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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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第1章 最終話 戻れない日々 5(スケープ・ゴート)

本日2話投稿です。

ご注意ください。

「どうした。早う褒美を受け取るがよい。何、遠慮は無用ぞ。そなたはそれだけの事をしたのじゃ。胸を張って我の庇護を受けていると知らしめるがよい。」


そこまで言われてもユウキに動く気配はなく、見上げた瞳がヒタとアストレイアを見つめている。


ユウキは最後の力が自分のものではないと感づいていた。

それまで注いでいたセレーマが圧倒的な力で上書きされたのだ。

手ごたえが無くなった事に気づかない筈はなく、それを誰が成したかなど考えるまでもなかった。

もしも、アストレイアの言葉に少しでもリューイの事があれば、ユウキの対応は自ずと異なるものとなっていただろう。

だが実際には真実に気づく事も、気づく余裕もアストレイアにはなく、そうであれば他人の手柄を横取りするつもりもリューイの名前を出して余分な騒動に巻き込むつもりもないユウキが従う謂われはなかった。


それに・・・

漠然と感じている事があった。


「ええい、謙遜は美徳なれど、過ぎたれば無礼とも取られるもの。我は寛容ゆえ怒りはせぬがこうして顕現しているのも限りがある。疾く(とく)済ませよ。」


幾分荒々しさを増したアストレイアの言葉にもユウキが慌てる事はなく、むしろ落ち着いた静かな気持ちが言葉となって紡ぎだされた。


「アストレイア様、僕にはそれを受ける事はできません。」


長い沈黙の末にユウキが口にした言葉を聞いてアストレイアは怒るどころか激しく動揺した。

まさか自分の加護が拒否されるとは思ってもいなかったのだ。


「な、何を言っておる。邪神討伐となれば英雄として称えられるのに何も不足はない。それはあの者と殺し合ったそなたが一番良く分かっておろう。」


「僕はあの人を殺していません。たぶん、追い払っただけでは死んでないと思いますよ。」


「そのようなことは関係ない。神とは概念。厳密な意味で神を殺せる者などいない以上、古来より顕現体を消滅させる偉業を持って神殺しと言うのじゃ。それに殺していないと言うのであれば、あの者はそなたを恨んでいよう。ならば尚の事、我の加護が必要となろう。」


「僕にはあの人が邪悪だとは思えないんです。だから、ごめんなさい。邪神討伐なんて名誉はいりません。」


「分かっておるのか?彼の者を『邪神』とせねば、そなたは泡沫とはいえ『ただの神殺し』となるのじゃぞ。さすれば教会をはじめとする様々な人間どもの思惑に巻き込まれ、あるいは背徳の徒として追われるやも知れぬ。それでも良いと言うのか?そなたの家族とて無関係とはいかんのだぞ。」


「それは・・・」


「アストレイア様、孫の件はそれぐらいにして頂けませんか。」


それまでユウキとアストレイアの話を聞いていたゴーザが静かに割って入った。


「孫はまだ子供故、加護だ庇護だと言っても理解しきれないのでしょう。」


「ならば、受け入れる様にお主が説明せよ。身内が話せば子供とて分かるであろう。」


言い方は上からの命令なのだが、その様子には余裕がない。

必死とさえ思える程、利を説き、情を説き、慈悲を謳う。


「この子の力を褒めて頂きましたが、セレーマに関しては幼き者が思わぬ強い力を使う事は多々あることです。ただ、そのような者でも長じて凡百に成り下がる事もまたよくある事。孫を評価してくださった事は嬉しいのですが、『今後、孫が何かを成し得た時に、アストレイア様に変わらずその御心があれば』ということにして頂きたい。それにこの子はまだ学ばなければならない事が多いのです。そのようなものが庇護など与えられていては、どの様に増長するか予測できません。あるいは遊び半分で教会に忍び込み、木剣を振り回す様な愚か者になるやも知れません。」


その時、目の前でぱらりと石屑が落ちたのをゴーザは見逃さなかった。


(やはりそうか。何かを隠しているかと思えば恐怖か。)


ゴーザが見抜いた通りアストレイアは恐れていたのだ。

聖誕爆発(ノヴァ・イクリクシス)はトードリリーの顕現体を消し去った。

本体がどの様になったかは神界に戻らなければ分からないが、顕現体からつながる経路に莫大な力が逆流していったのは感じられた。

あれでは仮に消滅していなくとも無事でいられる筈がなかった。


それは『顕現体に起こった事は本体に影響しない』と言う常識が崩れた瞬間だった。


経路が繋がっていれば力は逆流し得るのだ。

ただ、通常は神の本体の方が、『圧倒的に位階が高いので流れを逆転させるほどの差異が生じない』だけだった。


アストレイアが恐れたのは、『目の前で起こった事が、教会に有る神像では起こらないのか?』という事だ。

顕現体程ではないが、人が崇め祈る神像は存在力を送る経路が確かに存在する。

もし、どこかの教会に祀られている自分の像にあの力を使われたら、果たして無事でいられるのか。


それどころか、もっと手軽な絵画の場合はどうか。

条件が揃えば、『思っただけ、祈っただけ』でも経路が繋がる事はある。

あるいは象徴する物さえ必要としないかもしれなかった。

そして、神々にはその経路を閉ざす方法がない。

閉ざせば自身が消える事になる。


トードリリーに縛め(いましめ)られ、カエルに変えると脅された事が頭を過った。

何としても加護という名の鎖で繋ぎ留めてしまいたかった。


しかし・・・


「邪神討伐の件はアストレイア様が秘して頂ければ問題はないでしょう。良くも悪くも儂の名で広まり、孫たちが表に出る事はありますまい。」


「お主、身内の手柄を横取りするつもりか。」


「それが孫たちの為ならば、自分の誇りを汚す事に何の未練もありませぬ。それとも、孫の意にそわぬ事をお望みになられますか?後々癇癪を起した孫を宥めるのも老骨には一苦労なのですが、それでも強制されますかな?」


もちろんユウキがその様な醜態をさらす事はあり得ないのだが、アストレイアの脳裏には泣きわめいて木剣を振り回す子供の姿が思い浮かび、再び石屑が舞った。


「い、いやこれは我からの褒美じゃ。『要らぬ』と言うものを押し付けたい訳ではない。それでは我が権能で人属の事は取り計らい、それを持って褒美として進ぜよう。だが、神界はまた別のことぞ。今回の事で多くの神がそなたへと目を向ける事になる。様々な神が己の意を遂げようとしてそなたの前に現れ、否応なくその思惑の渦に巻き込んで行くだろう。努々(ゆめゆめ)以前の日々が続くとは思わない事だ。」


眉根を寄せて厳しい警告をしたアストレイアも、全く表情を変えないユウキを見て力を抜いた。


「加護の件は取りやめるが、我はそなたを見ている事にする。何かの折には頼るがよい。」


最後にそう言い残してアストレイアは神界へと帰って行った。

直後にゴトンと音を立ててアストレイアの像からひび割れた首が落ちて砕け散った。


後に邪神トードリリーの討伐は英雄ゴーザの逸話を飾り、英雄の所業なればと直ぐに街角の噂話にしか登らなくなった。


一方、上級神アストレイアが気に掛ける人間としてユウキは神々の注意を引く事となる。

しばらくして、神界ではユウキを巡る様々な動きが起こり、平穏な日々は終わりを告げるのだった。


こうしてゴーザの思惑通り、生贄のカツィーカ(スケープ・ゴート)は見事に真実を隠し果し(おおし)、見えない歯車が一つ進む事となった。



今まで支天神話を読んで頂き有難うございます。


2章邪神の森に続きます。

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