまったようで、一時辺りの視界が闇に閉ざされる。

 慌てて松明を拾い上げ周囲の状況を確認しようとした刹那――。


 「ん? なんだこの壁みたいなの……」


 照らされた先には薄い青色の壁が目の前に現れる。

 どうやらそれは流動的に動いており形が定まっていない。

 その奇妙な壁を手で触ってみると柔らかくぐにゃりと形を変化させる。


 (なんか女の子のおっぱいみたいな感触だな……)


 サヴァンはまだ十歳なので女性経験などは皆無だが、女性の胸の柔らかさというのは知っていた。

 なぜなら名無し村にいた幼馴染のシェリルの母であるルナーによく抱きしめられ、彼女の谷間に埋もれていたからだ。

 怪訝に思いながらもわしわしとその壁の感触を確かめていたが壁の全容を確かめようと数歩下がった時にようやく気付いた。


 「うわあ、すすすスライムだったのか!!」


 そう彼が今まで揉んでいた柔らかい物の正体はスライムだった。

 突如として現れたモンスターに動揺しながらも腰に下げた短剣を引き抜き臨戦態勢を取る。

 どうやらスライムは睡眠状態だったためいきなり襲われずに済んだが、サヴァンが刺激したことで

目が覚めてしまい今はぴょんぴょんと跳ねながら威嚇している。

 ――スライム、それはこのマグナという世界の中でも最弱に位置付けされるモンスターであり

駆け出し冒険者が最初に倒すモンスターの筆頭でもあった。

 流動的な常に形を変える不定形の体は見る者に不快感を与え、素早い動きで相手を翻弄し

その動きからの突進攻撃は駆け出し冒険者にとっては脅威になり得る。

 だが総合的な能力は冒険者の方が優れているためよほどのことがない限り負けない相手でもあった。


 (うー、スライム揉んじゃったよ……でも意外とぽよぽよしてて気持ち良かったな……って僕……俺は何を考えてるんだ!!)


 そう、今はそんなことを考えている余裕はない。

 目の前には如何に最弱とはいえ敵意を持ったモンスターが対峙しているのだ。

 気を抜けばそれが命取りになり兼ねない。


 「っ! 来た!」


 いきなりスライムがうねうねと身体をうねらせながらこちらに移動してくる。

 そしてそこからサヴァンに向かって真正面に体当たりを仕掛ける。


 「あうっ」


 いきなりの攻撃に溜まらず被弾し僅かにダメージを負う。

 すかさず反撃を試みるものの素早く回避される。

 そして、そこから側面に回り込まれたと思ったら体に衝撃が走りまたしても被弾する。

 その後スライムの見事なまでのヒットアンドアウェイに苦戦を強いられ、気付けば瀕死の状態にまで追い込まれてしまう。


 (まずい、あと一発でも食らったら……しっ死ぬ)


 サヴァンの危機本能が死の予感を感じ取る。

 あと一発でも食らえば体力が無くなり死ぬだろう。

 スライムはこちらを嘲笑あざわらうかのようにうねうねと挑発してくるが、好機と思ったのか突然妙な動きをする。

 すると今までとは明らかに違うトリッキーな動きを織り交ぜサヴァンを撹乱してきたのだ。


 (どこだ? どこにいった!?)


 そう思った瞬間突然後ろからの衝撃に襲われ彼の視界が闇に閉ざされてしまった。

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