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5話


 ラスタリカ―――。

 中央大陸西側に位置する最大にして最古の冒険者ギルドがあり、マグナの中で五大冒険者ギルドとしても

その名を広く知られた中小都市、それがラスタリカであった。

 商業や工業といった技術は最先端をひた走ってはいないものの他の都市や大陸から運び込まれてくる物資の量は

大国の首都と比べても見劣りすることのない規模を誇っている。

 

 「ここから、僕……俺の冒険者物語が始まるんだ。

 くぅーーー、見てろよ絶対に名を上げて最強になってやるぞ!!」


 その意気込みや良し、だが……


 「どけ小僧、道のど真ん中でボーっと突っ立てんじゃねえよ!!」


 「うわあっ」


 ドスの利いた怒鳴り声を全身に浴びながらサヴァンの身体が宙に舞った。

 彼が突き飛ばされたことを理解したのは自分の尻が地面に着地するのと同時だった。

 打ち付けた尻をさすりながら立ち上がりホコリを払うと視線を上げる。

 そこには如何にもな風体をした三人組の冒険者の姿があった。

 総じて言えることは三人とも顔が厳つく悪人面然としたその顔を見ると

冒険者というよりは傭兵や盗賊という肩書の方がお似合いの三人だった。

 いきなりのことでキョドリりながら焦っていると―――。


 「はんっ、おめえみてえな小僧が何しに冒険者ギルドに来やがった。

 まさか冒険者になるとかほざくんじゃねえだろうなあ、ええ?」


 「ははははは兄貴、あんましいじめてやらねえ方がいいじゃないんすか?」


 「……」


 「ふん、ムカつくんだよどうせ冒険者になって有名になるんだとか息巻いて田舎から出て来たんだろうよ。

 田舎者はいいよなあ~冒険者がどれだけ大変か知らねぇからな。 まあ知ってからじゃ遅ぇけどな、グハハハハ!」


 大柄な男がサヴァンに絡んでいるのを三下風の男がいさめるも大した効果はなく悪態を付く。

 もう一人は我関せずを貫いており罵声を浴びせるでもなく、仲間の行動をたしなめるでもない。

 そうこうしていると沈黙を貫いていた男が我先にと行ってしまったため残りの二人もそれに倣い冒険者ギルドへと入っていった。

 最後に「ここはおめえのような小僧が来るとこじゃねえとっとと田舎に帰んな」という言葉を残して。


 (クソ、言いたい放題言いやがって。 俺は帰るわけにはいかないんだ)


 四年、四年という長い長い時間をサヴァンはずっと待ちわびていた。

 全ては己の野望と死に際に言い放ったあの子との約束を果たすために彼は待ち続けていたのだ。

 冒険者の道のりは常に命の危険を伴うアコギな商売だとサヴァンの祖父も言及しているように

命というチップを代償にモンスターの素材集めや依頼を達成することで金を稼ぐ危険な職業だということは

まだ冒険者を経験していない彼自身ですら理解していることだ。

 だがそれでも、いやだからこそというべきかサヴァンは冒険者の頂に挑戦し甲斐があると感じていた。

 この信念は誰に何と言われようと曲げるつもりはないし、例えそれで殺されてしまっても本望だとさえサヴァンは思っていた。 そう、この時のサヴァンはそう思っていたのだ……。


 「よし、いくぞ。 冒険者に俺はなるんだ」


 珍しく『僕……俺』という口癖が出てこないところから彼の本気が窺える。

 サヴァンは意を決して冒険者ギルドへと足を踏み入れたのだった。




 中に入るとそこには木製の使い古したテーブルと椅子が10組ほど置かれており

どうやらミーティングや食事などを取るための場所らしい。

 丁度昼時とあってかクエストを受けに来た冒険者や受けたクエストの詳細を確認しているパーティーなど

建物内が冒険者の喧騒けんそうで賑わっている。

 ギルド内はこれといった装飾品などはなく実にシンプルな造りとなっていて

二十五メートルほど先に複数のブースのようなものが設けられており用途に応じてギルド職員が対応する仕組みのようだ。

 二階に続く階段の上は一階と同じく複数組のテーブルと椅子が並べられているが一階よりも座っている冒険者の数が少なく寧ろ空席のテーブルの方が目立つ。

 サヴァンは入り口から入って一番左側のブースに足を向けた。

 彼がそこに向かった理由は単純明快、そこには【受付】という文字が書かれた看板が立て掛けられていたためだ。

 受付らしいブースに近づいていくと、そこにいたのはギルドの職員である女の子だった。

 若葉色の髪に黄色の瞳が特徴的な十代の少女で貧相ではないが慎ましい体をしているという事が見た目から得られた情報だ。

 その子はサヴァンがやってくるとペコリと可愛らしいお辞儀をするとサヴァンに話しかけてきた。


 「ようこそ冒険者ギルドへご用件をお伺いいたします」


 「あっ、えっと冒険者になりたいんですけど……」


 「はい、登録ですね。 ではこちらの登録用紙に記入をお願いします」


 受付嬢が取り出した縦三十センチ、横二十センチほどの一枚の紙を取り出す。

 記入欄には名前と出身地の項目がある。

 他は簡単な冒険者ギルドのルールなどが記載されていた。


 ルールその1:殺害や略奪目的での冒険者同士の争いを禁ずる。


 ルールその2:クエストで持ち帰った素材は基本的にギルドが買い取るため他組織での取引を禁ずる。


 ルールその3:偽名を使用しての登録は可能だが複数の名を用いての重複登録は禁ずる。


 ルールその4:時と場所と場合に応じてギルドが判断した指示に従う事。


 以上が大雑把なギルドのルールらしい。

 簡単に言えばギルドの言うことをちゃんと聞けと言った所だろうか。


 (まああんまり複雑なルール設けられても理解できないだろうし、妥当なルールなんだろうな)


 サヴァンはそんなことを考えながら記入欄に自分の名と出身地の『名無し村』を記入し受付嬢に渡す。

 

 「ありがとうございます。 名無し村のサヴァンさんですね。

 これで冒険者ギルドの登録手続きはおしまいですが注意事項があります」


 受付嬢の女の子の丁寧な説明は先ほどの登録用紙に書かれた内容の反復で

とにかくギルドの命令は絶対であり指示に従えない者はギルドの登録が抹消されるペナルティーがあるそうだ。

 その他にも眠たくなりそうな細かい説明を聞き流していると最後に登録した者に支給される支給品の説明に移った。


 「サヴァンさん、冒険者ギルドに登録した特典として支援金50ゴルドを支給します。

 それと見たところ武器をお持ちで無いみたいですが、ギルドで支給される初期武器をお使いになられますか?」


 「えっ? ああはい、お願いします」


 「では使用する武器をこちらの5種類の中からお選びください」


 そう言って受付嬢が取り出したのは、短剣、ショートソード、槍、ボウガン、メイスの5つの武器だ。

 どれも使い古されているが武器としてはなんとか機能するレベルのものだ。

 迷いに迷ったが、どうせ最初に使う武器だと思い小回りが効き使い勝手もよさそうだった短剣を選択した。

 

 (初めての武器か……駄目だ手が震えてきた)

 

 まともな武器は初めて持ったのでちょっと緊張するサヴァン。

 彼の心の中の感情を無視して受付嬢が事務的に話しかける。


 「ではこれで細かな説明と支給品の贈与を終了しますが、さっそくクエストを受けますか?」


 「うーん、そうですね。 僕……俺でもできるクエストってあるんですか?」


 「現在のサヴァンさんは登録した直後ですので最下位ランクのGからのスタートですのでこの二つからお選びください」


 ちなみにギルドは冒険者それぞれの実力を9段階の階級でランク付けしており

現在のサヴァンのランクでもある最下位のGから順番にF、E、D、C、B、A、S、SSの9段階に分けられ

さらにCランク以上の冒険者になればランキング制度と呼ばれるものが適用される。

 ランキング制度はCランク以上の冒険者を対象としたものでクエスト達成数やギルドへの貢献度、またギルド判断での実力査定などにより格付けされる順位のようなものだ。

 一番低い順位は10000位だがそれでも冒険者全体の十数パーセント程度の数しかない。

 それを踏まえると冒険者を始めたばかりのサヴァンにとってクエストをこなしランクをCまで上げ

ランキングにランクインすることが当面の目標として決まった。


 本題に戻るが受付嬢が提示したクエストの内容は二つ。

 一つは大手の薬処くすりどころの依頼で錬金術や薬の材料としてよく使われる「メニーごけ」の採取クエストと

もう一つがギルドが直接依頼を出しているモンスター討伐依頼のクエストだった。

 モンスター討伐依頼は具体的なモンスターは指示されていないがモンスターと戦って倒さなければならない。

 一方採取クエストの場合は目的の品さえ採取できれば依頼は達成できる。

 今のサヴァンは冒険者としては駆け出しもいいところだ。

 そんな彼がいきなりモンスターと戦って勝てる見込みは低いだろう。 そのことはサヴァン本人が痛いほど理解している。


 (それならモンスターと戦う可能性の低い採取クエストを選んだ方がいいよね……)


 「こっちでお願いします」


 「はい確かに承りました。 それと申し遅れましたが、私冒険者ギルドの職員をやっておりますマキナと申します。

 今後顔を合わせる機会が増えると思いますので今後ともよろしくお願いいたします」


 「はいこちらこそお願いします。 マキナさん」


 こうして、憧れの冒険者の第一歩をサヴァンは踏み出すことになった。

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