【超短編】彼女から別れ話を切り出されたら
前作『僕は「なろう」で素敵な恋愛小説を書く女性に恋をした』の別バージョンです。
「他に好きな人ができたの。もうあなたとは会えないわ。ごめんなさい」
おれは一年間付き合っていた彼女から、そう別れ話を切り出された。
「そうか、わかったよ。しかたない、別れよう」
実はおれにも他に好きな人ができたので、別れたいと思っていたのだ。
彼女のほうから切り出してくれて、助かった。
おれはこっそり「小説家になろう」で小説を書いたり読んだりしていたが、
とても素敵な恋愛小説を書く人を見つけ、感想やメッセージを交換するうちに、
会ったこともない作者の女性に恋をした。そして彼女も応じてくれたのだ。
顔も見たことがないが、おれは人間は外見より性格や人柄だと思っている。
彼女のほうも同意見だった。
これまで付き合っていた恋人とあっさり別れることができたので、
おれは新しい彼女と初めてリアルで会うことになった。
なにぶん顔も知らないので、客の少ない小さな喫茶店で待ち合わせた。
彼女の目印は白い帽子に緑のシャツ、茶色のスカートに赤いハンドバッグ、
おれの目印は青いポロシャツに薄茶のチノパン、黒のショルダーバッグだ。
喫茶店に入ると、彼女はもう席に座っていたが、おれを見て驚いた顔をした。
おれも彼女の顔を見て驚いた。それはつい先日別れたばかりの恋人だった。
二人とも目印がはっきりしているので、言い訳の余地はない。
お互い気まずかったが、おれたちは仲直りし、再び恋人同士となったのだった。
うーん、ちょっと途中でオチが読めてしまうかも……
(追記)投稿し終わってから考えてみたら、登場人物を夫と妻にして、最初の別れ話の部分をカットし、お互いに浮気のつもりで実際に会ったら、相手は自分の妻(夫)だったとした方が、オチが読まれにくいし、気まずさも倍増したかな、と思いました。ただ、それと似たモティーフはモーツァルトの『フィガロの結婚』にもあったような気がします。