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仮想都市の警察官~実像のない東京と、感情のない少女~  作者: 奈良ひさぎ
第6章:真実はどこに -Facts in Fake World-
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51MB たとえ分断されても

 凛紗の方で何か大変なことが起こった。

 そのことを理解していながら、手は動かしてひたすらテレポートを繰り返し、凛紗の元に一刻も早く駆けつけようとした自分を褒めてやりたかった。もしかするとその場に立ち尽くしたまま、何もできないでいたかもしれない。


「……ド」


 そのテレポートの途中で、ふいに端末から声が聞こえた。


「凛紗! 大丈夫か⁉︎」

「……ああ。大したことはない。ただ、テレポートスポットが破壊された」

「は……?」


 テレポートスポットの破壊。それは通常の方法でi-TOKYOに行けなくなったことを意味すると、オレにも分かった。


「バティスタでもダメだった場合に、私が一旦戻ってヨドを連れて行く、といった手を考えていたんだがな。それも不可能になった」

「ああ。結局何とかして行くしかないんだよな」

「そうなるな……わっ」

「どうした⁉︎」


 再び凛紗の声をかき消すようにして、何かが崩れ落ちるような音がした。しかし今度はすぐに凛紗の声が戻ってきた。


「まずい。ただテレポートスポットを壊されたのだとばかり考えていたが、これも怪物の仕業だったようだ」

「……おいおい」

「無理に動くとかえって危険だと思っていたが、そうも言っていられなくなった。私たちは逃げながら何とか解決法を探る。ヨドは引き続き、i-TOKYOにたどり着くことを目指してくれ」


 オレは分かった、と言いかけて、その前に疑問を口にした。


「凛紗」

「何だ?」

「伊達さんとかバティスタのデータを使うってのは、ダメなのか」

「それは私も考えた。が、無理だと思うぞ」


 凛紗の声が一旦遠くなった。伊達さんやバティスタに呼びかけて手をつないで、怪物に攻撃を加えようとしているのだ。だが、思っていたよりすぐに凛紗の声が戻ってきた。


「やはり無理なようだ。玲やアレクでは、出力するのに十分なデータ量を得られない」

「そんな……」

「それに、こんな非常時で何だが。ヨドの手を握っていれば、敵を見定めることに集中できる気がする。これはさっき玲やアレクと同様のことをして、確信に変わった」

「確信……」


 それはオレを頼りにしている、ということでいいのか。それとも単に凛紗のわがままなのか。だがどちらにしても、オレの答えは同じだ。


「……分かった。オレは絶対にそっちに行く。弱音吐いて諦めるんじゃねえぞ。絶対に逃げ切れ」

「……ふん。何を言っている。こちらは政府の理事が三人も揃っているんだ、そうそうのことでは負けやしないさ」


 凛紗の言葉は挑戦的だった。だが確かに、期待のこもった声でもあった。

 オレは電話を切って、すぐさま端末を地図に切り替える。凛紗の言う通り、クレイスの位置情報らしきものを示す赤い点が地図上に現れた。それからテレポートを何度か繰り返す。


「まるでダメだ……やっぱ、ただの交通事故じゃないのか」


 クレイスの居場所は東京駅から比較的離れていたから、凛紗の言葉を思い出してなるべく大きなスポットナンバーを指定していた。が、転送される場所はバラバラで、最終的に東京駅近くに飛ばされてしまった。オレだけを狙い撃ちしているような感じだった。


「しゃあねえ」


 さらに何度かテレポートを繰り返したところで、オレは諦めて走り出した。決してクレイスの居場所に近いとは言えなかったが、これ以上テレポートをやっていてもらちがあかないと感じた。


「そんなにオレの邪魔するとか……i-TOKYOに何かあるって言ってるようなもんじゃねえか」


 オレが目を細めなくても見えるような距離で、怪物が暴れているのが見えた。そちらを見つめすぎて勘づかれると困ると思って、オレは一瞬見てからすぐに目を伏せて走るのを続けた。……つもりだったのだが。


「ぐっ……!」


 目の前に突然土煙が立ち上る。想定外のことが目の前で起きて思わず立ち止まった隙に、四方をあっという間に怪物たちに囲まれてしまった。オレはめったにしない舌打ちを、無意識のうちにしていた。


「抜ける隙もねえ……」


 警察官として武術の心得は一応あるとはいえ、オレの背丈の何倍もあるような怪物はさすがに専門外だ。体力だけあっても、凛紗がいなければこいつらに効く攻撃は繰り出せない。

 何か人間にはわからない方法で、怪物たちは意思疎通しているようだった。その証拠に、鋭く突き刺すための足があらゆる方向から一斉に飛んでくる。じっとしていても仕方ないのを分かっていながら、オレは反射的に目を閉じて固まってしまった。



「黙って殺される構えをしていても仕方ないだろう。凛紗を助けると、はっきりと口にしたのは誰だ?」



 声が聞こえる。オレのすぐ隣で、安心するような女の子の声色だった。間髪入れず、何者かの手でオレの手が握られる。


「冷た……っ」

「気にするな。末端冷え性なんだ」


 オレを笑わせようと言ったのか?

 それにしては、声が冷たすぎる。感情がこもっていなさすぎる。逆にオレは笑えなかった。


 続いてドン、ドンときっちり四発、爆発音が耳のすぐそばでとどろく。まさかと思い、オレは目を開けた。


「なっ……」


 思わず言葉を失う。さっきまでオレに向かって暗い影を落としていた怪物たちが、きれいさっぱりいなくなっていた。そしてオレの手を握るのは、仮面で顔を覆いながらもきれいな髪をなびかせた少女。


「すまないな。駆けつけるのが少々遅れた」


 亜麻色の髪の少女。

 鉄色の装飾も何もない仮面で隠れて分からない顔以外は、服装や背丈、体つきから髪型まで、凛紗そのものの少女だった。

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