表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

マジカルねんね!~ドラゴン猟師の非日常~(15)

 王都の郊外で王国軍VS魔軍の大戦闘が始まった。両者が正面からぶつかり合い、方々で魔法の光が飛び交った。

『ヘッヘッヘッヘッ、滅びてしまえ!貴様らを倒したら、次は世界征服だ!』

「我が軍が押しています!この戦、勝てます!」

 魔王と魔将軍の歓喜の叫び。それを聴いてロンダーは戦場の真ん中で立ち尽くした。

「退いてはなりません!押すのです!」

 薙刀で魔物を斬り付ける女王。

「そりゃっ!」

 あたしも負けじと魔物を両断する。

「ネネっ、魔法で援護してくれ!」

 タムはネネに飛びかかった魔物を突き刺した。彼女の盾に徹するつもりだ。

「もう収拾がつかなくなっちゃったでちね。」

 そのネネが、ゆっくりと杖を掲げた。

 やがて先端の宝玉から光が漏れ出した。

『むっ!』

「まさかネネ君が!」

 魔王と魔将軍は逸速く異変に気付いた。

 ネネの全身を強烈な光の靄が包み込み、それが杖に凝縮されていく。

『マジカル寝ん寝――!』

 彼女が杖をバトントワリングの要領でクルクル回すと、宝玉から溢れた濃厚な光が螺旋の尾を引いた。

 ロンダーは突っ立ったまま光源に目を移す。

 女王や重臣、兵士たちは光の中で魔物たちとの交戦を続ける。

 あたしとタムは背後から光に照らされる。

『寝ん寝子ねん!』

 この瞬間、パラミレニア王国に“三度目”の超強力“爆睡魔法”が炸裂した。

 ネネが杖を振り下ろすと、全方位へ向けて閃光が解き放たれ、そこにいる全ての者が光に包まれた。


 辺りがシ~ンと静まり返る。唯一人、魔王だけがそこに立っていた。

『あ、あれ……?』

 呆気に取られて辺りを見回す魔王。魔軍も近衛隊も、みんながその場に倒れて熟睡していた。

「さすが魔王ちんでちね。ねんねのお眠の魔法が効かなかったでち。お眠の魔法は効き目が弱いでちから、ねんねも昔は苦労したでち。」

 ネネの足元では、あたしとタムが仰向けで寝ている。女王も、足を折り畳んで熟睡する白馬の上で俯せに寝ている。重臣や兵士たちも、魔物と入り乱れて寝ている。ロンダーも大の字で寝ている。

『アアアアアアッ!?』

 魔王は自分の足元に転がる魔将軍に目を止めた。彼も大の字だった。しかも同じような大イビキを掻いている。ロンダーの血を引いているというのは嘘ではないようだ。

『貴様がやったのか!?』

「邪魔だから寝ん寝してもらったでち。」

(これだけの人数をいっぺんに!)

 驚きを露にする魔王。

「もう一回だけ訊くでち。ねんねの“しもべ”になるでちか?」

『抜かせぇっ!』

 魔王は怒りに任せて魔力を沸き立たせた。

「待つでち!」

 と、ここでネネが左手を前に突き出して魔王を制した。

『怖じけづいたか!?』

「ここでケンカしたら、いろいろと巻き込まれるでちよ?魔王ちんも部下が減ったら困らないでちか?」

『うッ……確かに。』

「ねんねも部下が減ったら困るでち。」

 ここにいる人間は、みんな彼女の部下らしい。

「あっちに行くでち。」

 ネネは親指を立てて横を差した。王国軍と魔軍の境界線を延長した方向だ。

『うむ、分かった。』

 ネネと魔王は互いに牽制しながら横に並んで歩き始めた。その内、だんだんスピードが早くなり、土煙を巻き上げ始める。もちろん、ネネの両脚は車輪のように高速回転して見える。

 やがて両者は魔軍と近衛隊の間を抜けた。

 キキキキキッッッ!

 一斉に急ブレーキを掛けて止まる。

『マジカル寝ん寝、寝ん寝子ねん!』

 先手必勝だ。ネネは体の横で杖を回し、爆睡魔法を発射した。光弾が地面すれすれのところを飛んでいく。

『ぬぅおおおっ!』

 魔王は両手を翳して、それを受け止めた。

『クッ、ソ!』

 瞼が半分下りながらも、歯を食い縛って眠気を撥ね除ける。さすがは魔物の王者だ。

「効かないでちか。」

『他の魔物と一緒にするな!』

 今度は魔王の攻撃だ。ボールを投げるポーズから巨大な光弾が投擲された。

 ネネは横目で光を見ながら助走をして右に大きくジャンプする。光弾はその真横を通り過ぎて後方で大爆発を起こした。

『マジカルしぃ~しぃ――!』

 爆発の光に照らされながらも、彼女は空中で呪文を唱えた。

『オシッコしぃ~っ!』

 杖を下から振り上げる。振った勢いで体がクルリと回って光弾が飛んだ。彼女は四つん這いで着地し、光弾の行方を目で追った。

 魔王は攻撃を避けようと横に跳んだ。

『グハッ!』

 しかし、動きが鈍いのでネネの魔法が腰に直撃する。

『グオオオオオオッッッ、小便が、おのれ、セコい魔法を!』

 着地したところで、魔王は両手で自分の股間を圧えた。

「うーむ、たしかにセコい魔法だと勝てないでちね。」

 言いながらネネは杖を振り上げる。

『またか!』

 対する魔王は股間に片手を置いて身構えた。無様である。

『ドラゴン来い来い――!』

 振り上げた杖をクルクル回すると、いつぞやのように上空に巨大な魔法陣を現れた。

『こっちゃ来い!』

『ドラゴンだと!?』

 上空を見上げる魔王。

『――召喚――!』

 魔法陣の底面からドラゴンの四肢が湧き出した。完全に体が抜け出すと、巨体が自由落下を始めた。ドラゴンは首の長い陸上タイプで、皮膚の色は白色に少し血管の色が浮き出てピンク色になっている。

『カアアアアアアッ!』

 ドラゴンは魔王を目標として捉え、下向きに吼えた。

「魔王ちんを食うでち!ひさしぶりのご馳走でち!」

『ぬアアアッッッ!』

 魔王は対抗しようと手を翳すが、

 グシャン!

 さすがに落下のエネルギーには勝てなかったようだ。魔王はドラゴンの下敷きになった。

 ドラゴンが上、魔王が下になる形で攻防が始まった。

『カアアアッ!』

 早速、魔王の肩に噛み付いて火を吐くドラゴン。これは魔物の血が混じったマジックドラゴンなのだ。口の部分を中心に炎を帯びた爆風が拡がった。

『グアッ、クソォッ!』

 たまらずに魔王はドラゴンを撥ね除ける。ドラゴンは横に倒されるが、それでも一回転して起き上がった。

『カアアアッ!』

 今度は離れた場所からの火炎放射だ。

『喰らえ!』

 魔王も衝撃魔法で対抗し、突風で火を押し戻した。

『カアアアッ!』

 ドラゴンは自分の火と衝撃を喰らって後ろに飛ばされる。このままでは形勢が不利だ。

 しかし、ご心配なく――

『マジカルつんつん、オナカがつ~ん!』

 魔王の背後から腹痛の魔法が発射され、それが腰の辺りに突き刺さった。

『ガッッッ!』魔王は一度エビ反りになり、『だぁぁぁっ!』次の瞬間には両手で腹を圧えた。

『貴様ぁっ!』振り返って右手を突き出すが、すでにネネはいない。『何処だ!?』

 辺りを見回すと、

『マジカルずきずき、頭がずき~ん!』

 自分の足元に、ネネが光る杖を持って構えていた。

『ヒイイイッ!』

 魔王が初めて恐怖の表情を見せた。その巨体が大きく退け反ったところを光弾が通り過ぎ、上空に消えていく。

『マジカルかっか――!』

 またまたネネの魔法だ。相手に体勢を立て直す隙を与えない圧倒的な連打連打、また連打!

『うわアアアッ!』

 魔王は後ろに転げるようにして逃げた。

『お熱がか~っ!』

 それでも杖の宝玉から複数の光弾がばら撒かれ、その中の何発かが魔王の背中に命中する。

 さきほどから魔王の攻撃はすべて空振りなのに対し、なんとネネのそれは九割方命中していた。

 出力はともかく、すばしっこさや命中精度はネネが圧倒的だった。

『グッッッ!』

 魔王は頭から湯気を立ち昇らせ、あまりの苦痛に顔をしかめた。

(この魔王ミレニアムが、小娘一人に逃げ出すとは……!)

 もう逃げる事しか考えていなかった。

 その足元に、倒れたドラゴンが迫っていることに魔王は気付きなかった。

『カアッ!』

 ドラゴンは魔王に向かって尻尾を伸ばした。

『どぅわっ!?』

 魔王はドラゴンの尻尾に片足を搦め捕られて豪快にスッ転んだ。対するドラゴンは、ここぞとばかりに起き上がって魔王の背中に伸し掛かり、下向きに火を吐いた。

『あぢぢぢぢぢぢ!』

 翻筋斗打って抵抗する魔王。しかし、ドラゴンの固定は解かれない。

「そのまま押さえつけてるでち!」

 このチャンスを逃すまいと、ネネは杖を振り上げた。

『マジカルかちかち、体がかち~ん!』

 金縛りの魔法に違いない。

『くッ…またかぁっ!?負けるものか!』

 魔王はネネが発射した光弾を両眼に捉えると、クルリと仰向けになってドラゴンに掴み掛かった。

『カアッ!』

 下から引っ張られて、光弾が飛んで来る方向にバランスを崩すドラゴン。そして、ネネの魔法はドラゴンに突き刺さった。

『カアアアアアアッッッ!』

 悲鳴と共にドラゴンが硬直した。

「しまったでち!」

『馬鹿め!』行動不能に陥ったドラゴンを下から蹴飛ばし、魔王は起き上がる。『消えて無くなれ!』

 横倒しになったドラゴンへ向けて、魔王は右手を突き出した。光が迸り、巨大な光弾が解き放たれた。

「ピーチちゃん!」

 ネネがドラゴンの名前を叫んだ。が、もう手遅れだった。


 カッドォォォォォォォォォンッッッ!


 光弾の直撃を受けたドラゴンは悲鳴も上げずに吹き飛んだ。後には黒焦げになった亡骸だけが残された。

『ヘッヘッヘッヘッヘッ、ドラゴンが何だというのだ!口ほどにも無い!』

「あああっ、肉が!最高級ドラゴン肉が台なしでち!金貨二千枚の損害でち!」

 なんだか論点がズレているような気が。

『今度こそ死ね!』

 魔王によって光弾が乱射された。小さなものが、ネネに向かって無数に飛んで来た。

「ほっ!はっ!ふんっ!」

 ところがである。彼女は体をクネらせ、腰をフリフリ、踊るように攻撃を躱すのだ。

(全部避けられてるし!)

 内心、魔王は取り乱した。撃っても撃っても攻撃が当たらない。ネネは魔法だけでなく、超人的な体術をも使いこなしていた。

「こんなのパパちゃまのシゴキに比べれば屁でちよ、屁。プププのプーでち!」

 魔王の光弾は彼女の後方で小爆発を繰り返すばかりだ。

『マジカルぴ~ぴ~、下痢下痢ぴ~っ!』

 しかも避けるついでに体を回転させながら杖を振う。

 今度はスポポポポーン!とネネの光弾が乱射された。

『来たぁぁぁっ!』

 その全てが魔王の体に突き刺さった。

 グルグルグルグル~!

 途端に腹の調子がオカシくなる。下痢ピー寸前のようだ。

『グオオオッ!』

 前だけでなく、魔王は尻の方も手で圧えた。

 魔王の光弾が止んだので、ネネは踊りをやめて向き直った。そして、もう一発――

『マジカルげろげろ――!』

『まだあるのかぁっ!』

 もはや魔王は涙目だった。

『口からげろ~っ!』

 その土手っ腹の辺りに光弾を叩き込む。

『オエエエエッ、うっぷ……!』

 魔王は口を圧え、吐く寸前で胃の内容物を飲み込んだ。

(マズい!こいつの魔法、我慢しているだけで、どんどん魔力を殺がれる!このままでは負けるぞ!)

 その全身から脂汗が噴き出した。

「早く楽になればいいでち。上から下から前から後ろからガマン汁を全部出せば楽になるでち。でも、そのあいだにねんねがトドメを刺すでち。」

 牽制とも取れるネネの発言。腕組みをして、杖の宝玉で自分の肩をポンポン叩くポーズだ。

(あの杖か!あの魔法の杖を何とかしなければ!)

 魔王は初めて、ネネが持つ杖の危険性を認識した。すぐさま彼女の武器を封じる作戦を遂行する。

『ホゲェェェポォッ!』

 突然、圧えていた口から数十体の小型魔物が吐き出された。例の黒キツネである。

『者共っ、あの杖を奪うのだ!』

 片手を尻に置いたまま、魔王はネネの持つ杖を指差した。

「えっ!?」

 慌てた様子で右往左往のネネ。右左から複数の黒キツネが迫った。

『キィィィッ!』

 甲高い鳴き声を上げて魔物がネネに襲いかかった。対するネネは、

「あっち行くでち!」

 杖で直接殴ったり、

『マジカルじんじん、手足がじ~ん!』

 周囲三百六十度を魔法で薙ぎ払ったりして、何とか黒キツネを全滅させた。そのはずだった――

『ふっ!』

 なぜか魔王が嗤った。

『キィィィッ!』

 その時、薮に潜んでいた一匹の黒キツネが、背後からネネの右腕に飛びかかった。杖に噛み付いて、それを奪い去る。

「あああっ、ママちゃまの杖が!」

 追いかけるが、相手は物凄い素早さで魔王の肩に駆け登った。

『いい仕事だったぞ!』

 魔王は黒キツネから杖を受け取り、左手の指に摘まんだ。

『これで貴様は魔法が使えない訳だ!』

「ま、ま、ま、まずいことになったでち!」

 ネネは恐怖の眼差しで魔王を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ