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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
閑話 壊れた英雄

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壊れた英雄 2

日の出前の青暗い朝靄(あさもや)の中、大小二つの影が激しく動いていた。

視界の悪さもこの二人にとっては何の障害のもならないらしく、木剣の交差する乾いた音は絶え間なく響く。

しかも、真剣こそ使っていないものの一つ間違えば容易く骨を砕き肉を裂くと言うのに、この二人の動きには一切の躊躇いは見られない。


片や不測の事態が起こったとしても瞬時に対応できる自信から


片や全力で挑んでも相手が遅れを取る事はないと言う信頼から


事情を知らない者が見たら『殺し合っている』と誤解しそうなほど気迫の籠った動きを続けていた。


息つく暇もない応酬の合間にゴーザの剣が薄く光を放って振り降ろされると対するユウキも慌てて剣を光らせてこれを受けた。

尾を引く二つの光が流れ、『カンッ!』と音を残して離れてゆく。


「発動が遅い。せめて3系統の重ね掛けを間に合わせろ。神を相手にした時にはその遅速が死生を分けるぞ。」


有無を言わせぬ声が飛ぶと、再び影が交じって乾いた音を響かせた。




あの騒乱の最終局面で、ゴーザは神殺しの力をユウキのものと誤認させた。

それはリューイの能力を隠し護る為ではあったが、同時にユウキを神々の前に押し出して渦中に巻き込むことを意味していた。

今後、ユウキに対して敵対する神や干渉してくる神は間違いなく増え、身体(にくたい)精神(こころ)を脅かす事態は否応なく訪れる事だろう。


その時に神威を跳ね返せる力があれば格段に有利な状態で対峙する事が出来る筈だ。

ゴーザによる訓練が、より厳しさを増したのはこうしたりゆうからだった。


それまでロジックサーキットによる精緻な動きと連携に重点を置いていた鍛錬は、重ね掛けを戦術に組み込む為のものに変わり、セレーマを集約させる密度と速さ、そして自在に操る為の変転の速度を鍛えるものが加わった。


また、手にする武器も長短の双剣に変わっている。

訓練では木剣を使っているが実際には威力重視の長剣と中距離攻撃の魔導具を組み込んだ短剣を使うことになる。

共にゴーザの指示による特注品だが、短剣の魔導具は頑丈だが威力の低い低級エリアルを使っていた。

長剣が一般的な魔導兵器(マギア・ケイタ)であるのに対し、短剣はセレーマのオーバーフローを起こさせて神族に対抗する為の装備だからだ。


こうして装備を整え、重ね掛けの威力と速度を磨き、自在に使いこなす術を叩き込んで命と自由と誇りを守る力を研ぎ澄まして行く。


ゴーザはリューイを護るためにユウキを見捨てたのではない。

否応なく険しい道に追い込んしまったが、共に家族を護る者として逆境に飛び込むと信じていた。


「ありがとう」


そして、実際にゴーザが全てを話した時、そう言ってユウキは笑ったのだった。




◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆




新たな訓練を始めてしばらくして、ユウキは幽かな違和感を覚える様になっていた。

最初の頃はそれが何なのかさえ分からなかったが、しばらくするとゴーザの動きがおかしな事に気づく。

木剣を光らせる時、流れる水の様なゴーザの動きがほんの少し乱れるのだ。

最初は拙い(つたない)ユウキの動きに合わているのかと思ったが、見ている内にそれも違う気がした。

まるで違うパズルのピースを無理やり押し込んでいる様に、そこだけが(いびつ)で馴染まなかった。

いっそ聞いてしまおうかとも考えたが、これ自体がゴーザの出した宿題の可能性もあるので迂闊な行動は藪蛇になる可能性があって躊躇われた。

答えの出ないままゴーザを観察する日々は続き、やがてこうして考えさせること自体が狙いなのではないかとさえ思い始めていた。


しかしその答えは意外な所から与えられることになる。




「お父さんが能力を失くしている!?」


ある日、訓練が終わって部屋に戻ろうとしていたユウキは両親の部屋から聞こえた声に思わず足を止めて息を潜めた。


「あの事件を境に太刀筋が悪い方に変わっているから間違いないだろう。」


「それは、あの時にお父さんも炎に囚われたから?」


「いや、それだけなら問題はなかった筈だ。おそらく精神支配を仕掛けて来た神威を無理に振り払ったのでその時に精神が―――ロジックサーキットが壊れたのだろう。普通の人間ならその時点で廃人だった。」


「じゃあ、お父さんはもうフェ()ネルじゃないのね。ふ~ん・・・ゴーザ・フェネルか・・・いいんじゃない。」


アラドーネの声には仇敵の末路を聞いた時の様な晴れやかな喜びが込められていた。

一方で夫カイルの口調にはやや重苦しさが残る。

同じキャラバンに所属するカイルにとって、ゴーザの能力は自身の安全に影響するからだ。


だが大きすぎる義父の存在は色々と思うところがあったのだろう。

結局は妻と一緒に状況を歓迎する事にしたらしく、盗み聞きするユウキが気づく程その声音は軽くなっていった。


「最近は数日おきにコルドランに入り、上層で自身を鍛え直しているらしい。しかし以前の戦闘力を取り戻す事は不可能だろう。元々複数のロジックサーキットを駆使した戦闘スタイルでやって来たんだ。今更足掻いたところで数十年に渡って研鑽してきた戦略を越えられるものではない。ほとんどの探索者があの歳になる前に引退するか死んでいるんだ。これを機会に引退を勧めてもいいかもしれないな。」




フラフラと部屋に戻った勇気はベッドに倒れ込んでいた。


(おじいちゃんが探索者を辞める!?)


ユウキにとってゴーザは厳しい師であると同時に決して届かない目標だった。

そしてゴーザもまた、自分の天職として誇りと気概を持って未知なる世界に挑み続け、長い探索行から帰ると子供の様に冒険の話をしていた。


(僕の所為だ。僕があんなことに巻き込まれていなければお祖父ちゃんがあの神(トードリリー)と対峙する事はなかったし、心を壊してまで抵抗する事もなかったんだ。)


聖堂の苦しそうなゴーザを思い出して、ユウキの心が痛んだ。

だが同時にゴーザが探索者を辞める事など想像が出来なかった。

誰にでも病傷老苦は訪れ、運命の奔流が全てを押し流してしまう事を避ける術はない。

しかし訓練で垣間見るゴーザの精神には以前と変わった所など何処にも感じられなかった。


(確かめよう。)


一つの決意を胸に、ユウキは動き始めた。

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