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支天神話 ― 片翼の大神に目を付けられた僕は妹の未来のために足掻き続ける ―  作者: ゆきと
0章  予言の子

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戻れない日々 3

「はぁー!はぁー!はぁー!・・・わ、私は戻れたのか?」


神界の一角で荒い息を吐いたトードリリーが膝を着き、自分は本当に存在しているのか疑う様に震えの治まらない手を見つづけていた。


注がれた膨大なセレーマによって顕現体は消滅したが、大本(おおもと)の存在自体は神界に戻る事ができたようだ。


「あの少年の剣は、どうやら痛みを伝える事はできても神界の原則にまで干渉する事はなかったらしい。」


安心すると共に言い知れぬ怒りが湧き上がってくる。


『存在を消滅させられるかもしれない』


その恐怖は痛みで混乱した彼女が勝手に感じていただけの事で、別にユウキが唆した(そそのかした)訳ではない。

しかし、震える程の恐怖は容易く怒りへと変わり、それを与えた少年へと矛先を向ける事となる。


「よくも私を陥れてくれたな・・・直ぐに戻って思い知らせてやる。」


握った拳が先程までとは違う理由で震えた。




「お帰りなさい、トードリリー。無事で何よりですね。」


「はッ!エ、エフィメート様・・・。」


いつの間にか両目を閉じた神々の長が偉丈夫の男神を従えて背後に立っていた。

従えるビアー神は圧倒的な力を誇る武神。

暴力の化身として多くのまつろわぬ者達を滅してきた実績はあるが、慈愛を謳うエフィメートが普段から連れ歩く存在ではない。

だが、それをあえて従えて来たのは・・・神界に居る者でその意味が解らない者など誰一人としていないだろう。


「あ、あのですね。エフィメート様。今回の件に関しては少し説明をさせて頂きたいのですが・・・」


目が合ったらすぐに襲い掛かって来るような気がしながらも、ビアー神を見ずにいられるほど覚悟は出来ていない。

必然的に視線は不自然に泳ぎ、それだけで何か後ろめたいことがあると言っている様なものだった。


「ええ、構いませんよ。」


しかしそれを指摘するつもりはないのか、エフィメートは静かに答えてトードリリーが話始めるのを待っている。

その様子に少しだけ気力を取り戻して、自身の未来を掛けた弁明を始めた。


まずは事の経緯を説明し、自分の神威を如何なく発揮した事で目的だったプロムの憑代となる少女を見つけた事、その過程で配下に置いた人間を従える為に行き過ぎた言動を使わざるを得なかった事、そして確保する寸前の所でアストレイアに介入されて撤退せざるを得なかった事などを、実に自分に都合の良い理屈に組み上げてゆく。


(上手くいったか?この流れなら私の言動は『使命を成す為に必要だった』と言い切る事ができる。あるいはやり過ぎだと注意される事はあるかもしれないが、表だって罪に問うまではされない筈だ。後は時間を稼ぎ、その間に細部の辻褄を完璧に合わせれば今回の事は乗り切れるに違いない。)


表面では恭順の意を示し、内心では上手くやったとほくそ笑んだ。


「トードリリー?」


慈愛に満ちた声はどの様な楽器にも追随する事のできない至高の音色となり、自分一人の考えに浸っていた存在に届く。

はっ!と顔を上げると優しく微笑む姿。


「あれ程の神威の暴走に撒き込まれたと言うのに、良くぞ戻りました。あなたが戻って来る運命はほとんどないと思っていたのに、運が良かった様ですね。」


「ええ、本当に運が良かったとしか言えま・・・!エフィメート様?今、何とおっしゃいましたか?」


「あなたが戻って来る運命はほとんどなかったと言ったのですよ。特に戻らない様に仕組んだ訳ではないのですけれど本当に良かったわ。」


「えっ・・・何を・・・。」


「今回の事はあの子たちの心に『邪な神に気を許さない』様に警戒心を持ってもらいたかったから。あなたが騒動を起こし、その過程で得た力の暴走であの子達と敵対する事も全て予定通りです。だから、その間の言動についてそんなに心配しなくてもいいのよ。トードリリー。」


くすくすと笑う主人を目にして、安心したトードリリーは崩れる様に座り込んでしまった。


(全てこの方の目論見通りに踊らされたのか。)


「あはは、敬愛する主様のお役に立てたのなら光栄です。」


どこか虚しく響くが笑うしかなかった。


「これからも私の為に尽くしてくださいね。期待していますよトードリリー。」


この一言で今回の役目が本当の意味で終わりを迎えた。

肩の荷が下りて上擦った気持ちがストンと地に着いた気がした。

そして、落ち着いたからこそエフィメートとのやりとりがいつもと違う事に気づいてしまった。


「ところでエフィメート様。何故私の事を『トードリリー』と仮の名前で呼んでいるのですか。もう終わったのですから、いつもの様に呼んで頂きたいのですが。」


今回の事は忘れて元通りの日々に戻りたかった。


「何を言っているの?あなたはもうトードリリーなのよ。他の名前などで呼ぶことはできないわ。」


「ご冗談を。私には『トリキル○※%』と言う真名が・・・!な、名前が・・・なぜ自分の名前が言えない!」


「神の名前はその存在と結びついているのよ。仮初めのつもりであればともかく、自分の真名として違う名前を名乗る事はできないわ。」


「そんなバカな!私は確かに『トリキル○※%』です。人間として生を受け、聖人とまで呼ばれた末に神籍に引き上げて頂いた者です。あの聖祭だって私の偉業を人々が湛えた(たたえた)からこそ『トリキルティスの聖祭』と呼ばれている。間違いなく私こそが『トリキル○※%』です。」


「そうですね。かつてのあなたは確かにその様な存在でしたね。ですが、貴女は変わってしまいました。あなたもやっていたでしょう?人々の認識が変われば自分の姿さえ変える事ができると。あれと同じです。」


「そんな事はあり得ない・・・神々の基本となる存在力は人の無意識領域での認識に基づいています。言わば全人類の総意が神を神たらしめているのですよ。表面的な姿形ならともかく、私の神格そのものを変える事などエフィメート様にだってできない筈です。」


「普通であればそうなのでしょうね。ですが最後に注がれたセレーマは刹那の事とは言え全人類の想いを超えてしまいました。あの子達はあなたの事を『聖なるトリキルティス』ではなく、『邪悪な神トードリリー』として世界に焼き付けたのです。」


「そんな・・・」


不意にビタンッ!と何かが床に打付けられる音がした。

恐る々々振り返ると自分の背後から伸びた尾がウネウネと動いていた。


「ああっ!」


美しかった顔が鱗に覆われ、裂けた口に尖った牙が生えて行く。

たおやかな四肢が鱗に覆われ、太さを増して魔物の様に変わって行く。


「あの子達はこの神界にあなたがいる事を認めなかった。直ぐに現界のどこかに転移する事でしょう。もう会う事はないと思いますが元気でいてくださいね。トードリリー。」


「顔が・・・私の美しかった顔が、姿が醜く変わっていく・・・こんなことって。これも貴女の目論見通りなのですか!答えて下さい!いや・・・答えろ!エフィメ――――ト――――!」


掴み掛かろうとした手がエフィメートに届く前にその姿は神界から消え失せてしまった。

後には何もなかったかの様に、静かないつもの風景が広がっていた。


「念のために付いて来ましたが、必要ありませんでしたか。」


「いいえ、あなたの心遣いは嬉しく思いますよ、ビアー。」


「ですが、あれ程内情を話してしまって宜しかったのですか?あれでは御身を恨んで良からぬ事をするでしょうに。」


「元々あの者の行く末については興味がありませんでしたから。最後の瞬間に顕現体と一緒に消滅してしまうものと思っていましたが、あの娘が敵対者に望んだ事が『大好きな兄から離れて欲しい』事だけだったのが幸いしましたね。」


「今までも、これからの事も全ては御手(みて)の内ということですか。」


問い掛けた男神に返る言葉はなく、寂しそうに微笑んだ片翼の背中が静かに遠ざかって行った。





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